あそこまで珍妙な怪奇家族がここまでポップになれるのか!

 そう、驚かされた2019年のアニメーション映画『アダムス・ファミリー』は、これまでのアダムス・ファミリー像をなぞりつつ、全く新しい体験をもたらす作品でした。

 アダムス・ファミリーは、もともと1930年代に雑誌の一コマ漫画から生まれた作品で、クリスマスに家の前で歌う聖歌隊に向かって、なんだかよくわからない液体を降り注ごうとする強烈な行動が象徴的なように、かつては“悪趣味”を振りまくようなダークな存在として活躍していました。そんなアダムス・ファミリーも、新たな3DCGアニメーションとなり、異質な家族として描かれながらも、周囲との共存を求めるマイノリティな存在として描かれ、ダークなルックスはそのままに親しみやすいキャラクターへと昇華することに成功しました。

 そんなアダムス・ファミリーがついに、というか意外にも早く帰ってきます。2022年1月28日に『アダムス・ファミリー2 アメリカ横断旅行!』が全国上映されます。新たな解釈でアダムス・ファミリーを描いた前作から、果たしてこの『2』では何を描くのだろうと思いきや「なるほど」と思わせる切り口で描いてきました。

◆お待たせ!『2』の主人公はウェンズデーだ!

 前作『アダムス・ファミリー』では満遍なく一家の面々が活躍しましたが、今回の『アダムス・ファミリー2 アメリカ横断旅行!』では、やはりというべきか、クールで残酷な言動に一目置かれる長女のウェンズデーにスポットが当たります。あまり表情も変えず淡々とした態度のウェンズデーを中心に物語を動かせるのか!?という心配はよそに、本作ではなんとウェンズデーがアダムス家の本当の子供ではなく、実は取り違えられた子供ではないか?という疑惑が生じるという物語になっています。

 あの父母あっての子供と言わんばかりのウェンズデーの性格ながら、『アダムス・ファミリー』ならではの悪趣味な理由で、ウェンズデーが実の子供ではない可能性が出てきたり、普通は重たくなりそうなテーマをコミカルに描いているところは流石。何よりもあのウェンズデーの心の機微を描く点がやはり嬉しいポイントです。クールなはずのウェンズデーが、しっかりと悩んだり、戸惑ったり、怒ったり。いつものポーカーフェイスぶりからは想像できないドラマを見ることができて、そのギャップに愛くるしさが強まりました。

 アダムス・ファミリー版『そして父になる』なんて表現すると、語弊が生まれてしまうのかもしれませんが、前作がアダムス・ファミリーで「共存」を描こうとした例とするならば、今作はアダムス・ファミリーで「家族」を描くとしたらこうなる、という作品となっていました。

◆広がるウェンズデーの世界

 思えば90年代にヒットした実写映画『アダムス・ファミリー』シリーズでも、決して主役ではないながらも、ウェンズデーにスポットが当たったパートは印象的。『アダムス・ファミリー2』(1993)では、クリスティーナ・リッチ演じるウェンズデーが、いつもはクールな性格をディズニー映画を見せられて矯正されかけるのですが、ネイティブ・アメリカン役を通じて反撃に転じるシーンは。アダムス・ファミリーの悪趣味さを活かした痛快な名シーンでした。あれから二十数年の時を経て、再びこうしてウェンズデーを通して、また別のメッセージが描かれるのは感慨深いものがあります。

 実はそんなウェンズデーへのスポットライトはこれからも続くことが発表されています。なんとNetflixにて、アニメシリーズとは別に、ウェンズデーを主人公に据えた実写のスピンオフドラマ『Wednesday(原題)』の制作が報じられています。監督・製作総指揮には、『シザーハンズ』『アリス・イン・ワンダーランド』のティム・バートン氏の名前が上がっており、ダークファンタジー界の大御所がいかにしてアダムス・ファミリーを描くのかも気になるところです。

 何にしても実はウェンズデーへのスポットライトはまだ『アダムス・ファミリー2 アメリカ横断旅行!』であたり始めたばかりということで、今後のウェンズデームーブメントの最初の波としても、今回のアニメーション映画の新作はぜひ多くの人におさえておいて欲しいところです。

 

 ――思えば、アニメや映画のヒロインでもウェンズデーほど影の強いヒロインは居なかったのではないでしょうか。昨今、陰気な性格の人のことを陰気なキャラクター……“陰キャ”と呼びますが、ど直球な陰キャのウェンズデーが2020年代の今、再び注目を浴び、物語を語らせられるのは、どこか時代がそうさせたかのような理由があるのかもしれません。マイノリティの声が少しずつ響きやすくなってきた今、ウェンズデーが語る言葉にこそ、意外と共感できる人も多いのかもしれません。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

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