2015年にアニメ化された、『響け!ユーフォニアム』シリーズ。

 アニメ化されるやいなや、吹奏楽部のリアルを描いたストーリーと、実際の音楽大学の学生によって収録された演奏シーンの完成度の高さで話題になったこの作品。特に第1期の練習風景では、実際に吹奏楽部にいた視聴者からは「トラウマを思い出す」といった悲鳴が聞こえてきたとかなんとか……。

響けユーフォニアム-1-Blu-ray
画像引用元:響け!ユーフォニアム 1 [Blu-ray]販売元:ポニーキャニオン

 一時期日本テレビ系列の番組『笑ってコラえて!』では「吹奏楽の旅」という企画がやっており、学生の日々の練習から苦悩や葛藤を超えて夏のコンクールに挑む姿がありありと映し出されていたこともあるので、もしかしたら「吹奏楽部は思っていたよりも厳しい世界だ」ということを知っている人もいるかもしれないですね。

筆者もかつて吹奏楽部に所属していた

 かくいう私も中学高校と吹奏楽部に所属しており、特に中学ではコンクールに出場した経験がありました。
結果は県大会止まりだったのでそこまで実力はなかったですが……。

 なので私も『響け!ユーフォニアム』を見たときは「あぁ、こういうのあったなぁ」と感慨深くなることが多かったです。
さて、今回は作中にあったとある騒動を中心にお話していきたいと思います。その騒動とは、トランペットの1年生でコンクールメンバーに選ばれた高坂麗奈が、3年生の中世古香織と自由曲「三日月の舞」の中間にあるソロをめぐってバトルを繰り広げたお話です。

「普通では先輩がソロを担当するのでは?」と、思う人が多いと思われる中で、なぜ1年生と3年生がソロを取り合う形になったのか。そして、現実の吹奏楽部では、こういったことは起こりうるのか?

 第1期の一番の注目シーンは、実際吹奏楽部にいた人にはどう見えたのか。ちょっと振り返ってみたいと思います。

特有の「暗黙のルール」

  『響け!ユーフォニアム』のストーリーには「練習をめぐって対立していた」エピソードがありました。やる気の無い当時の3年生に対しユーフォニアム担当の中川夏紀やトランペット担当の吉川優子率いる1年生が対立した結果、1年生が大量に部活を辞めていった苦い歴史があり、後に夏紀が練習への情熱を無くしたり、フルート担当の傘木希美が退部したことがオーボエ担当の鎧塚みぞれのトラウマにしまったりと、様々なしこりを生み出すことになってしまったのです。

 そして2年生の香織は、当時から実力もあったと言われつつも「ソロは上級生がやるもの」という暗黙のルールによって、ソロパートを3年生に取られるという辛い経験をしたのです。

 私ごとではありますが、当時1年生だった頃「あきらかに3年生より2年生の人の方がうまいよなぁ」と思っていた人がソロをやらせてもらえてなかったことが多かったのです。基本コンクールではないどこかの演奏会(学園祭だったり外部でお呼ばれされるコンサートだったり)の時は、楽器のパート内で話しあって決めることが通常でした。しかしその先輩は「他の活動で先輩よりも出席率が悪いから」という理由で外されていたのです。そして「普段練習に参加している子がかわいそう」という理由なのがなんとも……。

 私の吹奏楽部では必ず出席確認をしており、欠席遅刻早退などに関しては必ず顧問の承認が必要だったのです。そして私も、2年生の時に生徒会に入ろうと思っていたのですが、入ったら練習時間減るしどうしよう……と悩んで顧問に相談したら「やめとけ」の一言で一蹴されてしまいました。確かに「出席しない=練習しない」ことに繋がりますし、おそらく当時の顧問も本気で吹奏楽部に取り組んでいたからこその一言だったんだと思います。ただ自身の中では「身内だけで演奏会とかするなら別にいいけど、人に聞かせる音楽なら話は別。聞く人には誠意を持って演奏しろ」と考えていたので、どうも上記の理由で実力のある人がソロを任されないのには少々不満がありました。

