※本記事には複数の『ガンダム』作品の内容が含まれます。ご注意ください。
量産型だからといって、主役機より下とは限りません。『ガンダム』には、ワンオフ機の技術や思想を受け継ぎながら、量産機として高い性能を発揮した機体があります。シャアも乗ったリック・ディアス、量産型ガンダムF91、そしてクロスボーン・ガンダムの地球圏仕様ともいえるフリント。それぞれの成り立ちをたどると、量産化の難しさと、それでも名機に迫った機体たちの意外な実力が見えてきます。
◆シャアが乗ったリック・ディアスはなぜ“ガンダム級”だったのか
リック・ディアスは『機動戦士Zガンダム』にて、クワトロ・バジーナに名前を変えたシャア・アズナブルや、アムロ・レイも搭乗した機体です。その見た目こそジオン系の重モビルスーツですが、実は量産型ガンダムともいえる要素を持つモビルスーツでした。
プラモデル『HGUC 1/144 リック・ディアス』の説明書によると、本機の装甲とフレーム材にはガンダリウムγが使用されています。そのため、エゥーゴ指導者ブレックス・フォーラ准将は、当初「γガンダム」と名付けようとしていました。
最終的に、クワトロがガンダムと名付けるのを嫌ったため、リック・ディアスと名付けられていますが、ガンダムの名を冠するに相応しい要素と性能を持った量産機です。
書籍『ガンダムモビルスーツバイブル 10号』(出版社:デアゴスティーニ・ジャパン、2019年4月9日出版)によると、本機はガンダリウムγの採用により、重装甲と軽量化を両立し、重量低減分を推進剤に割くことで、機動力の大幅な向上に成功しています。また、背部にブースター・バインダーを採用したことで、高い運動性も発揮できます。
本機は最新技術を数多く導入したことで、従来機を大幅に上回る性能を実現。各分野に衝撃を与え、モビルスーツの世代交代を勢いづけることになったとされています。まさに、時代を変えた機体という意味では、ガンダムの名を背負うに相応しいモビルスーツと言えるのです。
作中でも、1話から登場し、ティターンズのジムⅡやハイザックなど、既存の機体相手に圧倒。地球に降下した後はアムロの乗機にもなり、サイコ・ガンダムとの戦闘では高い機動力を活かして、ビームの雨を掻い潜る姿を披露しています。
ただ、中盤以降は高性能な可変機が次々に戦場に現れ、撃墜される場面も増えていきました。本機の代表的なパイロットである、ロベルトとアポリー・ベイも例外ではなく、ロベルト機はケネディ宇宙港における戦闘でアッシマーに撃墜。アポリー・ベイも、終盤のゼダンの門における戦闘ではバイアランに撃墜されていました。
◆量産型F91は本当に弱体化したのか シーブック級を苦しめた実力
劇場版『機動戦士ガンダム F91』の主役機を務めたガンダムF91。作中では開発されたばかりのワンオフ機として登場しましたが、漫画『機動戦士クロスボーン・ガンダム』の時代には、本機の量産型が配備されています。それが量産型ガンダムF91です。
プラモデル『HGUC 1/144 ガンダムF91 ハリソン・マディン専用機』の説明書によると、ガンダムF91は高性能だったものの、通常のパイロットでは性能を最大限発揮する、最大稼働状態には対応できないというデメリットを抱えていました。
そのため、量産型ではリミッターは施されています。ただ、最大稼働状態の性能はあくまでトライアル的な側面が強く、量産化に伴って仕様変更されている部分が多いようです。
たとえば、ラフレシアの戦いで見せた金属剥離効果などは、量産化の際に装甲材が変更された上、バイオ・コンピューターが廃止されたことでオミットされています。
それでも、カタログスペック上は、試作機と同等の数値を達成しました。また、ガンダムF91の特徴であるヴェスバーは、開発から10年を経てもビームシールドでは防ぎきれない、非常に強力なビーム兵器の位置を保っています。
