◆真希のことを気にかけていた?
禪院直毘人が渋谷事変にいたのは、禪院家を出た真希のことを気にかけていたからではないでしょうか。
彼女は生まれつき術式がないうえ呪力をほぼ持っていなかったため、禪院家では落ちこぼれといわれ冷遇されていました。
その冷遇っぷりは凄まじいもので、幼い頃には従兄の直哉に暴力を振られ、実の父親には「でき損ない」と言われ命を奪われそうになります。
しかし、直毘人だけは彼女へ接する態度が異なり、彼女が禪院家を出る際に彼と会話を交わしたときはそこまで険悪な雰囲気ではありませんでした。むしろ、彼女が禪院家へ戻ってきて当主になると主張したときには、彼は声をあげて笑い飛ばしており、彼女の成長を楽しみにしているようにも見えます。
また、渋谷事変でも直毘人は真希を気にかけているように見えました。
彼と彼女は同じ班に配属されたのもあり終始一緒に行動します。直毘人は一般人が呪霊に襲われているときはあくびをして一切助けなかったのに、真希が呪霊に殺されかけたときにはかばったり、理由は言わなかったものの彼女の身を案じているのか帰るよう伝えたりする姿を見せます。この姿からして、直毘人にとって真希はほかの人とは異なる存在なのでしょう。
さらに、渋谷事変以降でも直毘人が真希を気にかけていたのではないかと思われる出来事がありました。それは、真希と真依の2人に試練を与え、本人が意図していたかは分かりませんが、結果的に真希を強くしていたことです。
彼女が禪院家を出るとき、彼は「相応の試練を与えようぞ」と言い、真希と真依の2人に試練を与えました。
当初、家を出る彼女だけでなく真依にも試練を与えるのは嫌がらせかのように見えましたが、その後に呪術で双子が吉凶とされるのは同一人物としてみなされ、強くなるには2人とも強くならなければならないことが明らかになります。
このことから、真希が当主を目指して強くなるためには彼女だけでなく真依も強くならなければならず、直毘人が2人に試練を与えたことは彼女を正しく成長させるものでした。
直毘人がこのことを知っていたかは描写されていませんが、呪術界で双子が吉凶とされているのは有名なので、当主だった彼がその理由を知っていてもおかしくありません。おそらく、直毘人はすべて理解したうえで2人に試練を与えていたのでしょう。
これらのことから、直毘人は真希を1人の呪術師として認めていたうえ、その成長を楽しみにしていたのではないでしょうか。
だからこそ、渋谷事変ではほかの禪院家の人たちに任務を任せず、当主である彼がわざわざ任務に赴いて真希の成長を自分の目で確かめに行ったのかもしれません。
──直毘人は一般人には無関心のうえ、同じ禪院家のなかでも躯倶留隊の人たちには興味がないようです。
しかし、彼は渋谷事変で真希を助けたり、真希だけでなく真依も家から出すことで京都校で仲間を得たりなど、彼女たちのためになることを行う姿を見せます。決していい人物とは言えませんが、案外冷たい人物ではないのかもしれません。
〈文/林星来 @seira_hayashi〉