©Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.

<©Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.>

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 米アカデミー賞で、ハリウッドメジャー大作を抑え見事長編アニメーション賞を受賞したラトビア映画『Flow』が3月14日から日本でも公開される。

 監督にとって前作にあたる長編作『Away』(2019)は制作の工程のほとんどを一人でこなしたことでも知られているが、今回は自身のプロダクションにてチームでの制作に臨むといった変化もあった。

 いかにして『Flow』を作っていったのか。その胸の内や製作環境の変化について、米アカデミー賞の前哨戦としても名高いゴールデングローブ賞の受賞を果たす直前、監督へお話をおうかがいした。

◆『Flow』が生まれるきっかけを生んだ短編アニメーション

ギンツ・ジルバロディス監督 ©Kristaps

<ギンツ・ジルバロディス監督 ©Kristaps>

──今回の『Flow』を制作しようと思ったきっかけを教えていただけますか。

 

ギンツ・ジルバロディス監督(以下、ギンツ監督):理由は二つあります。高校時代に猫を飼っていたのですが、そのときに水を怖がっているという猫の短編アニメーション(『Aqua』(2012))を制作。その後、長編の『Away』を撮ったあとに機会に恵まれまして、より多人数で予算の大きい作品に取りかかることになりました。

 そこでこれまで一人で作業していた自分になぞらえ、グループの中で共に働くことを学ぶキャラクターを高校時代に撮ったストーリーをここで活かして、自立していた猫がほかの動物たちと一緒に働くことを学ぶというストーリーにしています。

 

──その短編『Aqua』も観させていただきました。今回はそれをあえて長編にしたということで作品を通して伝えたいこともあったのでしょうか。

 

ギンツ監督:短編と長編の大きな違いは、猫を描くだけでなくほかのキャラクターも登場する点です。『Aqua』では猫は水を怖がるだけでしたが、『Flow』ではそれに加えてほかの動物のことも怖がっています。それは、協調しなければいけないことへの不安であり、信頼できたり、親しくなれるかといった怖さもあったりします。関係が悪化したときは水も荒々しく、みんなが調和すると水も穏やかになるという水とグループの連動性もあります。

 

──なるほど。

 

ギンツ監督:メッセージを送るというよりは映画を観てくれた人に感情の旅路を経験してもらいたいです。猫は恐怖心を乗り越えて、不安はあるものの一皮向けますよね。何か問題とか恐怖を抱えていても容易に乗り越えることはできないし、問題はすべて解決しない。そのほうがリアリスティックだと思いました。

 ただ、急に違うものや人にはなれないけれども、この猫はほかの動物たちと親しくなることで抵抗感がなくなり、お互いを支えられるようになります。結末で「嬉しい」や「悲しい」とか「良い」「悪い」といった短絡的な内容にならないように、正直に描くのがしっくりくるのではないかと考えました。

◆猫の仲間たちはどう決まっていったのか?

©Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.

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──短編に出てこなかった動物はどう決めていったのですか。

 

ギンツ監督:猫に次ぐ第二のキャラクターの犬は私自身が犬を飼っていたのでそこから着想を得ました。

 そして鳥を登場させたいと思っていたのですが、猫を抱えていくシーンがあるので、それができるぐらいのサイズの鳥で、荘厳で権威を感じさせる鳥を探して、南アフリカにヘビクイワシという鳥がいてぴったりだと思いました。

 それぞれの動物は取りつかれているものやこだわりがあるのですが、収集癖があるということや手足を使って物を掴めるというところからキツネザルにしました。

 どの動物も求めているゴールは自分を受け入れてもらえる場所を探しているということです。いろいろあってゴールに近づくけれども、唯一変化を遂げないのがカピバラです。カピバラはみんなにとってメンターのような役割を果たしています。カピバラは人間や敵といった存在ともうまくやれるということで選びました。

©Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.

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◆『Flow』で学んだ脚本の書き方

©Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.

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──前作の『Away』は章立てで制作していたと聞いています。短編を長編にするにあたって今回は物語の各パートは段階的に作っていったのでしょうか。

 

ギンツ監督:今回は最初から長いストーリーと捉えて作りました。『Away』は概略しかなく脚本がありませんでした。自分が即興でビジュアルを作りながら同時にストーリーを作っていったのです。

 しかし『Flow』は大きな予算を得るには脚本が不可欠なので、何度も推敲を重ねてドラフトを書きました。いろいろ変化はあったのですが、思ったより事前にストーリーを考えるのは難しいことではなくて、この作業から多くを学びました。どう作っていったかといえば、最初は数行で始め、そのあとは数段落、そのあとどんどんディテールを増やして、そのあと隙間を埋めていくのです。

 こうしてスクリプトは完成したのですが、そのころには私も含めてそれを読む人は誰もいませんでした。というのも映像が頭の中にできあがっているので、制作チームに見せる段階では編集されているものを見せていました。この作品の感情の起伏といったものは言葉で伝えるのは難しいので、イメージや音楽が雄弁に伝えてくれると考えてのことです。

©Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.

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◆今までとは違った制作環境で発見したこと

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──今回からプロダクション経営や少人数のチームでの制作環境になって、情報共有の苦労なども海外のインタビューなどでは語られていましたね。

 

ギンツ監督:今回奇妙なことに自分がまとめ役という初めての任務も負わなければいけなくなりました。元々はスタジオの傘下に入るという話だったのですが、出資があったのでそれを活かして、ラトビアで自分たちのスタジオをやろうということになったのです。本当にできるのか怖くもあったのですが、無知だからこそ功を奏しました。とりあえず飛び込んでみました。

 

──今作の制作を経て発見したことなどはありましたか。

 

ギンツ監督:私たちのスタジオはラトビアにおいてもかなり小さなスタジオといえます。一部屋に5人いるような感じです。数日しか関わらない人もいれば、1週間の人もいたり、2年がっつり関わる人もいたりと人が入れ替わっていき、トータルでは50人以下で制作しました。いろんな人が時期によって関わるのでマネジメントの仕事が加わりましたね。

 フランスとベルギーの共同制作をするスタジオやプロデューサーは経験も知識も豊富だったので、それらはこれからも活かしたいなと思いました。小さいチームは良いアイデアを取り込めるし、直接コミュニケーションを図れます。もし100人とかいたらなかなかそうはいきません。

 

──最後にこれから『Flow』を観る人にメッセージをお願いします。

 

ギンツ監督:皆さんがこの映画を観てくれる機会があることをとても嬉しく思います。『Flow』は仕事として取り組んだものではない、とても個人的な私にとって大切な作品です。チームも尽力してみんなで一生懸命作りました。

 本当に小さい作品なので皆さんの応援が必要です。大きなリスクをとった今までに例のない映画……ある意味、私が観たかった、観たことのないような映画といえます。なので日本の皆さんに観てもらえることを楽しみにしています。

〈取材・文/ネジムラ89 編集/水野ウバ高輝〉

◆映画情報

3月14日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷他にてロードショー

▼受賞

  • 2025年アカデミー賞 長編アニメーション賞受賞
  • 2025年ゴールデングローブ賞 アニメ映画賞受賞
  • 2025年アニー賞 長編インディペンデント作品賞・脚本賞受賞
  • 2024年アヌシ―国際アニメーション映画祭 4部門(審査員賞・観客賞・音楽賞・ガン映画財団配給賞)受賞
  • 2024年グアダラハラ国際映画祭 最優秀長編アニメーション賞受賞
  • 2024年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門出品
  • 2024年トロント国際映画祭出品
  • 2024年東京国際映画祭出品

▼ストーリー

世界が大洪水に包まれ、今にも街が消えようとする中、ある一匹の猫は居場所を後に旅立つ事を決意する。

流れて来たボートに乗り合わせた動物たちと、想像を超えた出来事や予期せぬ危機に襲われることに。しかし彼らの中で少しずつ友情が芽生えはじめ、たくましくなっていく。

彼らは運命を変える事が出来るのか?そして、この冒険の果てにあるものとは―?

  • 監督:ギンツ・ジルバロディス 
  • 2024/ラトビア、フランス、ベルギー/カラー/85分
  • 配給:ファインフィルムズ
  • 映倫:文部科学省選定(青年/成人/家庭向き)
  • 原題:Flow
  • 後援:駐日ラトビア共和国大使館

▼公式Webサイト

https://flow-movie.com/

 

©Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.

▼この記事を書いた記者

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteではアニメ映画ラブレターマガジンを配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi

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