アクション映画にヒーロー映画、ホラー映画......などなど誰しも好きな映画のジャンルがあるでしょう。私の場合はやはりアニメ映画がそれに類するのですが、それと同じぐらい大好きなのが“犬映画”!
幼い頃から家で犬を飼っていたこともあり、犬が活躍する映画が大好きでしょうがない私にとっては、そんなワンちゃんたちが活躍する映画も大好物なのです。
そんな私にとって興奮せざるを得ない、まさかの「アニメ映画であり、かつ犬映画」という、素敵なジャンルハイブリッド映画が2020年に公開されました。その映画というのが『マロナの幻想的な物語り』です。
<画像引用元:https://maronas.info/ より引用掲載 © Aparte Film, Sacrebleu Productions, Mind's Meet>
ルーマニア・フランス・ベルギーの合作映画で、東京アニメアワード2020のグランプリや、第24回文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門で優秀賞を受賞したりと高い評価を得ている作品です。
果たして本作の何が評価を得ているのか。ちょうど本作のBlu-ray&DVDのリリース日が2021年7月2日(金)に決定したということで、私が劇場公開当時にこの作品を観て驚かされ、そして感銘を受けた点を紹介させてください。
◆マロナの生涯を描くストーリー
犬が大好きな人にとっては、あらかじめお伝えしておかないといけないことが一つあります。この映画、なんと主人公の犬が生涯を閉じるシーンから始まります。「なんて悲しい始まり方なんだ!」と思うかもしれませんが、この映画では犬が生まれてから死ぬまでを犬目線で描くという挑戦作となっています。
主人公の犬の名前はマロナ。ハート型の鼻と、黒と白の体毛が特徴的なミックス犬。死を悟ったマロナが自身の生涯を振り返り、マロナがどう生まれて、どんな人に出会い、どんな運命を辿るのかが描かれます。そこには喜びもあり、ちょっと寂しいこともあれば、不思議な体験もあります。ただそのほかの映画と違うのは、その人生は頑なに犬目線で描かれていくところにあります。マロナが感じたり、行動に移す一つ一つは、我々人間からすると面白いぐらいに違う感覚の瞬間があったりとあまりにも発見が多いです。
◆終始トリップ状態?どうかしている世界の描写
『マロナと幻想的な物語』の驚くべきポイントとしてもう一つ知っておいて欲しいのが、そのアニメーションがあまりにも異質すぎるところでしょう。トレーラーを観てみると一目瞭然なのですが、登場するキャラクターの絵のタッチが、なんと全く統一されていないのです。
やたら抽象的な人間もいるかと思えば、なぜか3DCGの人間もいたり、急に巨大になったかと思えば、人間ではあり得ないように身体が伸縮したりと、その映像はもはやトリップ体験とでもいうような奇怪な体験となっています。
本作のキャッチコピーには「愛とアートがいっぱい“詰まった“ワンコ・アニメーション」というフレーズが使われたのですが、まさに1カット1カットが、誰かのアート作品を観ているかのような映像となっています。
◆犬的哲学で見つめ直す人間の世界
そんな複雑に人や物が入り乱れる世界の中で、唯一マロナのタッチは変わりません。そのおかげもあって、抽象的な映像の中でも安心してストーリーを追うことができます。しかし、物語を観やすくしているという狙いだけでなく、そこには物語の芯として確固として変わることのないマロナの純粋な気持ちを表しているのではないでしょうか。
作品で描かれるマロナの人生には、運命的な出会いをする何人かの人間が登場します。その人たちはいずれも夢を追うためだったり、共に生活する相手を変えてしまったり、年を経て成長してしまったりと次第に変化をしてしまいます。マロナはそれに翻弄されながらも素朴にささやかな幸せだけを求めて生きています。その健気さたるや、なかなかどうして愛おしすぎる。物語を観ている私は人間側だというのに、マロナの周囲の人間に対して「なぜ変わってしまうのか」とつい問いかけてしまいます。人間が変化を求めてしまう生き物だってことは頭では分かっているのですが、その問いを投げかけずには居られないぐらい、マロナに共感してしまっている自分が居ました。
『マロナの幻想的な物語り』では、まさにそんな人生哲学を犬の目線を通じて改めて考えさせてくれる物語になっています。幸せの在り方を問う映画や物語は数多くありますが、犬の目線を通して描くことで、これほどまでに説教臭くなく考えさせられることができるのか、と目から鱗の体験でもありました。
◆最初と最後で物語は色を変える
そして『マロナと幻想的な物語』でもっとも不思議に感じられたのが、この映画が決して悲劇には思えなかったところです。
冒頭でいきなりマロナが息を引き取ろうとしている姿が描かれるので、犬が大好きな身としては、その素性を知らずとももはや反射的に涙が流れてしまうわけなのですが、人によっては話を聞くだけでもその場面が辛いという人もいるでしょう。
しかし、そんな人にこそ、その後にマロナが反芻する人生を追ってみて欲しい。マロナが歩んできた人生を追体験し、いざ冒頭のマロナが生涯を閉じようとする場面に戻ってきたとき、私の目からは冒頭で流した涙とはまた違った涙が流れていたのです。
ただの死として悲しかったはずのマロナの人生の最後が、物語を追った後だとなぜか別の感覚に変わっていたのです。ただ悲しかっただけのマロナの死は、映画を経ることで、悲しいけど優しく、切ないはずなのに多幸感のようにも感じられる、そんな不思議な味わいをもたらすものとなっていたのです。
アニメ映画だから。犬映画だから。フックはもちろん自分の好みだったわけですが、観終わってみるともはやそんなジャンルを超えて、自分の心に深く突き刺さる.....いや、滲んでいくような大切な映画となっていました。
自分の人生にふと思い悩んだとき、おそらく私は『マロナの幻想的な物語』を観返すのでしょう。それほどこの映画には形容しがたい幸せの秘密が詰まっているのです。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi
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