※本記事にはTVアニメ・漫画『北斗の拳』のネタバレが含まれます。ご注意ください。
※本記事はTVアニメ・漫画『北斗の拳』に関するライター個人の考察・見解に基づくものであり、公式の設定や見解とは異なる場合があります。
牙一族にとって最大の幸運は、ケンシロウの兄弟を見つけられなかったことかもしれません。新作アニメ『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-』第12話では、牙一族がケンシロウとレイへの復讐のため、家族をねらう展開が描かれました。しかし、よく考えるとラオウやトキ、ジャギの存在にたどり着かなかったことには不自然さもあります。アイリを見つけ出せた理由や、牙一族がマミヤの村にこだわった背景までたどると、この一族の異様な“家族観”が見えてきます。
◆牙一族はなぜラオウたちにたどり着けなかったのか “血の兄弟”にこだわった可能性
新作アニメ第12話で、牙一族は身内の命を奪われた恨みを晴らすための秘策として、ケンシロウとレイの家族を探していました。その結果、見つかったのはレイの家族のみ。多くの人がご存じの通り、ケンシロウにはラオウやトキといった義兄弟がいます。牙一族はなぜ彼らを見つけられなかったのでしょうか。
まずケンシロウには、実の兄であるヒョウがいます。しかし、ヒョウは修羅の国にいるため、さすがに牙一族では見つけることは至難でしょう。一方で、先ほども触れた通り、ケンシロウには3人の義兄である長兄・ラオウ、次兄・トキ、三兄・ジャギがいます。
一般的に考えれば、彼らの捜索は難易度が低かったハズ。まず、ラオウはすでに北斗神拳の使い手として世紀末覇者「拳王」の名を轟かせていました。そしてトキに関してはこのころカサンドラに幽閉されていましたが、ジャギは「北斗神拳伝承者」として悪名を轟かせていたのです。つまり、少なくともラオウとジャギは北斗の関係者として見つけるのは難しくなかったと考えられます。
実は、牙一族が彼らに注目しなかった理由は2つ考えられます。まず1つは、そもそも北斗神拳の関係者が義兄弟であることを知らなかった可能性です。もともと北斗神拳は門外不出の拳法で、何より一子相伝です。つまり、北斗の関係者がいたとしても、どちらかが偽物だと判断したのかもしれません。
そして2つ目が、牙一族は「血」を分けた兄弟を探していたからです。牙一族の立場からすれば、仮に義兄弟の存在を知っていたとしても本物の兄弟でなければ、自分たちの味わった痛みへの仕返しができないと考えていたのではないでしょうか。
どちらにせよ、牙一族にとってケンシロウの義兄弟を見つけられなかったことは幸運だったでしょう。牙一族の実力ではラオウやトキはもちろん、恐らくジャギにすら手は出せなかったはずですから。
◆レイが探し続けたアイリをなぜ発見できたのか 牙一族と闇組織の接点
牙一族は、レイの血を分けた妹・アイリを見つけ出すことに成功しています。アイリといえば、レイが「餓狼」の道に堕ちてまでずっと探していた存在です。そんな彼女を牙一族は簡単に見つけていましたが、どうやって見つけたのでしょうか。
実は、意外とアイリの情報は入手しやすかったと思われます。なぜならレイは妹を見つけるために、自らの過去を語って回っていたからです。レイはアイリが結婚式で身につけるはずだったケープを常に持ち歩き、妹の手がかりを探していました。その際にレイは、情報を得るために妹の出身の村やそこで起こった経緯などの情報を語っていたかもしれません。つまり、第三者でもある程度アイリの特徴を把握し追跡しやすかったと予想できます。
また、アイリが奴隷として闇組織に売られていたことも大きかったでしょう。劇中では、牙一族も自分たちのコミュニティの中で奴隷を買っていたことが判明しています。つまり、彼らはもともと闇組織とのつながりがあったと考えられるのです。
