※本記事には複数の作品のネタバレが含まれます。ご注意ください。
名勝負ほど、最後の決着で評価が分かれることがあります。ルフィがギア5でカイドウを倒した戦い、ネテロとメルエムの一戦、そして『ジョジョ』第6部のプッチ神父戦。どれも強敵を相手にした名場面でありながら、「これでよかったのか」と読者の間で意見が割れました。なぜ、これらの戦いは今なお語られ続けているのでしょうか。
◆ルフィのギア5はなぜ賛否を呼んだのか カイドウ戦に込められた“ふざける覚悟”
ワノ国編のラスボスとして立ちはだかったカイドウは、ルフィが何度挑んでも届かないほどの強敵でした。そのカイドウを倒す切り札となったのが、ルフィの新たな姿であるギア5です。
ルフィはカイドウとの4度目の激突で「咆雷八卦」を受け、一度は戦闘不能になります。しかし、謎の鼓動とともに復活し、ギア5へと覚醒しました。そこからの戦いは、従来の緊迫した殴り合いとは大きく変わります。カイドウの体内で自分の体を風船のように膨らませたり、雷をつかんで投げつけたりと、まるでギャグ漫画のような自由な戦い方を見せました。
この描写には、「ルフィらしい」「自由すぎる戦い方が面白い」といった肯定的な声がある一方で、「ふざけすぎて緊張感が薄れた」「今後のバトルもこの調子になるのか」と戸惑う声もありました。強大な敵との決着だからこそ、読者の受け止め方も大きく分かれたのでしょう。
ただ、このギア5の描き方には、作者の意図も見えます。原作者の尾田栄一郎先生は2016年7月20日に発行された、『大ONE PIECE新聞』2号で、読者が納得できるカイドウの倒し方が思いつかず悩んでいたことを語っています。さらに『週刊少年ジャンプ』2022年34号に掲載された青山剛昌先生との対談では、ギア5について「深刻な漫画にはなりたくない」「反感を買ってもいいからふざけて描いた」と述べています。
物語が終盤へ進むほど、世界の真実や大きな戦争が絡み、作品全体はどうしても重くなっていきます。その中で、あえてルフィらしい笑いと自由さを最後の武器にしたことが、ギア5の賛否を生んだ最大の理由だったのかもしれません。
◆メルエム戦はなぜ兵器で終わったのか ネテロの決着が残した後味
『HUNTER×HUNTER』のキメラ=アント編で、多くの読者が注目したのが、ハンター協会会長・ネテロと蟻の王メルエムの戦いです。念能力者として頂点に近いネテロが、作中でも最強格といえるメルエムにどう挑むのか。その答えは、少年漫画の王道から少し外れたものでした。
ネテロは長い修行の果てにたどり着いた念能力「百式観音」を使い、メルエムにすら容易には見切れない攻撃を浴びせます。しかし、メルエムは戦いの中でわずかな攻撃の規則性を見抜き、ネテロの腕と脚を奪いました。ネテロは最大の技である「零乃掌」まで放ちますが、それでも王を倒すことはできません。
最終的に勝敗を分けたのは、ネテロの肉体に仕込まれていた兵器でした。心臓が止まると同時に発動する爆弾によって、メルエムは致命的な毒を受けることになります。肉体と念の極限を尽くした戦いの結末が、格闘や能力ではなく兵器だったことに、読者の反応は分かれました。
一方で、この結末だからこそキメラ=アント編らしさが際立ったともいえます。人間と蟻の戦いでありながら、最後に露わになったのは、人間側が持つ残酷な兵器と執念でした。ネテロが純粋な格闘戦でメルエムを倒していたら、その後に描かれるメルエムとコムギの静かな最期にはつながらなかったでしょう。
少年漫画らしい爽快な勝利ではありません。それでも、メルエムという存在の強さ、人間の恐ろしさ、そしてコムギとの関係を描き切るためには、あの苦い決着が必要だったのかもしれません。
◆徐倫はなぜ勝てなかったのか 『ジョジョ』第6部ラストに残った希望
『ジョジョの奇妙な冒険』(以下、『ジョジョ』)第6部でも、読者の間で大きく意見が分かれた決着があります。空条徐倫たちが挑んだラスボス、プッチ神父との最終戦です。
プッチ神父は「メイド・イン・ヘブン」によって時を加速させ、人類を新たな世界へ導こうとします。その圧倒的な能力の前では、徐倫だけでなく、シリーズ屈指の強者である空条承太郎でさえも追い詰められました。
徐倫は最後の希望をエンポリオに託し、自らはプッチ神父に立ち向かいます。しかし、彼女は勝利することができません。やがて世界は一巡へ向かい、エンポリオだけが記憶を抱えたまま新たな世界へたどり着きます。そこで彼は、徐倫やアナスイを思わせる人物たちと出会うことになります。
この結末には、「エンポリオに希望を託した徐倫が熱い」「別の形でも再会できたことに救いがある」と受け止める声がありました。一方で、「主人公がラスボスを倒さないのはつらい」「承太郎まで失われる結末は受け入れがたい」と感じた読者も少なくありません。
それまでの『ジョジョ』では、主人公たちがラスボスを倒し、次の世代へ物語をつないできました。だからこそ、第6部の終わり方は異例です。ただ、徐倫が勝てなかったからこそ、エンポリオに託された希望が際立ちました。完全な勝利ではなくても、運命に抗った意志は新しい世界へ残ったのです。
──ギア5の自由すぎる決着、メルエム戦の苦い兵器、そして徐倫が命をかけて託した希望。いずれも、読者が思い描く王道の勝利とは少し違う形でした。だからこそ賛否を呼び、同時に忘れられない戦いとして残っているのでしょう。
強すぎる敵を前にしたとき、物語はときに正攻法だけでは終われません。納得しきれない後味や、意見が割れる決着まで含めて、これらのバトルは作品のテーマを強く刻み込んでいます。
〈文/最上明夫 編集/相模玲司〉
《最上明夫》
アニメ・漫画・特撮・映画など、幅広いエンタメ作品に関心を持つライター。作品内の設定やキャラクター描写、物語構成を丁寧に読み解き、読者が作品をより深く楽しめる記事制作を心がけている。アニギャラ☆REWでは、アニメ・漫画を中心とした考察・解説コラムを担当している。
※サムネイル画像:Amazonより 『「ONE PIECE」第104巻(出版社:集英社)』