「先輩優先」から「実力主義」へ

  『響け!ユーフォニアム』のお話に戻りましょう。

 1期第10話のソロパートは誰がやるのかという騒動は、もともと滝先生がコンクールメンバー発表の際に知らされたことであり、部員の中では誰もが香織がやるものだと考えていました。しかしソロパートを任されたのは麗奈だったのです。

高坂麗奈-響け!ユーフォニアム
画像引用元:TVアニメ 響け!ユーフォニアム キャラクターソング vol.4高坂麗奈(安済知佳) 販売元:ランティス

 それに対して優子をはじめとした部員らが滝先生に不満を爆発させた結果、ソロパートのオーディションをやることになり、最終的には香織が麗奈の実力を目の当たりにして麗奈にソロを譲った形になりました。

 『響けユーフォニアム!』の場合は、

・滝先生と麗奈が昔からの付き合いで依怙贔屓をしたのではないか

・(特に優子や部長の小笠原晴香が)香織が昨年ソロをさせてもらえなかったので今年は吹かせてあげたい

 という裏事情があったこと、そして何より香織も本気でソロを吹きたかったために、部内オーディションを行う結果になりました。

 ここで意外だったのは、滝先生が「最上級生がソロを吹く」という部内特有の伝統を壊したことにあります。本当に意外なんです。なんせ、実際の吹奏楽部では「わざわざソロオーディションをする」なんてこと、ほとんどないのですから。コンクール常連校の中では起きる可能性はあります(私が知らないだけで)。でも吹奏楽は基本的に「全員が一丸となって演奏を作る」コミュニティであるため、部活内でなるべく「荒事が起きないよう気を配る」ケースが多いんですよね。

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吹奏楽部員ってたまに“変な目”で見られます

  それこそ吹奏楽では「上下関係」が厳しいところが多いんです。先輩が先に帰るまで後輩は残れ〜だとか、片付けは後輩が全部やれ〜だとか。って、そんなん言ったら運動系とかも対して変わらないんですけどね。

 またそれに付随して、吹奏楽では集団で同じことをやることから、その「同じこと」に関しても独特な風習が出てきます。
少し音楽的な話になりますが、例えば「このフレーズでは全員が体を揺らしている」とか「譜面台は必ず真正面に!(トロンボーンとか一部を除いて)」だったり。どちらかと言うと演奏スタイルに部活の個性が現れます。そして、それに対し疑問をぶつけても「そういうものだから」で終了。良くも悪くも顧問の癖で変わる内容なので、独特とは言ってもパターンは数多くあります。

 しかしそれを集団で行っているからでしょうか? 「みんなで同じことをやる」という習慣が、演奏スタイルを超えて普段の部活生活にもにじみ出てくるんです。学生だった頃、吹奏楽部の人たちを見て「異様な雰囲気」を感じた人は、少なくないだろうと思います。だからこそ、部活内でできた独特の風習を顧問がぶち壊すなんてことが、意外だったというお話だったのです。

 本気で全国に行きたいからこそ、滝先生はもっとも実力のある麗奈をソロに任命し、公開オーディションという形式で部員全員にその理由を示したのです。

 香織先輩にとっては苦しい結果になってしまいましたが、本気でやるというのは上も下も関係ないのです。「学校の部活なのにプロの世界みたいなことを」と思う方もいるかもしれませんが、本気で全国を目指すのは並大抵なレベルではないです。
それこそ「みんなで演奏を楽しむ」だけで上には到底いけません。
 

――『響け!ユーフォニアム』では結果として全国にはいけなかったのですが、その悔しさをバネに来年も全国を目指そう! とみんなが結束していくようになりました。

 吹奏楽コンクールは今も熾烈を極める、本気で吹奏楽が好きな人であれば誰もが立ちたい舞台です。もし今学生である人であったり、ご両親であったり、先生の方々も「最高の音楽」を目指す吹奏楽部員を、そして『響け!ユーフォニアム』も応援してあげてください。

(Edit&Text/頭皮ぱっしょん)


TVアニメ『響け!ユーフォニアム』公式サイト
『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』公式サイト
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

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