少なくとも、牙一族はレイに妹がいるという情報をかなり早い段階で手に入れていた可能性は高いでしょう。そして、「こんなご時世だ。いい女ほど高く売れる」とレイ自身も語っていた通り、牙一族はその線で奴隷を扱う闇組織の情報を洗ったのではないでしょうか。こういったウラのつながりがあったからこそ、牙一族は簡単にアイリに辿り着いたのかもしれません。
◆牙一族はなぜマミヤの村に執着したのか 略奪より欲しかった“安住の地”
牙一族はなぜ執拗にマミヤの村をねらっていたのでしょうか。その理由として注目したいのが、独特な集団形成にあります。牙一族は、これまでに登場した軍団や野盗たちとは決定的に違う点が一つあるのです。それが、すべて血縁の家族でメンバーが構成されているということ。
これは、家族の結束力の強さというメリットが発揮できる反面、ほかの軍団と違い簡単に仲間たちを補充できないというデメリットも存在します。なぜなら、子どもを育てるには時間が必要だからです。だからこそ、自分たちの家族の命を奪われた際には、深く嘆き、奪った相手を激しく憎むのでしょう。
つまり、牙一族はほかの軍団たちのように命の危険が常に伴う略奪行為をするのではなく、安住の地を手に入れる必要があったと考えられるのです。マミヤの村は、長老の話では「自給自足ができる環境が整っている」と語っていました。このことから、牙一族としてはマミヤの村さえ奪えれば、それ以降危険が伴う略奪をする必要がなくなり、大家族として安定して暮らしていけると考えていたのかもしれません。
◆牙一族に母親の姿がないのはなぜか 家族を名乗る集団の暗い違和感
家族を大切にする牙一族ですが、なぜか母親の姿が一切出てきません。親として登場するのは牙一族の親父、通称「牙大王」が一人で、彼が子どもたちを取りまとめています。そして母親が登場しなかった理由として考えられるのは、牙大王が母親を「家族」として認めていなかったからではないでしょうか。
作中では、牙一族が奴隷を連れている描写があることから、複数の女性たちをどこかからさらってきて子どもを産ませていた可能性が高いと推察できます。それならば、あれだけ多くの人数の子どもたちがいることにも納得がいくでしょう。つまり、牙大王は妻となる女性に愛情を注いでいたわけではないので、母親を「家族」として見ていなかったことにもつながります。
また、一族のために戦力となる人間しか「家族」として見ていなかったという可能性も考えられます。事実、牙一族は全員「華山群狼拳」の使い手でそれなりの強さを誇っていました。つまり、「華山群狼拳」を習得できない母親を、牙大王は「家族」だと認めなかったのかもしれません。
そして、母親の姿が見られなかったもっとも大きな理由は、もしかしたらある程度まで育ったら、戦力とならない女性を全員闇組織などに売ってしまった可能性も否定できません。世紀末の情勢を鑑みても、なかなかに残酷な一族だったと推察できます。やはり、序盤でケンシロウに敗れて良かったのかもしれません。
──牙一族は、どこか話の通じない野生味を感じさせる特殊な集団でしたが、作中においてはそこまでの強敵ではなかったため、悪役としては印象が薄かったのかもしれません。しかし、そんな牙一族が、北斗神拳と南斗聖拳の共闘という作中でもかなり珍しいタッグシーンを生み出したのです。そう考えると、ある意味で『北斗の拳』の序盤を盛り上げた重要な敵役の一つだったといえるのではないでしょうか。
〈文/fuku_yoshi〉
《fuku_yoshi》
出版社2社で約10年にわたり編集業務に従事した元編集者。男性向けライフスタイル誌やムック制作のほか、漫画編集者としての経験も持つ。現在はフリーライターとして、映画・アニメ・漫画などサブカルチャー領域を中心に記事を執筆。漫画考察記事では、元編集者の視点を活かし、作品内の描写や設定を論理的に読み解く記事制作を得意としている。
※サムネイル画像:Amazonより 『「北斗の拳 (ゼノンコミックス) 」第3巻(出版社:コアミックス)』


