日本のアニメーションと海外のアニメーション。

 その2種類の違いってどんなところだと思いますか?

 というざっくりとした質問を投げかけても、「海外ってどこの国だよ」とか「いつの時代を前提にしているんだよ」とか「アニメーションって言ってもいろんな種類があるけど、どの手法のことだよ」とかツッコミが来てしまう、言葉足らずな質問になってしまうわけですが、今回そんな疑問を追求するのとは少し違うのですが、ディズニーや、ドリームワークス・アニメーション、ソニー・ピクチャーズアニメーションなどの海外の大手3DCGアニメーションが、どこか日本のアニメーションっぽくなってきているということを取り上げておきたいのです。

◆バタ臭さが抜けて日本人に親しみやすい造形になってきたディズニー作品

 2022年3月11日よりDisney+で配信がスタートした『私ときどきレッサーパンダ』は、まずそのルックに驚かされるはず。

 ピクサー作品といえば、一時は水や自然、金属、毛並みや人間の肌に到るまで3DCGでどこまで本物に近づけられるのかを追求してきました。すっかりその技術も来るとこまで来ているようでしたが、この『私ときどきレッサーパンダ』はそれらの作品から一転して、ディフォルメされたキャラクターによるまんが映画のようなデザインになっています。

 実は、今作で急にこのような変化があったわけではなく、ピクサーにとっては前作にあたる2021年の配信作『あの夏のルカ』のキャラクターも、ディフォルメの効いたキャラクターデザインになっていました。よく海外のアニメーションキャラクターを“バタ臭い”と表現することがありますが、これらの作品のキャラクターたちにはどこか日本人でも馴染みやすさがあります。

 両監督とも日本アニメーションの影響は明言していることもあり、日本のアニメーションのエッセンスが紛れていることを思わせますが、実はこれはピクサーだけに限った話でもないのが面白い話。『アナと雪の女王』のアナとエルサなどが顕著だったのですが、従来のプリンセスやさらには同じ作品内の他のキャラクターに比べて、瞳が大きく鼻や口元が小さく描かれて、奇しくも日本のアニメーションキャラクターに寄ってきています。

 ディズニーアニメーションのキャラクターデザインが日本のアニメーションに寄ってきているというよりも、日本人が感じていた“バタ臭さ”と言われる違和感を払拭して、これまで以上にグローバルに親しまれるキャラクターデザインを追求している結果なのかもしれません。

◆3DCGはリミテッド・アニメーションブームへ?

 キャラクターデザインが日本アニメーションに寄ってきているディズニーに対して、別の形で3DCGアニメーションの手法が日本アニメーションに寄ってきているように思えるのが、ソニー・ピクチャーズ・アニメーションやドリームワークス・アニメーションです。

 ソニー・ピクチャーズ・アニメーションの大ヒット作『スパイダーマン:スパイダーバース』などでも注目されましたが、3DCGアニメーションでありながら、手描きの効果を後から加えるなどしてコミックブックがそのまま動き出しているかのように見せていました。

 手描きの効果に加えて、従来の3DCGアニメーションと顕著な違いをもたらしているのが、“リミテッド・アニメーション”になっている点です。

▼リミテッド・アニメーションとは?

 アニメーションはそもそも、リミテッド・アニメーションとフルアニメーションの2種類に分けることができます。アニメーションは主に1秒間に24枚の絵を使用することを前提として作られることが主流で、そのうち同じ絵を複数枚使用して、1秒間に8枚や12枚で構成する例が特に日本では多いです。これには、制作時間の節約の意図もありますし、24枚のうち何枚を同じ絵にするかで見え方にも変化が生まれるので、製作者によって1秒間を何枚の絵で構成するかは狙いによって変えたりします。こういった1秒24枚の絵の構成を重複させるのがリミテッド・アニメーションです。

 そして逆に1秒24枚の絵を全て別の絵に変えてしまうのが、フルアニメーションです。1秒間に24枚違う絵を使うだけあって、細やかな動きになり、いわゆる“ぬるぬる”動くキャラクターを再現できます。昨今では機械的にキャラクターを制御できる3DCGアニメーションもこのフルアニメーションの例が多いです。

▼リミテッド・アニメーション寄りに舵を切る3DCG作品たち

 しかし、『スパイダーマン:スパイダーバース』では、3DCGによって映像化しやすいフルアニメーションの、間の絵を大胆に抜き取ることで、わざわざリミテッドアニメーションにしています。こうすることで3DCGの見た目でありながら、日本の2Dアニメーションのような動きを再現しています。

 これは、ソニー・ピクチャーズ・アニメーションだけの傾向ではありません。『シュレック』『ボス・ベイビー』などで知られるアニメーション製作会社ドリームワークス・アニメーションも同様の傾向が強まってきています。

 2022年全国ロードショーが発表されている『バッドガイズ』や、海外では2022年9月23日より公開の『長ぐつをはいたネコ』の続編『Puss in Boots:The Last Wish』でもはっきりとリミテッドアニメーションにしているのがトレーラーからもはっきり確認できます。

 『バッドガイズ』に関しては、キャラクターのデザインもこれまでのドリームワークス作品になかったテイストになっていて、新規シリーズの創設の気概が感じられます。

 これらの傾向を追っていくと、どこか日本のアニメーションに寄せに来ているようにも見えますが、日本では主流の2Dアニメーションに挑もうとしていないところからも、どちらかと言えば、アメリカの得意とする3Dアニメーションで、日本のアニメーションが得意としていた2Dアニメーションの分野も取り入れて表現の幅を広げようとしている、と言った方が正解のように思えます。

 00年代〜10年代にかけて実写のような背景や質感を追求してきたアメリカの3DCGアニメーションですが、その追求も来るとこまで来た2020年代。3DCGでは再現してこれなかったアニメーション表現に果敢に挑戦しに来ているのがわかります。

 ディズニー、ソニー・ピクチャーズ、ドリームワークス。これらの大手アニメーション制作会社の新作は、今後も3DCGアニメーションの新たな可能性を見せてくれるのでしょう。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

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