2021年の今、まさかこの年に映画館にこの2作品が帰ってくると思いませんでした。

 『GHOST IN THE SHELL / 攻殼機動隊』そして『マトリックス』です。

 1995年に公開され、もはやクラシックとして名を残す押井守監督作『GHOST IN THE SHELL / 攻殼機動隊』。2021年9月17日(金)より4Kリマスター版のIMAX上映がスタート。遅れて10月1日(金)からはIMAX以外でも通常上映が始まります。

 そして他方では、1999年に公開され一世を風靡した実写映画『マトリックス』の最新シリーズとして、2003年公開の『マトリックス レボリューションズ』以来の新作となる『マトリックス レザレクションズ』が2021年12月に公開を予定しています。

 実は『GHOST IN THE SHELL / 攻殼機動隊』と『マトリックス』は長らく関連性が強いと語られてきた作品。その2作品が同時期に映画館に並ぶというのは、どこか運命めいたものを感じてしまうのですが、今となっては20年以上前にまで遡るような作品です。この2作品を観たことがないという人も多くなってきた今こそ、改めてこの2作品を振り返るべき、タイミングではないでしょうか。

◆90年代のサイバーパンクを担う『攻殼機動隊』

 2作のうち、先行して生まれたのが『攻殼機動隊』です。

 『攻殼機動隊』はもともと士郎正宗さんが発表したSF漫画。第3次核大戦と第4次非核大戦を経て、科学技術が飛躍的に高度化した日本が舞台となっており、多くの人間が身体を電脳化する時代の中で、その科学技術の発達から生まれるような犯罪が横行する中、内務省直轄の匿名防諜機関・公安9課の草薙素子らが挑んでいく物語です。

 刊行以来、なんども映像化を果たしている作品なのですが、『GHOST IN THE SHELL / 攻殼機動隊』はそれらのムーブメントを生むきっかけとなる、初の映像化作品でした。

 『ブレードランナー』をはじめとしたサイバーパンクブームこそすでに80年代には起こっていたのですが、セルアニメの最後の時代と言えるこの時期に、いち早くCG技術なども率先してアニメーションに取り込んでいったことで、同ジャンルを新たなステージに引き上げるような立ち位置にもなるほど、日本だけでなく世界で支持を獲得する作品となりました。

◆’00年代へのバトンをつなぐ『マトリックス』

 身体と機械は融合していき、人類はコンピューターネットワークによって管理され、しかし世界はどこか退廃した雰囲気のある……そんな作品群を“サイバーパンク”と指すことが多いのですが、あくまでも知る人ぞ知る作品であった『GHOST IN THE SHELL / 攻殼機動隊』が紡いだサイバーパンクの系譜を、大衆化させる作品が登場します。

 その作品というが1999年公開の『マトリックス』

 プログラマーであり、ハッカーでもあった青年トーマス・アンダーソンが、ある女性との出会いをきっかけに、自分がいる世界がコンピューターの作り出した仮想世界“マトリックス”であることを知り、現実世界と仮想世界を行き来し、人類の救世主となるべく戦いに挑んでいく物語です。世界スケールで大ヒットとなった本作は、映画史に名を残すインパクトを残しました。

 ストーリーも映画のヒットのスケールも、『攻殼機動隊』とは異なる『マトリックス』ですが、作中の多くに『GHOST IN THE SHELL / 攻殼機動隊』の影響をかいま見ることができます。

◆『マトリックス』に残る『GHOST IN THE SHELL / 攻殼機動隊』の気配

 『マトリックス』でも印象的なビジュアルイメージに、黒字の背景にいくつもの緑色の文字がめまぐるしいスピードで切り替わっていく映像があります。電子世界のイメージとして、革新的な印象を残す演出ですが、実はこの演出は『GHOST IN THE SHELL / 攻殼機動隊』で先行して用いられています。

 『GHOST IN THE SHELL / 攻殼機動隊』のオープニング映像で、主人公・素子の義体化された肉体が生成されていく映像が流れる中、主要スタッフの名前が表示されていくのですが、このシーンがまさに黒字の背景に複数の緑色の文字を高速で切り替えていく演出が用いられています。

 また、人体と機械を同期させるためのプラグが、『マトリックス』では後頭部に設けられていますが、『GHOST IN THE SHELL / 攻殼機動隊』も同様の設定が用いられており、やはり後頭部に差込口があります。

 極め付けは、群衆の中で繰り広げられるアクションシーン。『マトリックス』『GHOST IN THE SHELL / 攻殼機動隊』も、大量のスイカで銃弾を防ぐというシーンが登場しています。ここまで類似していると、製作陣の目配せのようにも感じますよね。

 『マトリックス』を監督したウォシャウスキー姉妹(当時は性転換前で、姉妹よりも兄弟の愛称で知られていました)は、はっきりと『GHOST IN THE SHELL / 攻殼機動隊』を映像化しようとした意図があったとは明言していないのですが、プロデューサーへの企画の持ち込み時に、『GHOST IN THE SHELL / 攻殼機動隊』を映像化のイメージとして見せていた逸話が残っている通り、確実に影響を与えていることは確かなようです。

 

 ――満を持して登場する最新作『マトリックス レザレクション』では、監督・脚本をウォシャウスキー姉妹の姉、ラナさんが引き続き担当します。どんな映像体験ができるのか? と想像が膨らむところ。『GHOST IN THE SHELL / 攻殼機動隊』かはわかりませんが、当時よりウォシャウスキー姉妹が日本のアニメーション作品に馴染みがあったことは公言されているだけに、日本のアニメーション作品にヒントが隠されているかもしれませんね。

 ちなみに『攻殼機動隊』の方も、最新作がスタンバイ中。

 2021年11月12日(金)から、Netflixで先行して配信されていたアニメシリーズを劇場版サイズに再構成した『攻殼機動隊SAC_2045持続可能戦争』が2週間限定上映予定です。2つのサイバーパンクの傑作シリーズたちは、2021年の今、いったい何を観せてくれるのでしょうか。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

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