2021年も年末に差しかかってきましたが、ここに来て年間ベスト級のアニメーションシリーズが海外からやってきました。その名も『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』です。
……え?知らない? なんて声が聞こえてきそうなほど、それほど話題になっていないのが惜しいのですが、本作がなかなかの事件的な新作アニメとなっております。
まだまだ知る人ぞ知る状態の『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』について、本作の何がすごいのかがあまり伝わっていない今こそ、本作の特異ぶりをお伝えしておきたいのです。
◆『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』とは?
2021年10月22日にNetflixにて全世界配信をスタートしたアニメシリーズが『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』(原題:Maya and the Three)です。
主人公はテカ王国の王女であるマヤ。マヤはついに戴冠式を迎えるのですが、その日地下世界より戦争の神・ミクトランたち神々が侵攻を開始します。自身も戦おうとするマヤでしたが、父や兄弟はマヤを置いて軍勢を率いてミクトランたちに戦いを挑むものの大敗。大切な兄弟を亡くしたマヤは、そんな兄弟達に導かれるようにテカ王国に伝わる伝説の意味を見出します。予言の真意を悟ったマヤは、鷲の戦士として、おんどりの魔術師・スカルの射手・ピューマ戦士の仲間を見つけ、ミクトランと戦うべく旅立ちます。古代メソアメリカの世界を舞台にしたユニークなファンタジー冒険譚となっています。
1話30分程度(最終話のみ44分)の全9話で完結する物語となっており、コツコツ未進めていくこともできるし、1日で一気に観ることも可能な長さの作品となっています。
◆ホルヘ・R・グティエレス監督の不気味で可愛いデザインたち
映像を観て誰もが目を引くのがそのキャラクターや舞台のデザインでしょう。
古代メソアメリカという題材も相まって、ディズニーやドリームワークス・アニメーション、イルミネーションといった海外の3DCGアニメーション作品群とも違い、かといって日本作品にも似たような例があまり思いつかない変わったスタイルのものとなっています。
知っている人からすると、唯一類似した例として名前が上がってきそうな映画が『ブック・オブ・ライフ〜マノロの数奇な冒険〜』。海外では2014年に劇場公開され、日本では2016年に劇場公開ではなくディスクリリースという形で上陸した作品です。『リメンバー・ミー』よりも一足先に死者の日を題材にした長編アニメーション映画でこちらも知る人ぞ知る名作でした。
そんな『ブック・オブ・ライフ〜マノロの数奇な冒険〜』のスタイルと似ているのは確かなのですが、それもそのはず、本作とは監督が一緒。『ブック・オブ・ライフ〜マノロの数奇な冒険〜』や『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』のデザインを担っているのが、イラストレーターとしても活躍する監督のホルヘ・R・グティエレス氏。
ホルヘ監督の手がけるイラストといえば、印象的なメキシカンスタイルのドクロモチーフや、顔や胴体、手足のバランスが極端なデザインのキャラクターが特徴的。平面的でディフォルメの強い彼の描くイラストを、映画シリーズでは見事に3次元の映像へと昇華することに成功しています。
◆日本の漫画みたいなカットが登場!?
『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』ではシャレた演出が多数盛り込まれているのも見逃せない部分。
マヤの前に立ちはだかる神々が登場するシーンでは、派手なキャラクター紹介カットが挟まれて、コレクションカードのように見せる演出が登場。逐一、絵になるところが戦いを盛り上げます。
マヤたちが勢いのある攻撃を放とうとすると、集中線のような演出が入る点にも注目。まるで漫画のような演出が盛り込まれていますが、実はこの演出はアニメ『ストリートファイターⅡ:V』のオマージュだというのだから、また衝撃的です。
Gladiator + Maya and the Three (available in LATAM, UK, and ANZ) pic.twitter.com/DJXfGqS5nM
— mayaandthe3 (@mayaandthe3) September 2, 2021
⇒オリジナルサイトで写真を見る(全1枚)
そして忘れてはいけないのが、画面の上下に引かれた黒い帯。映画を上映する際に縦横比を調整するために用いられるレターボックスと呼ばれるもの、なのですが派手なシーンや勢いのあるシーンでは、なんとキャラクターやアイテムがこのレターボックスをはみ出してきます。クライマックスの最終話ではエスカレートするあまり、そのシーンのほとんどがレターボックスからはみ出しっぱなしで、最後にふさわしいド派手なラストバトルを繰り広げます。ただのデザイン勝負でない工夫がところ狭しと用意されているのです。
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◆Blenderで制作された3DCGの秘密
そして何より驚かされるのが、その3DCGの映像の美しさでしょう。
3DCGアニメーション作品といえば、映画シリーズは精巧だけども、その後にTVシリーズになるとCGのクオリティが劣化する例が多いですが、『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』では劇場公開作品とでもいうようなクオリティで、全9話を走りきるのだから驚かされます。
この3DCG自体にもさらなる驚きがあり、このアニメは“Blender”という3DCGソフトをメインに使用して制作されています。このソフトの魅力はなんといっても無料で使用できるところ。制作のコストを抑えられるという利点がありながら、使いこなすことが難しいという特徴を持っているため、長編アニメーション映画の制作では、あまりメインで使われることのないソフトです。そのため、Blenderをメインにこれだけの長尺の作品を制作したのは、珍しい例であり、実は快挙だったりします。
そんな本作の製作をメインで務めたのがタンジェントアニメーションというカナダのアニメーション製作会社。これまでにアニメ映画『ネクスト ロボ』などを制作した会社です。
部分的にこそ利用されることの多いBlenderを、メインの制作ツールとしてしまう稀有な会社で、その挑戦的な姿勢からも注目を浴びていました。今回こうして『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』が日の目を見て、今後より注目されていきそうな予感がする会社ですよね。
しかし、驚いたことにこのタンジェントアニメーションは2021年5月に閉鎖を発表。かろうじて完成していた『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』がタンジェントアニメーションにとって最後の長編作品となることが予想されます。ある意味、次がないという意味でも『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』は貴重な存在となってしまいました。
――大人も子供も笑えて、ここぞのシーンでは熱くなれ、さらにはホロリとさせる感動シーンもある、という直球エンターテイメント作品として月並みなオススメの仕方もできる作品なのですが、やはりここであげた『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』だからこそのポイントに注目してもらいたく、ここで熱を持って紹介しているのは、自身も夢中になって全話を一気見してしまったが故。みんなが見逃しかねない2021年秋アニメの一本として、ぜひ『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』をおさえておいてください。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi