アニメオリジナル描写は、ストーリーやキャラクターの改変からたびたび賛否両論を招くことがありますが、TVアニメ『葬送のフリーレン』のアニオリ描写はファンから絶賛されています。なぜ、そこまで絶賛されているのでしょうか?

◆アニオリ描写が絶賛される理由

 TVアニメ『葬送のフリーレン』のアニオリ描写が絶賛されている理由は、ストーリーを改変をせずに原作の雰囲気をそのまま表現していることがあげられるでしょう。

 このアニメでは、アニオリ描写にありがちなストーリーやキャラクターの改変が加えられていません。また、ストーリーの入れ替えなども行われておらず、原作のストーリー進行にそって忠実に描いています。

 ここまで原作を忠実に描いている理由に、出版社の編集部から要望があったことがあげられるでしょう。

 このアニメの監督を務める斎藤圭一郎氏は、「できるだけストーリーの組み替えなどは行わず、原作のイメージを大事にしてほしい」という要望を編集部からもらったとメインスタッフの座談会で語っています。斎藤氏をはじめとするスタッフらはこの要望に応えるため、原作を忠実に描いたのでしょう。

 また、ほかにこのアニメのアニオリ描写が絶賛される理由として、コマの行間をていねいに描いていることがあげられます。

 マンガはコマとコマの間に余白や行間がありますが、それらの間を想像するのもマンガの面白さの一つです。本作は時間経過が重要な事柄のためか、特にコマの間で流れている時間を想像するのが楽しい作品といえるでしょう。

 この作品のアニメのシリーズ構成・脚本を務める鈴木智尋氏も、メインスタッフの座談会の中で、「原作の余白や行間にある時間経過をていねいに見ていくことが楽しかった」と話しています。

 そこで、脚本では時間経過のコマを箇条書きにしつつも、全体で一つの文章になるようにつなげ、物語性が出るように工夫したそうです。

 行間を描くことはアニメならではの取り組みですが、ていねいに描くことで本作の時間経過を見事に表現しています。

◆原作の解像度だけじゃない!キャラへの理解度も深い

 原作の雰囲気をアニメにそのまま落とし込んでいる『葬送のフリーレン』ですが、アニオリ描写で各キャラクターも掘り下げています。

 たとえば、TVアニメ第24話「完璧な複製体」では、自身の複製体と戦闘するヴィアベルたちのアニオリ描写が描かれました。

 このシーンではヴィアベル・エーレ・シャルフの3人がヴィアベルの指示のもと、自身の体を模した複製体と戦闘します。シャルフが「見た者を拘束する魔法(ソルガニール)」対策として「花弁を鋼鉄に変える魔法(ジュベラード)」で視界を遮り、ヴィアベルとエーレが攻撃にまわりました。

 エーレは単純な魔力の殴り合いならヴィアベルやシャルフを圧倒できることから、魔法攻撃でヴィアベルとシャルフの複製体を攻撃します。

 そして、ヴィアベルは北部魔法隊隊長として培ってきた戦闘経験から、地形を利用して複製体のエーレへソルガニールを使用できる状況を作り出しました。

 一次試験のときにフェルンがエーレのことを3人の中で一番強いと評価し、エーレはフェルンとの会話でヴィアベルのことを実戦経験の桁が違うと言っています。アニオリ描写はこの評価を見事に表現していました。

 また、この話では試験会場である「零落の王墓」を探索して隠し扉を見つけるフリーレンたちの姿が描かれましたが、こちらもアニオリ描写です。

 前の第23話では原作に沿ってフリーレンたちが迷宮攻略を楽しんでいる姿が描かれており、このときにフェルンはフリーレンが魔道具を集めて楽しそうに笑っている姿が好きだと言っていました。

 第24話では、アニオリ描写で隠し扉の先に壁画を見つけて今度はフェルンが楽しそうに笑い、フリーレンもフェルンにつられて笑っています。

 前話とは対照的に描かれており、おたがいが楽しそうに笑っていればつられて笑ってしまう師弟関係が描かれていました。

◆なぜ『葬送のフリーレン』のアニオリ描写は成功したのか

 このアニメのアニオリ描写が絶賛される理由について解説しましたが、なぜここまで成功したのでしょうか。

 それは、スタッフが編集部からの要望を守るだけでなく、一丸となって原作を大事にしたいと思っていることがあげられるでしょう。

 斎藤監督はメインスタッフの座談会で「原作を大事にしていきたいというのは、スタッフみんなが思っていること」と、述べています。また、鈴木氏も「原作を大事にすることが最善であると考えて作っています」と、語っていました。

 このようにスタッフが「原作を大事にする」という共通の意識を持つことで、原作を損なわない巧みなアニオリ描写を加えられたのでしょう。

 また、一つひとつの描写に最適な表現を考えていることも、理由としてあげられます。

 TVアニメ第3話「人を殺す魔法」では、フリーレンとフェルンが封印から解けたクヴァールと戦いました。原作では最後まで地上で戦いますが、アニメではフリーレンが空を飛び空中からゾルトラークを放ち、クヴァールを倒します。

 このアニオリ描写は、クヴァールが封印されていた80年のうちに、人間が空を飛べるようになったことを表しており、クヴァールの止まった時間と人間の発展という第3話のテーマを強調しています。

 斎藤監督もこのアニオリ描写について、テーマを強調した結果の演出だと語っていました。ひとつひとつの描写についてより最善な演出はないか、作品と向き合っているからこのような巧みなアニオリ描写が生まれるのでしょう。

 ——このように『葬送のフリーレン』では、スタッフが一丸になって「原作を大事にする」という共通意識を持ち、作品と向き合っていることがうかがえます。本作のアニオリ描写が絶賛されるのは、そんなスタッフの共通意識やアニメならではの行間の描写、最善な演出を追及する熱意があるからでしょう。

〈文/林星来 @seira_hayashi

《林星来》
フリーライターとして活動中。子供の頃から培ってきたアニメ知識を活かして、話題のアニメを中心に執筆。アニメ以外のジャンルでは、葬儀・遺品整理・金融・恋愛などの記事もさまざまなメディアで執筆しています。

 

※サムネイル画像:https://frieren-anime.jp/story/ep26/より


アニメ『葬送のフリーレン』公式サイト
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

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