「もしもの時のお金」、大丈夫ですか？　アニメのように「家族が入院」したらどうすればいい？

　いま放送中のアニメ『俺だけレベルアップな件』（通称、俺レベ）や、春からテレビアニメが始まる『喧嘩独学』の主人公たちは、母子家庭で育ち、入院している母親に代わりお金を稼いでいます。彼らの姿は、家族が入院したことのない人から見ると他人事に思えるかもしれません。

　しかし、家族が急に入院してしまうことは誰にでもありえます。現に、筆者も高校生の時に母親の病気が発覚し、急に入院したことがありました。もし、家族が急に入院したら、入院費や生活費を稼ぐために彼らのように働かなければならないのでしょうか——？

◆現実は「成り上がり」がほぼ不可能

　まずは、『俺レベ』や『喧嘩独学』の主人公たちが、どのように母親の入院費や生活費を稼いでいたのか振り返っていきましょう。

　『俺レベ』の主人公・水篠旬は、ダンジョン内のモンスターを倒すハンターになりお金を稼いでいましたが、最弱のハンターと呼ばれるほど弱く、大した金額を稼げません。しかし、あることをきっかけに特殊な能力を身に着けて強くなり、成り上がっていきます。

　一方、『喧嘩独学』の主人公・志村光太は学校でいじめられながらも、アルバイトをして必死にお金を稼いでいました。しかし、ある日、誤ってクラスメイトの金子亨（通称、カネゴン）と殴りあう姿を配信してしまったことをきっかけに、ケンカをしてお金を稼ぐ配信者として成り上がっていきます。

　このように彼らは特殊能力や動画配信によって成り上がり、お金を稼げるようになりました。しかし、現実は彼らのようにすぐにお金を稼げません。

　『俺レベ』はファンタジー作品なので除外するとして、『喧嘩独学』のようにYouTubeなどの動画配信でお金を稼いでいる人は確かにいます。

　しかし、動画配信は収益化するまでにいくつかの条件があるうえ、収益化したとしても生活費を稼げるようになるには時間がかかります。

　さらに、最近では動画配信を始める人が多く激戦区になっていて、稼ぎ続けるのが難しくなってきました。これらのことから、『喧嘩独学』のように短期間で爆発的にお金を稼ぐことは難しいでしょう。

では、家族が急に入院してしまい、入院費や生活費が必要になったら、何をすればいいのでしょうか？

◆入院した時には2つの制度を利用しよう

　もし、家族が急に入院したら、「高額療養費制度」と「傷病手当金」という2つの制度を使いましょう。

　まず、高額療養費制度とは同一月に支払った医療費が一定の金額（自己負担額）を超えた場合、超えた分の金額が戻ってくる制度です。自己負担額は収入や年齢によって異なりますが、人によってはかなり入院費を抑えられます。

　なお、この制度は保険適用の医療費が対象のため、保険適用外の診療や入院中の食事代・ベッド代などには適用されません。

　たとえば、『喧嘩独学』の志村の母親はがんで入院していましたが、彼女のように家族ががんで入院した場合、高額療養費制度を使える可能性が高いでしょう。がんの診療は、最新の治療や新しい薬・医療機器を使った治療は保険適用外です。しかし、それ以外の従来の治療は保険が適用されるため、高額療養費制度を利用できます。

　筆者も自身が入院した時に高額療養費制度を使いました。ひと月に入院費が何十万円かかるのだろうと怯えていましたが、制度を利用したことにより数万円で済んだのを覚えています。

　次に、家族が入院する前に働いていた場合には、傷病手当金を申請しましょう。

　傷病手当金とは、被保険者が病気やケガで働けなくなった場合、被保険者やその家族の生活を保証する制度です。病気やケガを理由に4日以上仕事を休んだ場合に受け取れて、もらえる金額は給料によって違います。

　また、支給期間は支給を開始した日から通算して1年6ヵ月です。なお、国民健康保険には傷病手当金の制度がありません。国民健康保険に加入している人は、この制度を利用できないので注意しましょう。

　『俺レベ』や『喧嘩独学』の作中では、物語が開始した時から母親が入院していたため、彼女らが会社員だったかは分かりません。しかし、女手ひとつで子供を育てていたことを考えると、会社員だった可能性が高いため傷病手当金を使えるでしょう。

　筆者も家族が病気で働けなくなった時に、傷病手当金を申請してもらったことがあります。筆者も働いてはいましたが、傷病手当金がなければ赤字が続き、まともな生活を送れなかったでしょう。

◆お金の知識は学校では教えてくれない

　高額療養費制度と傷病手当金以外にも、「ひとり親家庭等医療費助成」や指定難病医療費助成制度などのさまざまな制度があります。

　これらの制度をうまく使えば、家族が急に入院しても『俺レベ』や『喧嘩独学』の主人公ように、馬車馬のごとく働かずに済むかもしれません。

　しかし、これらの制度は知らなければ利用できないうえ、学校では一切教えてくれません。自分で積極的に調べたり問い合わせたりしなければ、得られない知識と言えるでしょう。

　『俺レベ』や『喧嘩独学』では、成り上がりをきっかけに主人公たちはお金を得ましたが、先述したとおり現実では彼らのように成り上がるのはほぼ不可能に近いです。もし、家族が急に入院してしまった場合には、お金に関する制度を勉強して少しでも負担する金額を減らしたり手当金を受け取ったりするのがいいでしょう。

〈文/林星来 @seira_hayashi　編集・監修/水野高輝（マネーメディアコンテンツディレクター）〉