百式は、もともとZガンダムとして描かれたデザインが出発点だったとされています。『ガンダム』シリーズでは、主役機や敵機として知られるモビルスーツの中にも、別の機体の初期案や没デザインから生まれたものがあります。百式、ガンイージ、ドーベン・ウルフの成り立ちをたどると、完成した機体だけでは見えない、制作現場の試行錯誤とデザイナーたちのこだわりが浮かび上がってきます。
◆百式はなぜZガンダムにならなかったのか 金色の名機に残る初期案の名残
『機動戦士Zガンダム』における、クワトロ・バジーナことシャア・アズナブルの愛機として知られる百式。雑誌『アニメック 1985年 10月号』(出版社:徳間書店、1985年10月1日出版)によると、実は元々永野護氏がΖガンダムとしてデザインしたものでした。
同誌によると、永野護が提出したZガンダム案を、藤田一己氏がクリーンナップし百式になったと語られています。また、『機動戦士Zガンダム・メモリアルボックス1』に封入されたブックレットによると、永野氏は作品の内容すら不透明な時期に、富野由悠季監督から「Zガンダムの主役モビルスーツを作って欲しい」とオーダーされたようです。
また、『ガンダムエース17年7月号増刊 Zガンダムエース』(出版社:角川書店、2005年5月26日出版)によると、富野監督としてはまったく新しいモビルスーツを作って欲しいという意識があったようです。
これを受け、永野氏が生み出したのが、V字アンテナもなく、細身で頭身の高い、以前のマッシブなガンダムとはかけ離れたデザインでした。なお、永野護氏が初期案を非可変機風に仕上げたのは、変形や合体をガンダムに取り入れるのを拒んだためとされています。
永野氏としては、せっかくガンダムというネームバリューのある作品にも関わらず、変形や合体というマクロスのバルキリーの二番煎じをするのかと疑問があったようです。そこで、「意地でも変形させてやるもんか」という思いで、変形しないデザインを提出しました。
しかし、この案は結局採用されず、後に永野氏がメカデザイナーから降板したこともあり、本デザインは宙に浮いた状態になります。雑誌『アニメック 1985年 10月号』(出版:ラポート、1985年10月1日出版)によると、その後宙に浮いたデザインは、藤田一己氏によってブラッシュアップされ百式として生まれ変わります。
◆ガンイージはどう生まれたのか Vガンダム初期案から量産機へ変わった理由
『機動戦士Vガンダム』に登場する、リガ・ミリティアの量産機であるガンイージ。その見た目から、Vガンダムの系列にある機体と分かります。そんな本機ですが、書籍『機動戦士Vガンダム VOL.1 (ニュータイプ100%コレクション 21)』(出版社:KADOKAWA、1994年2月1日)によると、実は大河原邦男氏がデザインしたVガンダムから、デザインを流用した機体だったのです。
同誌によると、『Vガンダム』の主役機デザインを担当したカトキハジメ氏は、当初Vガンダムのデザインを纏めるのに難航していました。その際、大河原氏がカトキ氏に、「僕から見たキミのデザインはこんな感じだよ」と、大河原氏が解釈するカトキ風Vガンダムのデザインを提示しアドバイスしたのです。
これをきっかけにカトキハジメ氏は、現在Vガンダムとして知られる機体をデザイン。一方、大河原氏がデザインしたVガンダムは、ガンイージへと流用されました。
ちなみに、書籍『機動戦士Vガンダム VOL.1 (ニュータイプ100%コレクション 21)』(出版社:KADOKAWA、1994年2月1日出版)によると、ガンイージはVガンダム開発のテスト機をベースに開発されたとされています。
もしかしたら、本設定は大河原デザインのVガンダムから、Vガンダムとガンイージが生まれた裏事情が反映されているのかもしれません。
◆ドーベン・ウルフはなぜ“ガンダム顔”を失ったのか 没案から生まれた重MS
『機動戦士ガンダムZZ』(以下、『ガンダムZZ』)にて、アクシズの運用するモビルスーツとして登場したドーベン・ウルフ。見た目はジオンの重モビルスーツのようですが、実はガンダムからデザインを流用された機体でした。
『モデルグラフィックス 1987年5月号』(出版社:大日本絵画、1987年5月1日出版)によると、本機の原型となったのは、デザイナーの明貴美加氏が『ガンダムZZ』第2クール以降に登場するモビルスーツを想定して、提出したG-Vというデザイン案が元ネタとなっているといいます。
ただ、本編でしばらくリゲルグやドワッジなどの、旧モビルスーツのバリエーション機が登場することになったため、本デザインは1度没となってしまいました。しかし、数ヵ月後現場から「最終モビルスーツを描いて」と言われたことで、明貴氏は胴体部をクリンナップしたG-Vを再び持ち込みます。
その後、脚部を変更した第3稿を提出。最終的に、頭部のデザインをモノアイ式に変更して完成したのが、現在ドーベンウルフとして知られる機体でした。ちなみに、第3稿でいくつかデザインされた頭部案の内、ガンダムらしいデザインのものは、クィン・マンサの頭部として流用されています。
ガンダムからドーベンウルフになってしまった理由としては、「ジオン軍にしてはガンダムすぎる」デザインだったからと語られていました。ただ、明貴氏は兼ねてより「ガンダム対ガンダム」が見たいという想いがあったため、G-Vのデザインを大幅に変更させられたことはかなり口惜しかったようです。
そんな、明貴氏の想いは、本機の初期案が雑誌企画『ガンダム・センチネル』にて、ガンダムMk-Vのデザインへと流用されたことで果たされます。
──百式、ガンイージ、ドーベン・ウルフは、それぞれ完成した姿だけを見るとまったく違う機体に見えます。しかし制作の経緯をたどると、Zガンダムの初期案、Vガンダムのデザイン検討、そしてガンダムとして描かれたG-V案など、別の可能性を持っていたことが分かります。表舞台に出た機体の裏側には、採用されなかった案や、形を変えて生き残ったデザインが確かに存在していました。
もし初期案のまま採用されていたら、ZガンダムやVガンダム、『ガンダムZZ』の印象は大きく変わっていたかもしれません。けれども、没になったデザインが完全に消えず、別のモビルスーツとして作品に残ったこともまた、『ガンダム』らしい面白さです。機体の設定だけでなく、デザインが生まれ変わる過程に目を向けると、見慣れた名機にも違う表情が見えてくるのではないでしょうか。
〈文/北野ダイキ(ガンダム担当ライター)〉
《北野ダイキ》
『Real Sound』などで、アニメ・漫画を中心に執筆するライター。『アニギャラ☆REW』では、『ガンダム』シリーズの宇宙世紀作品をはじめ、モビルスーツの設定、外伝作品、関連書籍などを踏まえた解説記事を担当。定番の人気機体からマニアックな機体まで幅広く取り上げ、作品を見返すきっかけになるような情報整理を得意としている。
※サムネイル画像:Amazonより 『漫画「機動戦士Zガンダム」第2巻(出版社:KADOKAWA)』


