今、ダンスを取り入れたアニメーションがブームを生んでいます。TikTokの登場以来、定期的に振り付けが用意されたアニメーションが流行を生み、それがそのまま作品の人気を牽引する結果を生んでいます。

 しかし、“踊らせればいい”という単純な話ではなく振り付けまで用意したもののあまり流行の波に乗れなかった作品もたくさんあります。どういった違いがその差を生んでいくのでしょうか?

◆世界的な流行まで導けるダンスアニメーションの成功作たち

 ダンスアニメーションのヒットがどこまでのブームを作れるのか。そのポテンシャルを示した作品が、直近で大ヒットを果たした『マッシュル-MASHLE-』のオープニングテーマであるCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」です。

 記憶に残るサビのフレーズとシンプルながら特徴的な振り付けが大ヒット。TikTokなどで音楽に合わせて真似をした動画を投稿する人が多数現れてブームとなりました。

 そのブームが世界スケールに広がり、楽曲は各種海外チャートでも上位に食い込みました。また、全世界に置けるストリーミングの累計再生回数はわずか1ヵ月で1億回を突破したことがソニー・ミュージックレーベルズから発表されています。

 楽曲の人気に合わせてアニメシリーズも人気を獲得し、映像配信サービスでも『マッシュル-MASHLE-』の2期だけでなく1期も新作アニメたちと並んでランキングの上位に並びだすという効果も生んでいます。

 “キャッチーな音楽と真似しやすい踊り”が鍵なのでしょうが、似た例として意外なアニメーションも今季の流行を果たしています。それが2月27日のPokémon Dayを記念して発表された“POKÉDANCE”のアニメーションです。

 

 歴代のパートナーポケモンたちと一緒にダンスする様子を9人のアニメーターがコラボレーションして描くという1分半ほどの短い映像なのですがこのダンスがTikTokで大流行。ポケモンをあまり知らないという人から芸能人に至るまで、この音楽に合わせて振り付けを真似て踊る様子が投稿されています。ダンスのアニメーションが流行するのはTVアニメーションだけに限らないのが分かります。

 その傾向を率先して取り入れているのがVtuberとして活躍する人たちのミュージックビデオです。

 ここ1年ぐらいの間にもピーナッツくんの「刀ピークリスマスのテーマソング2022」、宝鐘マリンさんの「美少女無罪パイレーツ」、しぐれういさんの「粛清!! ロリ神レクイエム☆」、田中ヒメさんと鈴木ヒナさんの二人によるHIMEHINAの「愛包ダンスホール」などなど、ダンスを併せたミュージックビデオの流行が断続的に生まれています。

 最新では星街すいせいさんの「ビビデバ」は、3月にミュージックビデオを発表したばかりで900万回以上の再生数を獲得し、サビパートの振り付けを真似た動画も徐々に増えてきています。

 こうして見ていくとアニメーションとダンスの組み合わせがいろんなジャンルでブームを生み出しているのが分かります。

◆踊らせればなんでも流行るわけではない?いまいちブームに乗れない例もある

 一方でなんでも踊らせれば流行るわけでもない例が、『僕の心のヤバいやつ』です。

 このアニメでは、オープニングテーマであるあたらよの「僕は...」に合わせて登場人物たちが踊るシーンが毎週流れていました。

 公式TikTokアカウントでも作品キャストによるダンス動画が投稿されていたりと、真似して踊るように促してはいたようです。しかし前述の『マッシュル-MASHLE-』のヒットもあってか、その影に隠れてしまい真似して投稿する例はあまり多くありませんでした。

 TVアニメ自体は最終回の放送時にはX(旧Twitter)の日本のトレンドで1位を獲得するほどの人気だったのですが、それほどの人気作でもダンスアニメーションという形では波及していかなかったのは興味深い例です。

 ペアで踊る振り付けだったことや、ダンスシーン以外の映像が印象的だったりと要因は一つではないのでしょうが、「なんでも踊らせれば流行る」という単純な話ではないと分かります。

 また、ダンスアニメーション自体が難しいものだと想像できる例が2023年放送の『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』でしょう。このアニメもオープニングテーマであるKANA-BOONの「ソングオブザデッド」に合わせて振り付けが用意されていて、登場キャラクターたちが踊る様子が描かれていました。

 しかし、肝心のダンスの振り付けが分かる映像は放送初期では流れず、しばらく本編映像が代わりに起用されていました。

 オープニング映像でやっと振り付けが完全に分かるような映像が放送されたのは全12話中、放送終盤の9話。しかも10話以降は放送延期となったのでじっくりとダンスする様子を放送期間中に見せられませんでした。これではせっかく振り付けまで用意したのに流行るものも流行らないでしょう。

 これから春季のTVアニメも続々と放送が始まりますが、果たして今季もダンス作品は登場するのでしょうか。うまくいけば流行る強い“カード”なのは間違いないのでしょうが、やれば必ず当たるものでもなければ、そもそも作るのも簡単ではないことは念頭に置いておく必要があるでしょう。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレターを配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

※サムネイル画像:YouTubeチャンネル『Creepy Nuts』より

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