オリンピック開催と並行して拡大していくコロナの感染者、そしてその直後に連続してやってきた台風、さらにそれに伴う二次災害で、国内のニュースを追うだけでも慌ただしさを感じるここひと月ほどの間に、海外でも大きめのニュースが流れてきています。
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンが、米軍の撤退に合わせて、急激に勢力を拡大し各地を制圧。あっという間に首都カブールをも制圧し、政権の崩壊に成功しました。2001年頃から続く米国とアフガニスタンを中心とした紛争でしたが、アフガニスタンも再びタリバンによる支配下に落ち、この約20年間の戦いも“無に帰す”と表現したくなるような事態となってしまいました。
とはいえ、日本人としてもなかなかタリバン政権下のアフガニスタンの様子を追うのは難しく、報道だけを聞いてもタリバンの支配下となるとどうなるのかのイメージがつきにくいでしょう。ぜひそんな興味へのフックとしてオススメしたいのが、アニメーション映画です。
タリバン政権下が具体的にどんな世界なのかを掴みやすい2つのアニメーション映画が現在、日本でも配信されています。
◆物語が武器になる『ブレッドウィナー』
『ウルフウォーカー』などでも知られるカートゥーンサルーンが2017年に制作した映画『ブレッドウィナー』は、2019年に日本でも劇場公開をされたので、記憶に新しいアフガニスタンを舞台にした映画です。
2001年のアフガニスタンのタリバン政権下で暮らす少女パヴァーナが本作の主人公。女性だけでの外出が禁じられているタリバン政権下において、家族の中で唯一の男性である父親が頼みの綱なのですが、その父親がタリバンに連行されてしまい、やむなくパヴァーナが男装をして、状況の改善を試みるという物語です。
タリバン政権下では女性がどれだけ圧倒的な理不尽な立場に立たされるのかが、実感として得られる内容となっており、そんな理不尽な状況の中でもパヴァーナを支えるのが“物語”の力であることが描かれます。劇中劇の独自の雰囲気はポップでもあり、この映画を物語ごと希望へと導いてくれます。
思えばこの映画自体が混沌としたアフガニスタンの状況を変えるための願いがこもった“物語”だった、と思うと今日のアフガニスタンの情勢は少しやるせない気持ちになります。
Netflixでは原作小説に合わせて『生きのびるために』というタイトルで配信されていたり、今回の事態を踏まえ今秋緊急上映を実施する映画館も出てきていたりと、比較的“今観やすい”アフガニスタンを舞台にしたアニメーション映画です。
劇場さんのご協力で緊急上映決定です📢
この機会にぜひスクリーンで📽大阪 シネ・ヌーヴォ 9月11日~9月17日
名古屋 大須シネマ 8月30日~9月12日(9月4日を除く) pic.twitter.com/aYHrcaUxbf— 映画『ブレッドウィナー』公式アカウント (@breadwinner_jp) August 17, 2021
📢東京Morc阿佐ヶ谷
9/17(金)〜
📢広島サロンシネマ
9/17(金)~9/22(水)※6日間上映が決定しました。お近くの方はぜひスクリーンで pic.twitter.com/ihsR97xp1S
— 映画『ブレッドウィナー』公式アカウント (@breadwinner_jp) August 19, 2021
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◆隠れた名作『カブールのツバメ』
『ブレッドウィナー』こそ、今回のタリバン政権の動向によって再注目されていますが、もう一つ注目して欲しいアニメーション映画があります。
それが『カブールのツバメ』という作品です。
本作が描いているのは、アメリカによる本格的な侵攻が始まる以前のタリバンが支配する1998年のカブールの姿。タリバンの支配に抑圧を受けている若い男女と、タリバン側で抑圧する側に立つ老夫婦それぞれが、自分の取るべき行動に悩み、そしてその行動が交錯していく物語となっています。
2019年に制作された映画なのですが、日本ではフランス映画祭2019や東京アニメアワード2020(※『カブールのツバメたち』のタイトルで上映)などのイベント上映での配信を果たしたのみで、全国的な上映は実施されていない映画です。
一時期はU-NEXTなどでも配信が実施されていた作品なのですが、2021年8月時点ではRakutenTVで配信されているのみとなっており、貴重な作品となっています。
◆『カブールのツバメ』で知る米国の侵攻以前の姿
『ブレッドウィナー』だけでなく、『カブールのツバメ』もぜひ観て欲しいのには理由があります。『カブールのツバメ』を観ると、よりタリバン政権下を多角的な視点で観ることができる点にあります。
タリバン政権の中で漫然とした気持ちでその勢いに飲まれてしまう者、抑圧の強い環境下でも懸命に抗おうとする者、そして、市民を取り締まる側でありながらも心中で葛藤が芽生え始める者と、タリバン政権下を複数の視点で追う体験ができます。
印象的なシーンとして、かつてのアフガニスタンの姿を回想するシーンも登場します。90年代末以前にも、かつては女性も自由な衣服を着て、映画館で映画を楽しむことができた時代があったことが描かれます。本作で描かれる90年代末のタリバン政権下は、女性に限らず男性市民も映画や音楽、テレビといった娯楽を禁止されるという不自由な時期にありました。
そんなカブールでの娯楽の禁制が解かれることになったのが2001年のアメリカの侵攻で、タリバンがカブールから撤収したことで、多くの娯楽が解禁されることとなります。あれから20年。再びタリバン政権下となったカブールがどうなってしまうのかは、考えれば考えるほど不安が募ります。
――タリバン政権下のアフガニスタンがどうなっていくのかはまだまだ未知の部分が多いです。しかし、『ブレッドウィナー』や『カブールのツバメ』が描いてきた過去があるからこそ、厳しい視線を向けていくべきなのは確かでしょう。遠く離れた国の一国民として、できることなどは限られているかもしれませんが、余裕のある人はせめてわずかでも興味を持って、これからニュースから流れてくるアフガニスタンの最新情報を受け取っていきたいですね。各人のささやかな気遣いがいずれの日本からアフガニスタンへのアクションへと繋がっていくと信じています。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi
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