※本記事にはTVアニメ・原作漫画『ドラゴンボール』のネタバレが含まれます。ご注意ください。
『ドラゴンボール』の意外な裏話は、脇役たちの見方まで変えてしまいます。ブルマには作家として活躍する姉がいて、ミスター・サタンが強敵との戦いを避けるようになった背景には、若き日の痛い経験がありました。さらに、アックマンの天下一武道会優勝歴や、完全版で加筆されたウーブのラストシーンをたどると、本編だけでは見落としがちなキャラクターの奥行きが見えてきます。
◆ミスター・サタンはなぜ強敵を避けるのか 桃白白とつながる若き日の過去
ミスター・サタンは、セルゲーム後に世界の英雄として扱われる一方で、本当に危険な相手との戦いには慎重な姿勢を見せる人物です。ギャグ調に描かれることも多いですが、その“逃げ腰”には、若いころに受けた強烈な経験が関係しているのかもしれません。
サタンは若いころ、「サタンの城」と呼ばれる道場で武術を学んでいました。『最強ジャンプ』2014年6月号の「鳥山明先生 魔人ブウ編(秘)一問一答!」では、サタンが南の都へ遠征した際、同行していた道場の師範が桃白白によって命を奪われたことが明かされています。
鳥山明先生によると、師範はうっかり桃白白の髪型をからかってしまったそうです。その結果、師範は命を落とし、サタン自身も重傷を負いました。この出来事をきっかけに、サタンは正体の分からない相手や、明らかに強そうな相手とは絶対に戦わないと誓ったとされています。
この背景を知ると、サタンの立ち回りはたんなる臆病さだけでは片づけられません。魔人ブウに対しても、真正面から挑むのではなく、下手に出ながら距離を詰めていきました。その姿勢が結果的にブウの心を動かし、地球を救う流れにつながったことを考えると、桃白白との因縁はサタンという人物を形作った重要な過去だったともいえます。
◆ブルマには姉がいた? 『銀河パトロール ジャコ』で描かれたタイツの行動力
ブルマに姉がいるという設定は、本編だけを読んでいると意外に感じる人も多いかもしれません。その姉の名前はタイツ。彼女は『ドラゴンボール』シリーズの前日譚にあたる『銀河パトロール ジャコ』に登場し、物語のヒロイン的な役割を担っています。
初登場時のタイツは17歳で、金髪の美少女として描かれています。見た目だけでいえば、ブルマとは大きく印象が異なります。しかし、『ドラゴンボール超』に登場した大人の姿では、ショートヘアの雰囲気もあって、年齢を重ねたブルマとどこか似た空気を感じさせます。
タイツは16歳で大学を卒業し、SF作家を目指して東の都で一人暮らしを始めました。その後、不良に絡まれていたところをジャコと大盛徳之進に助けられ、大盛の島へ移り住んだり、取材のためにアイドルと入れ替わってロケットに乗り込んだりします。頭の良さ、好奇心、行動力のどれを取っても、ブルマの姉らしい大胆さがあります。
『ドラゴンボール超』では、ブルマから姉の存在を聞いた悟空やベジータも驚いていました。長年の仲間である悟空たちでさえ知らなかったあたり、タイツは作品世界の中でもかなり珍しい存在だったのでしょう。
◆アックマンはただの怪人ではない? 天下一武道会2度優勝の実力
占いババの戦士として登場したアックマンも、実はかなりの実績を持つキャラクターです。悟空たちが参加する以前、天下一武道会は第20回まで5年に一度の開催でした。その時代に、アックマンは2度も優勝しています。
作中で亀仙人は、アックマンを過去に天下一武道会で二度優勝した達人だと評しています。悟空との戦いでは力の差を見せつけられましたが、それは悟空たちが出場した第21回以降の大会レベルが一気に跳ね上がっていたからとも考えられます。第20回までの出場者の中では、アックマンは相当な実力者だったはずです。
アックマンの代名詞といえば、相手の悪の心を増幅させて爆発させるアクマイト光線です。悟空には悪の心がなかったため通じませんでしたが、普通の相手なら非常に危険な技といえます。とはいえ、天下一武道会では相手を死に至らしめると失格になるため、実際の大会では体術を中心に戦っていた可能性が高いでしょう。
さらに、アックマンには翼があり、空を飛べるという利点もあります。場外負けを避けやすいだけでも、天下一武道会では大きな武器です。見た目のインパクトに隠れがちですが、アックマンはギャグ寄りの敵ではなく、当時の大会史に名を残す強豪だったと見ることもできます。
◆完全版ラストで悟空がウーブに渡したもの 筋斗雲に込められた次世代へのバトン
『ドラゴンボール』のラストにも、完全版で印象的な加筆があります。『週刊少年ジャンプ』連載時とアニメ版の最終話では、悟空がウーブを背中に乗せ、舞空術で飛び去る形で物語が締めくくられていました。
一方、コミック完全版第34巻では、悟空からプレゼントされた筋斗雲にウーブが乗って飛んでいく場面が追加されています。筋斗雲は心が清い者でなければ乗れない乗り物です。作中でも、悟空やその息子たち、青い髪のランチ、ウパ、則巻アラレなど、乗れる人物は限られていました。
その筋斗雲にウーブが乗れたということは、邪悪な存在だった魔人ブウの魂が転生し、本当に清い心を持つ少年として生まれ変わったことを示しているように見えます。たんに移動手段を渡したのではなく、悟空がウーブを次の時代を担う存在として認めた場面だったのではないでしょうか。
ウーブは、悟空にとって身内以外では初めての本格的な弟子ともいえる存在です。だからこそ、筋斗雲を譲る描写には、地球の未来を託すという意味も重なります。連載時の余韻も魅力的ですが、完全版の加筆によって、悟空からウーブへとバトンが渡る感覚はより強くなっています。
──ブルマの姉・タイツ、二度の優勝歴を持つアックマン、筋斗雲を受け取ったウーブ、そして桃白白との過去を持つミスター・サタン。こうした裏話を知ると、本編で何気なく見ていたキャラクターたちの印象は少し変わってきます。
『ドラゴンボール』は大きなバトルや名場面が語られがちな作品ですが、周辺設定にもキャラクターの生き方を広げる小さな手がかりが残されています。何度も読んだはずの物語でも、こうした細部を拾い直すことで、また違った楽しみ方ができるのではないでしょうか。
〈文/相模玲司〉
《相模玲司》
編集プロダクション勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動。メンズファッション誌の編集、週刊誌Web版での取材記事制作、アニメ・漫画関連のムック本制作など、幅広い媒体で編集・執筆経験を持つ。アニギャラ☆REWでは、アニメ・漫画・映画を中心としたエンタメ記事の編集、構成確認、コンテンツ制作を担当している。
※サムネイル画像:Amazonより 『「DRAGON BALL 完全版 29」(出版社:集英社)』


