<この記事にはTVアニメ、原作漫画『ダンジョン飯』のネタバレが含まれます。ご注意ください。>
TVアニメ『ダンジョン飯』は、ライオスの魔物への愛や、仲間たちの冷静なツッコミから、アニメから作品に入ったファンの間で「ほのぼの系」「ギャグよりのグルメアニメ」と評価されています。
しかし、そんな評価とは裏腹に、この作品は死体を回収を生業としている者が登場したり、複雑な人間関係があったりなど、意外とブラックな要素があるのです──。
◆迷宮の中なら死んでもセーフ?
この作品の迷宮(ダンジョン)内では死亡しても肉体の状態が悪くなければ蘇生ができることから、命の価値を軽視していたり、命を商売道具にする者がいたりします。
『ダンジョン飯』の迷宮には、肉体が損傷しても魂が体から離れなければ蘇生できる「不老不死の呪縛」という呪術がかけられています。
この呪術は人型の生物のみに有効で、迷宮へ入った時に自動的に付与され、出れば解除されるのです。また、この呪術はライオスたちが冒険する迷宮だけでなく、冒険者がにぎわう迷宮には大抵かけられています。
この呪術があるためにこの作品では、冒険者の中で命の価値が軽く、私たちが思わず「えっ!?」と驚くような描写があります。
たとえば、原作第1巻「第2話 タルト」では、ライオスたちが冒険者の死体をどうするのか冷静に話し合っていました。
この話では、マルシルが人喰い植物に捕らわれた際、植物の中から冒険者の死体が出てきます。
死体が出てきたとき、マルシルも「うわあああああ」と悲鳴を上げていましたが、植物を倒して食事をしたあとには、「あの死体どうする?」と話し合いを始めました。
誰かが発見してくれることに望みをかけ、よく見えるところに安置することとなりましたが、生き返るとはいえ冷静に死体をどうするのか話し合う姿は異様です。
さらに、本作には命を商売にしている死体回収屋が存在します。
死体回収屋は迷宮内で死体を回収して蘇生屋へ引き渡すことを生業にしており、蘇生された冒険者や島から報酬金などを受け取っています。死体回収屋のなかには、あえてパーティーが全滅するように仕向ける悪徳業者もおり、解釈によっては、命を軽視しているようにも見えてしまいます。
◆意外と複雑な人間関係
今でこそライオスたちは仲が良く信頼し合っていますが、実は過去には恋愛が原因でパーティーが解散の危機に陥ったことがあります。
過去のライオスたちのパーティーでどんな揉めごとが起こったのか、詳しくは描かれていません。しかし、原作8巻「第56話 バイコーン」のチルチャックの回想では、複雑な人間関係があったことが語られています。
その話ではライオスのパーティーの関係図が描かれており、婚活女がライオスやシュローに好意を寄せていたり、臨時がファリンに片思いをしたりなど複雑な様子が描かれていました。
さらに、キャラクターブック『ダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル』には、過去にライオスが仲間といい仲になりかけたことでパーティーが解散の危機に見舞われ、チルチャックから職場恋愛禁止が言い渡されたと記されています。
また、複雑な人間関係はライオスたちだけではありません。現在のシュローのパーティーも複雑な人間関係にあります。
たとえば、シュローの教育係であるマイヅルは、ファンブックでシュローの父親と愛人関係にあることが分かりました。シュローは以前から両親よりマイヅルを慕っていたそうですが、この件によりマイヅルと壁を作ってしまっているようです。
さらに、忍者部隊の1人であるヒエンは、幼い頃よりマイヅルとシュローの父親を見ていたためか、自身もシュローといい仲になると思っていました。
しかし、シュローがファリンに思いを寄せるようになり、そんな思いも打ち砕かれます。ヒエンいわく、恋心があったわけではありませんが、衝撃的だったようです。
また、恋愛関係だけでなく、ライオスが父親と折り合いが悪かったり、エルフのミスルンが兄を嫌っていたりなど、この作品では家族関係でも複雑な人間関係が見られます。
◆誰かの死の上に命が成り立っている
この作品では、自分たちで迷宮内にいる魔物を倒して調理することで、グルメ漫画に忘れられがちな「食物連鎖」が描かれています。
グルメ漫画はつい美味しそうな料理にばかり目が行きがちですが、そんな美味しそうな料理もあらゆる生物の犠牲のうえで成り立っています。
多くのグルメ漫画では調理シーンこそ描かれますが、食材を狩る姿は描かれておらず、どんな生物が犠牲になっているのかは分かりません。しかし『ダンジョン飯』では、ライオスたちが食材を狩る姿から描かれており、料理が尊い犠牲のうえに成り立つものだと思い出させてくれます。
そんな食物連鎖を表すセリフとして、原作12巻「第80話 食物連鎖」ではライオスが「何かが生きるためには何かが死ぬ必要がある それはこの世界のルールだ」と言っていました。これは何もこの作品の世界だけでなく、私たち現実の世界でも同じことが言えるでしょう。
ほかの生物の犠牲のうえに私たちが生きるのは残酷に思えるかもしれませんが、私たちは食事をしなければ生きていけず、ライオスが言っていたことは紛れもない真理です。
私たちは普段から自分で食材を捕まえて捌くことがないため、ついこの真理を忘れがちですが、古来より変わらない世のルールと言えるでしょう。
ほかの生物の命を奪って食べる姿はブラックな要素ではありますが、現実に即したものだと言えます。
──このように『ダンジョン飯』はかなりのブラックな要素が描かれていますが、食物連鎖のようにブラックな要素があるのは現実でも同じこと。この作品で描かれるブラックな要素が現実でも通じることから、共感を呼び多くの人が作品に惹かれているのかもしれません。
〈文/林星来 @seira_hayashi〉
フリーライターとして活動中。子供の頃から培ってきたアニメ知識を活かして、話題のアニメを中心に執筆。アニメ以外のジャンルでは、葬儀・遺品整理・金融・恋愛などの記事もさまざまなメディアで執筆しています。