『HUNTER×HUNTER』では、少年誌とは思えないトラウマ級の凄惨な死亡シーンが登場することがあります。しかし、ただ残酷なだけでなく、一つの判断を間違うだけであっさり命を失ってしまう『HUNTER×HUNTER』の厳しい世界が表現されているといえるでしょう。
次の4人は読者に衝撃を与えて、この世から去っていったキャラクターたちです。
◆目の前で自分の心臓をつぶされるジョネス
ハンター試験で試練官として登場した解体屋ジョネスは、キルアに心臓を抜き取られて死亡します。目の前で自分の心臓を握りつぶされるという演出、このときのキルアの残虐性をはらんだ表情は秀逸です。
異常な指の力を持つジョネスは、少なくとも146人の命を奪っています。しかも、警官の腕の肉をこそぎ取ったり、11歳の少年の内臓を生きたまま取り出したりと犯罪内容がむごたらしく、被害者の体を最低でも50以上のパーツに分解していました。
このザバン市犯罪史上、最悪の連続殺人犯は、キルアとの勝負の前には「久々にシャバの肉をつかめる」とドヤ顔全開で石壁を指で握り壊します。さらに彼はキルアに向けて、「お前はただ泣き叫んでいればいい」と口のほうも絶好調。
しかし、勝負が始まると一瞬にしてジョネスの横を通り抜けたキルアの手の上に、心臓があったことに衝撃を受けた読者も多いでしょう。おそらく抜き取られた自分の心臓を目の前で握りつぶされた経験がある人はこの世にいないハズ。
そのため、ジョネスのリアクションは、冨樫先生が考えた完全なフィクションになるでしょう。しかし、あれだけイキり倒していたジョネスが自分の心臓だと気付くと、急に弱気な顔になり「か…返…」とつぶやく演出には大きな説得力があります。
また、心臓を抜き取られても振り返ったり、しゃべったりできていたジョネスが倒れるタイミングも絶妙。キルアに心臓を握りつぶされた精神的ダメージ、突きつけられた絶望によって絶命した感じが伝わってきます。
ジョネスのこれまでの犯罪を考えると当然の報いではありますが、読者にとってはトラウマになりかねない死亡シーンでした。
◆キメラアントに内臓を食われるポンズ
NGLに潜り込んだポックル、ポンズたち一行はザザン隊の襲撃に遭って、次々と命を落としたり捕らえられたります。逃げ延びたと思われたポンズもあっさりギョガンに銃で撃たれ、さらに内臓を食われる死に方はトラウマものでした。
ポンズは『HUNTER×HUNTER』でも数少ない女性キャラ、しかも萌え系キャラということもあって人気が高かったです。そんなキャラクターがあっさり死んでしまったことに、大きな悲しみを抱いたファンも多いでしょう。
この一連のシーンではポックルの仲間の1人も、キメラアントの攻撃で首を跳ね飛ばされる凄惨な死に方をしています。キメラアント編では、このような残酷なシーンが多いです。
これは岡本倫先生の作品、『エルフェンリート』の影響ではないかと考えられています。冨樫先生は岡本先生が短編集を出したとき、推薦文を寄稿していました。また、岡本先生の「X」には、冨樫先生のサインの写真が投稿されているなど交流があるようです。
ただ、ゴンがプロハンターになってからは、ハンター同士の戦いが多くなっていました。キメラアント編では、ハンター本来の目的である未知の生物をハントする姿が描かれており、その厳しさを表現するためにトラウマになりそうなシーンは必要不可欠だったのでしょう。
◆ネフェルピトーにクチュクチュされるポックル
ポックルがネフェルピトー(以下、ピトー)に脳をクチュクチュされている場面は、『HUNTER×HUNTER』で1番のトラウマシーンといっても過言ではないでしょう。しかも、用済みになったらブタの姿をしたキメラアントに、あっさり肉団子にされてしまいます。
キメラアントに捕まったポックルですが、奥歯に仕込んだ解毒剤でなんとか這いずって隠れていました。レアモノであるポックルを探しに来たラモットたちにピトーが合流したときも、その場から去ろうとしていたので逃げ延びたかと思いきや……。
ピトーの「ところでさ……何で骨の下に生きた人間がいるのかな?」という言葉には、ポックルだけでなく読者も大きな絶望感を抱いたことでしょう。しかし、ポックルの死はハンター試験に合格した時点で既に決まっていたように思われます。
このときビーンズは、ハンターに合格した者の5人に1人が、1年以内に何らかの形でライセンスを失くしていると述べています。そして、287期のハンター試験の合格者はゴン、クラピカ、レオリオ、ハンゾー、ヒソカ、イルミ、ポックルの7人です。
つまり、統計からすると、このうち最低でも1人はハンターライセンスを失います。そして、「何らかの形でライセンスを失くす」には、当然本人の死亡も含まれるでしょう。
合格者7人の中でその後の重要性と強さを考えると、ハンターライセンスを失うのはポックルである可能性が高いです。また、キメラアントの王メルエムが強い存在として生まれるにはレアモノを食べさせる必要があり、それにはポックルが適任だったということでしょう。
ただ、ポックルが死亡したのはハンター試験に合格してから1年半近くが経過してからでした。それだけ287期の合格者が、優秀なメンバーばかりだったということでしょう。
◆ピトーのあぐら枕で眠るカイト
キメラアント編では、ピトーがカイトの頭を抱えているシーンも衝撃でした。ゴンにとって重要かつ大切な存在であるカイトでさえ、一つ判断を間違えば死が待っていることを感じさせるシーンです。
最初のコンタクトで、いきなりカイトが右腕をピトーに持っていかれたのも強烈でした。目を覚ましたゴンがキルアに、「カイトは生きてる!」と力強く宣言したときは希望を抱いた読者も多いことでしょう。しかし、ゴンたちが強くなって戻ろうと話した直後に描かれた、あぐらをかくピトーがカイトの頭を抱えているシーンはショッキングでした。
また、その後のキメラアントとの戦闘訓練に使われていた、変わり果てたカイトの姿。ようやくカイトと再会できたゴンのシーンは、胸が詰まるものがありました。そして、ピトーにカイトはもう生き返らないと告げられたときの絶望感もハンパなかったです。
カイトはゴンにとって大切な存在だったこともあって、思い入れが強い読者も多かったと思います。そのため、カイトの末路から受けるトラウマにも、拍車がかかったのではないでしょうか。
──改めて振り返るとトラウマ死亡シーンの前にはジョネスがイキっていたり、キャラが生き残ることをにおわせるフラグが立っていたりすることが多いです。先に読者に希望を見せることで、その後に訪れる絶望がより衝撃的になるのでしょう。
〈文/諫山就〉
《諫山就》
フリーライターとして活動中。漫画・アニメ・医療・金融などの記事、YouTube用シナリオを執筆・編集しています。
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