この記事を書いているのは、夏なんてすっかり過ぎ去ってしまい、涼しさを感じるぐらいの気候になっている10月を目前にした頃なのですが、改めて2018年夏に関して日本のアニメ映画市場を振り返りたい!

 アニメ映画界にとっても、夏休みシーズンの興行はひとつの山場。毎年いろんな動きがある夏休み興行ですが、興行ウォッチャーの一人として、2018年がどんな様子だったのかを紹介します。

興行収入は希少な洋画作品がぶっちぎり首位!

インクレディブル・ファミリー
画像引用元:インクレディブル・ファミリー|映画|ディズニー公式 トップページより引用(2018年10月1日閲覧)

 まずは興行収入面。

 今年の夏は細田守監督最新作未来のミライや、人気シリーズ劇場版ポケットモンスターみんなの物語、さらには初の劇場版となった僕のヒーローアカデミア THE MOVIE 2人の英雄など注目邦画が盛りだくさんとなっていました。そんな中で、単純な興行結果で観ると、それらの邦画作品を押しのけて希少な洋画枠であるディズニー・ピクサー最新作『インクレディブル・ファミリー』50億円に迫る、ぶっちぎりの興行結果を見せました。

 2018年はミニオンでお馴染みのイルミネーション・エンターテインメント作品が夏に上映作品をぶつけられなかったことや、ジブリ作品級に話題となる邦画のライバル作が現れなかったことなども『インクレディブル・ファミリー』への追い風となりました。 

 肝心の映画の内容も、笑えるし楽しいし熱くなれるし、ちょっぴり毒も含まれていたりと、とびっきりのエンターテイメント作品となっていて、「さすがディズニー!」、「さすがブラッド・バード(監督)!」と叫びたくなる出来。文句なしの今夏の一番に値する映画でした。

興行で目立たなくてもキラリと光る名作たち

 一方で、興行収入などで大きく目立つ動きは見せはしなかったものの、その出来に感服する傑作にも多数出会うことができた夏でもありました。

 まずはなんといっても推しておきたいのがペンギン・ハイウェイ

 アニギャラ☆REWでも上映前に紹介記事を寄せた作品なのですが、そんな私の高い期待のさらに上を行くセンスオブワンダーがつまった映画でした。突如街中に現れたペンギンをきっかけに、大人びた少年アオヤマくんが体験する切なくも染みる物語は、忘れがたい夏休みの思い出として私の心にも深く刻まれました。アラサーの私には夏休みなんてなかったのですけど、幼いころに戻ったかのように忘れ難い記憶として残る一本でした。

 そして『ペンギン・ハイウェイ』とはまた違った衝撃を与えてくれた一本が『アラーニェの虫籠』

『イノセンス』などの製作に携わったアニメーション作家の坂本サクさんが、監督・原作・脚本・アニメーション・音楽などを一手に担うという特殊な体制で作られた映画なのですが、これがホラー映画というジャンルをこれでもかと味わわせてくれる見事な傑作でした。

 ポスタービジュアルから昆虫系のグロテスクホラーかと思わせておきながら、『リング』などを代表にした和製ホラーイズムや、戦時中の人体実験といったSF要素までも盛り込んでくるというサービスっぷり。もっとマニアックな作品をイメージしていたのですが、全然多くの人が楽しく見られる娯楽作となっていました。もちろん、ホラー作品なのでそういうジャンルの作品がダメな人が見られるかと言えば違うので注意は必要なのですが、全然イケるよ、という人は必見の一本でした。

 その他、アニギャラ☆REWでレコメンド済みの手を失くした少女といった傑作映画など、数字として目立った作品でこそなかったものの、鮮烈に印象を残す素晴らしいアニメ映画にたくさん出会える夏でした。ある意味豊作と言って良い年ではないでしょうか。 

2018年夏は実写映画に持ってかれた?

 そんな感じで2018年夏はそれなりの結果を残したアニメ映画や、傑作といえるアニメ映画も多数現れて、不作とは言えない年ではありました。

 ですが、結果的に2018年夏は多くの人の印象に強く残るアニメ映画というのが現れず不作感のある年となってしまった感じがあります。というのも、今年は実写映画が強かった!

 『ジュラシックワールド/炎の王国』『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』など洋画の注目作がこの時期にぶつかってくるのは毎年のことなのですが、今年はそれに加えて『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命』『カメラを止めるな!』など実写邦画作品が映画の話題を持っていったことが大きかったです。メディアなどで話題になる映画というとそれらの作品となってしまい、結果的にアニメーション映画は夏休みというシーズンを活かしきれず、流行りのムーブメントを起こせずに終わってしまいました。君の名は。の様な際立った結果を残すアニメーション映画もなければ、日米のアニメキャラクターが拮抗して競い合うような光景もなかったということで、落ち着いた感じが拭えない年となってしまいました。

 数字としてアニメ映画が不調だったわけでもないので、来年以降の夏休みシーズンに社会現象規模の結果を残すアニメ映画が登場する余地は全然あると思うのですが、後年に2018年の夏を振り返った場合、おそらくアニメ映画界としては間隙の年として印象は薄いでしょう。

 だけどそれは少し残念。そんな2018年の夏にもディテールとしては、ヒット作も傑作も存在していた悪くない年でしたよってことは、後々この年を振り返る誰かに残しておきたい感触です。

(Edit&Text/ネジムラ89)

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