ヨルシカ、YOASOBIなど近年では、すっかりミュージックビデオでは多くのアーティストがアニメーションを起用する例が増えてきています。

 そんな中でも、以前から様々なアニメーション作家をミュージックビデオの制作に起用しているのが、“ずっと真夜中でいいのに。”です。作詞・作曲・ボーカルのACAねさんを中心に編成されたバンドであり、楽曲ごとに編成を変えていく、特異な制作スタイルが特徴です。

 TVやライブでもほとんど素顔を晒すこともなく、ミュージックビデオもにらちゃんと呼ばれる女の子を中心としたアニメーションとなるのが定番です。面白いのがこのミュージックビデオの制作を担当する、アニメーション作家も毎回違う点にあります。作品によってニラちゃんの造形も違っていき、作家さんごとのにらちゃんが観られるのも見所の一つとなっています。

 そんなずっと真夜中でいいのに。が2022年4月7日に新たなミュージックビデオを発表しました。

◆2022年4月7日リリース「ミラーチューン」

 今回発表されたのは「ミラーチューン」というタイトルの最新楽曲。ミュージックビデオの発表と同時に、各所でのデジタルリリースがスタートしました。ちょうど、4月16日・17日にさいたまスーパーアリーナで単独公演「Z FACTORY 「鷹は飢えても踊り忘れず」」の開催を控えていたタイミングでの発表ということで、ライブを盛り上げる渾身の一曲となっていました。

 映像ではコインランドリーの待ち時間にゲームセンターを訪れたにらちゃんが、ゴルフゲームや格闘ゲーム、ダンスゲーム、脱出ゲームなどなど......ありとあらゆるジャンルのゲームを体験していくというもの。キャラクター選択画面など、歴代のミュージックビデオのキャラクターたちがカメオ出演しているのもファンには嬉しいサプライズです。

◆「ばかじゃないのに」に続くTV♡CHANY作品

今回「ミラーチューン」を制作したのはスイスを拠点にアニメーション制作を行なっているベトナム人イラストレーターTV♡CHANYさん

 ずっと真夜中でいいのに。とのコラボレーションは実は今回が初めてではありません。2021年7月に発表された『ばかじゃないのに』のミュージックビデオでも先行して制作も担当していて、今回が二度目の参加となりました。

 TV♡CHANYさんは日本のファッションやゲームなどの文化からインスピレーションを受けているそうで、作品の随所に日本人でも親しみやすさのようなものが感じられるのではないでしょうか。実際、TV♡CHANYさんの公式サイトでは『鬼滅の刃』や『ドロヘドロ』といった作品のファンアートが発表されていたり、自身のYouTubeチャンネルでは、あの『ポプテピピック』の4話で放送された「LET’S POP TOGETHE」をオリジナルのアニメーションで描いたファンムービーを発表していたりと、日本作品への愛が随所で見つかります。

◆日本のレトロブームはまだまだ続く?

 もう一点注目しておきたいのが、今回の「ミラーチューン」のミュージックビデオでは、随所に80年代風の装飾が見つかるところです。冒頭に登場するタイトルロゴや、色合い、カセットテープといったアイテムは2017年以降から流行のスタイルとして再ブームが到来しているレトロスタイルの延長線上にあると言えます

 この傾向は日本だけでなく昨今韓国でも活発で、2019年には最新の新しい物(=New)と古いアイテムやスタイル(=Retro)をかけあわせた“Newtro(ニュートロ)”という造語が生まれ、音楽を皮切りに、ファッションやアートなど多岐にわたる分野に影響を及ぼしています。日本における昨今のレトロブームも命名するとしたら、このニュートロは具合の良い言葉ではないでしょうか。

 そんな、レトロブームが到来したのも2010年代後半。すっかり月日が経っているのですが、いまだにブームの終わりの気配は見えません。

 例えば、2022年2月には、自身が出演するミュージックビデオが定番だったきゃりーぱみゅぱみゅさんが、自身が一切出演しない全編アニメーションのミュージックビデオ『Maybe Baby』を発表しています。

 制作はPUNPEE『タイムマシーンにのって』や唾奇×Sweet William『Let me feat.CHICO CARLITO』のミュージックビデオを手がけたTakeru Shibuyaさん。本作もこれ以上ないぐらいの80年代風モチーフに溢れた映像となっています。

 2022年に入った今もこうして、音楽界の前線で活躍するアーティストたちがレトロスタイルな映像を用いていることから、もはや流行のような一過性のものではなくなっていると見ても良いのかもしれません。今年もまだまだアニメーションミュージックビデオ界でも同様のスタイルの作品が登場する可能性は高いでしょう。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

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