昨年秋にアニメが放送され、丁寧なストーリーと人間関係の作り込みと「単純な百合」ではない少女達の話で話題となった『やがて君になる』。
アニメでは夏休み後の文化祭で行われる生徒会メンバーによる演劇の直前で終わってしまったため、続きが気になって仕方がない人も多かったのではないでしょうか。
なお原作ではアニメ放送終了時点で6巻まで刊行しており、演劇は大成功し燈子も「姉の代わりではない自分自身の生き方」を知っていく、そして、最後には侑が燈子に思いを告げるところで終わるという展開でした。
そして4月26日、ついに最新巻7巻が発売されました!
そこで今回は、最新巻を大まかに振り返りつつ、タイトルの「もし侑がいなかったら燈子は沙弥香を受け入れたのか?」という点について考察していきたいと思います。
※この記事は最新巻のネタバレが多く含まれておりますので、先に原作を読まれることをオススメします!
京都旅行、燈子への告白を決意する沙弥香
燈子が変わりつつある今なら、自分の思いを言ってもいいのではないか。
その一心から出た侑の「好きです」に対し、燈子は「ごめん」の一言だった。
自分の思いが本当に恋心だったのか、これは失恋というものなのかもわからなくなる侑は、生徒会室で燈子と出くわすも複雑な心境を持つ。
「先輩と一緒にいるのが苦しいなんて」
「今更侑に何が言えるだろう」
新しく始めた演技の稽古にも身が入らない燈子も、「燈子を好きじゃない」侑がいなくなったことに寂しさを感じる。
2年生は修学旅行の計画を立てている最中だが、燈子は上の空で、今までとは違い、隠さず自分が落ち込んでいることをクラスメイトに打ち明ける。
沙弥香は侑との間に何かあったことを感じ、また燈子にも変化が起き始めていることを察した。
燈子が変わった時、自分はどうするか。
行きつけになっていた喫茶店の店長、児玉都と恋人の教師箱崎理子の姿を見て、沙弥香はついに燈子へ告白することを決意する。
二人きりとなった夜の広場。
燈子は先に
「私は沙弥香が期待するような人間じゃない。だからやめて」
と言い放つが、それでも沙弥香は
「自分で思っていたよりあなたが好き。燈子のぜんぶが好き」
と、思いの丈を伝えた。告白の答えは翌日。
好意を知りつつも燈子のために「好き」を言わなかった沙弥香を理解していた燈子。しかし、自分と同じように沙弥香もずっとそのままでいるわけではない。
自分自身も周りも変わっていく中で、どうやって好きでいつづけられるのだろうか悩む。
今まで「好き」と言われ続けたことから逃げていた燈子だが「沙弥香からは逃げちゃいけない」。
そして燈子の答えは
「私は沙弥香を選べない。…選ばない」
「好きな人がいるの」
沙弥香は静かに「それは、小糸さん?」と聴き、燈子は涙ながらに肯定する。
「悔しいなぁ」
燈子のためにできることは全てやってきた。でも、自分の思いを胸に秘め続けてしまった。恐れてしまった。
自分が踏み込めない領域を、先に侑が踏み抜いていた。だからこその一言。
悔しさを覚えつつも、確かに燈子に届いた自らの思いを感じ直しながら、2年生の修学旅行は終わりを告げた。
既に「恋」を知っていた侑
燈子と沙弥香が修学旅行で京都を訪れている一方、生徒会の活動もお休みであった侑は一人暇を持て余す。たまたま一緒になった生徒会メンバーの槙を誘いバッティングセンターへ行くのだが、彼は侑を見て燈子と何かあったことを察する。
素直に告白したこと、そして「燈子との約束を破ってしまった」ことを言い、槙は「七海先輩が小糸さんの気持ちを断るってよくわからない」と侑に告げる。
槙は誰かに恋愛感情を持つことはなく、恋愛に悩む人達を観客として楽しむ。同じく恋愛というものが分からない侑にとっては、燈子に断られたことは辛くないと言うが、それに対して「それは逃げてるだけだ」と正直に言う。
「本当はもう好きという気持ちを知っている。その気持ちを受け入れられなかったと知ると辛いからごまかしているだけだ」
「君と僕とはきっと違う側の人間だよ。小糸さんはもうわかってる」
侑は既に恋を知っている立場であることを伝える槙だった。
燈子の「好き」は、侑にとって眩しくてキラキラしていた。
「好き」がほしい。
自分が逃げていることを認めて素直になりたい。好きを言ってほしい。その心を痛める侑の携帯には、燈子からメッセージが届いた。
『これから帰る お願い 話をさせてほしい 生徒会室で待ってて すぐに会いに行くから』
燈子と侑は暗くなっていく空の下、生徒会室へ走っていく……。
ここまでが7巻の大まかな内容です。
【本題】侑がいたから燈子は変わり、沙弥香を受け入れなかった?