実際、『機動戦士クロスボーン・ガンダム』第4巻でも、キンケドゥ・ナウが「ヴェスバーは未だに最強クラスだ」と語っています。そのため、最大稼働モードがなくても、十分ガンダムといえる高い性能を誇っていました。
ちなみに、一部エースパイロット向けの機体では、冷却システムや各種デバイスの改良を施した、限界稼働対応機が数機ロールアウトしています。そのうちの1機が、漫画『機動戦士クロスボーン・ガンダム』に登場したハリソン・マディン専用機で、キンケドゥ・ナウことシーブック・アノーのクロスボーン・ガンダムX1と互角に渡り合っていました。
◆フリントはなぜクロスボーン級だったのか 地球圏仕様に隠れた強み
『機動戦士クロスボーン・ガンダム』の主役機であるクロスボーン・ガンダムにも量産型が存在しています。それがフリントです。
書籍『機動戦士クロスボーン・ガンダム メカニック設定集』(出版社:KADOKAWA、2021年3月26日出版)によると正式名称はF97-Eで、クロスボーン・ガンダムの名称F97の派生であると分かります。
なお、簡易生産型クロスボーン・ガンダムとされていますが、実際のところはF97の地球圏仕様とも言える機体です。クロスボーン・ガンダムは元々木星圏の使用を前提に、高重力に対応できるよう、強力なスラスターや強度な対放射線処置をされるなど、環境に合わせたカスタマイズが多数施されていました。
しかし、地球圏で使用するなら、先述の装置は必要なくなります。つまり、サナリィは使用環境を絞り、コストを削減しながら性能を維持することを画策したのです。こうして、各種装置を整理し、コスト削減をした上で完成したのがフリントでした。地球圏での使用に限れば、クロスボーン・ガンダムと変わらない性能を発揮できる機体として完成します。
ただ、せっかく生産性・コスト面で優れていたものの、制式量産機として採用されることはありませんでした。漫画『機動戦士クロスボーン・ガンダム 鋼鉄の7人』(以下、『鋼鉄の7人』)第1巻によると、元々アナハイム・エレクトロニクス社は、フリントを連邦軍に売り込むのを企んでいたようです。
しかし、戦火が地球圏に飛び火した影響で、F97の存在が連邦に知られてしまいます。これを受け、アナハイムは会社とクロスボーン・バンガードの関係性を疑われることを恐れ、F97の販売を断念したのです。
結果、フリントはクロスボーン・バンガードでのみ運用され、木星戦役を生き抜き、高い戦果をあげました。しかし、『鋼鉄の7人』ではディキトゥスのような、X1すら圧倒する機体との戦闘を経て残存機体は失われています。
──リック・ディアス、量産型ガンダムF91、フリントは、いずれも「量産型」という言葉だけでは片づけられない機体です。リック・ディアスはガンダリウムγによって時代の転換点となり、量産型F91はリミッターをかけながらもヴェスバーの脅威を残しました。フリントもまた、地球圏での運用に絞ることで、クロスボーン・ガンダムに迫る性能を維持しています。
ワンオフ機のような派手さはなくても、量産型には量産型ならではのロマンがあります。限られた条件の中で性能を残し、運用しやすさやコストとの折り合いをつけながら戦場に出る。そこには、特別な一機とは違う形で『ガンダム』の技術史を動かした存在感があります。名前の派手さでは主役機に及ばなくても、戦場の常識を変えたという意味では、これらの量産型もまた十分に“名機”と呼べるのではないでしょうか。
〈文/北野ダイキ(ガンダム担当ライター)〉
《北野ダイキ》
『Real Sound』などで、アニメ・漫画を中心に執筆するライター。『アニギャラ☆REW』では、『ガンダム』シリーズの宇宙世紀作品をはじめ、モビルスーツの設定、外伝作品、関連書籍などを踏まえた解説記事を担当。定番の人気機体からマニアックな機体まで幅広く取り上げ、作品を見返すきっかけになるような情報整理を得意としている。
※サムネイル画像:バンダイ ボビーサイトより 『「MG 1/100 リックディアス(クワトロ機)」 (C)創通エイジェンシー・サンライズ』