では本題。
今回ついに沙弥香も自らの思いを燈子に告げて、残念ながら断られてしまうという結果となってしまいました。
端から見れば、沙弥香と燈子はまさにお似合いのカップルとも言える仲であり、もし燈子が沙弥香の気持ちを受け入れたとしてもなんの不思議はなかったかと思います。ですが、燈子は侑を選びました。
元より燈子は、いつまでも変わりの無い気持ちを持ってくれる、どんな姿の燈子でも良いという侑が好きでした。しかし、その侑によって燈子は演劇を経て新しい自分(姉になるという自らが着けたしがらみからの解放)を見つけるようになり、自分自身が変わっていくようになりました。
そして沙弥香は侑と同様、どんな姿の燈子であっても好きであることは変わらないことを告げています。が、燈子の気持ちを重んじてそのままの関係であることを選びました。
ではもし、燈子と侑が出会わなかったら、この話はどうなっていたのでしょうか? 燈子はいずれ沙弥香の気持ちを受け入れることになったのでしょうか?
ここからは完全に筆者の妄想です。
結論から言うと、侑と出会わなかった場合、燈子は沙弥香の気持ちを受け入れたと思います。
おそらく、(悪い意味ではないですが)侑がいなかったとすると、燈子はこのまま「姉の澪として振る舞う」ことを続けていたかと思います。そうなると、燈子は「しばらくは変わらないまま」ということになります。
しかし、あくまで自分は自分。他人は他人です。
沙弥香は先に話した、理子先生の恋人である都と「女性同士の付き合い」についてを知っていくようになります。そして沙弥香は2人の関係を「いいな」と思うようになり、告白することを決意したように見受けられます。
つまり、沙弥香の決意に関して「小糸侑」の存在があったわけではないと思うのです(多少は関係する部分もあるかとは思いますが)。
となると、沙弥香は侑はいなくともいずれ燈子に告白をしていたのだろうと考えられるのです。
では、なぜ燈子は受け入れるだろうと言えるのか。
侑がいないとなると、燈子にはある種「甘えられる存在」がいなくなるわけです。
たった一人でそのしがらみに燈子が耐えられたのかと言うと、おそらくそれは出来ないと思うんです。
ではもし「甘えられる存在」が侑以外にいるとしたら? やはりそこのポジションには沙弥香が来るのではないでしょうか。
弱さを持つ燈子の姿も沙弥香は知っていて、それを受け入れています。どこかで燈子が崩れてしまった時に、真っ先に手を差し伸べるのは間違いなく沙弥香なんです。
沙弥香が変わっていき、自分の思いを告げた時、燈子は「沙弥香だから」という理由で、一緒になることを選ぶのではないかと思います。
様々な思いが重なる複雑な少女達の行く末は
ということで、筆者としては「侑がいなかったら燈子は沙弥香を受け入れた」という持論をお話させていただいたのですが、正直これはまったく、まったく、まったく自信はありません。私の思い違いも多分に含まれた上での考察……という名の妄想なんです。
それくらい彼女らの思いの重なりは複雑であり、その心境を知るのも簡単ではない。だからこそ『やがて君になる』はとても面白いなぁと感じますし、これだけ真面目に妄想ができるわけなのです。
おそらく「侑がいなくても燈子は付き合わんだろう」と考える読者はいると思います。というかそう考える人のほうが多いかもしれないです。
あくまでこの記事は、男なりに色々考えた結果こうかもしれないな! という意見の一つとして見てくれればと思います。
いやぁ、でも色々無自覚ながらも2人を振り回してしまっていた燈子が変わっていったのは、なんとも感慨深いと言いますか、これがストーリーなんだなと思わせてくれます。
とにかく、この後侑と会った燈子が最初になんて言ってくれるのかが気になって仕方がないです。このままだと侑が可哀想だよホント。
そして悲しいことに、『やがて君になる』は次巻で最終回。
次巻は2019年11月発売予定ということで、このもやもやが晴れるにはあと半年待たねばならないのです!
その間にアニメの2期の発表があることを私は待ち続けます!
(Edit&Text/頭皮ぱっしょん)
©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会