※本記事にはTVアニメ・漫画『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのネタバレが含まれます。ご注意ください。
※本記事はTVアニメ・漫画『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズに関するライター個人の考察・見解に基づくものであり、公式の設定や見解とは異なる場合があります。
スタンドバトルの面白さは、ルールがあるからこそ際立ちます。「1人につき1体」「スタンドはスタンドでしか攻撃できない」「遠距離型はパワーや動きに制限がある」。しかし『ジョジョの奇妙な冒険』(以下、『ジョジョ』)を読み返すと、その原則をぎりぎりまで押し広げる能力者たちが登場します。なかでもグイード・ミスタのスタンドは、初期ルールの見方を変えてしまうほど異質な存在かもしれません。
◆「スタンドは1人1体」は本当に絶対なのか 群体型が広げたルールの幅
『ジョジョの奇妙な冒険 Part3 スターダストクルセイダース』でスタンドが本格的に登場した当初、「スタンドは1人につき1体」という考え方はかなり強く意識されていました。ポルナレフのシルバーチャリオッツの残像を見た花京院典明などの反応からも、その前提がうかがえます。
ただし、シリーズが進むと、このルールをそのままでは説明しにくいスタンドも現れます。代表的なのが『ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない』に登場する虹村形兆の「バッド・カンパニー」と、矢安宮重清、いわゆる重ちーの「ハーヴェスト」です。どちらも小型のスタンドを多数同時に操る能力で、見た目だけなら「1人1体」という原則から外れているようにも見えます。
しかし、これらは複数の独立した能力というより、全体で一つのスタンドと考えるほうが自然です。バッド・カンパニーは軍隊のように規律立って動き、ハーヴェストは命令されたものを集めるという比較的単純な動きが中心です。1体ごとのパワーや判断力は抑えられており、群体化と引き換えに個々の性能が制限されているように見えます。
吉良吉影のシアーハートアタックも、キラークイーンとは別個のスタンドというより、能力の一部、あるいは付属する爆弾として扱うほうが近いでしょう。こうした例を見ると、「1人につき1体」というルールは、完全に人型の1体だけをさすのではなく、「まったく別系統の複数能力を同時に持つわけではない」という意味へ広がっていったとも考えられます。
◆実物のカミソリでスタンドを傷つけた? エボニーデビルに残る例外
スタンドバトルの根幹にあるのが、「スタンドはスタンドでしか攻撃できない」という原則です。これがあるからこそ、スタンド使い同士の戦いには独自の緊張感が生まれます。ところが、『ジョジョの奇妙な冒険 Part3 スターダストクルセイダース』の呪いのデーボが使う「エボニーデビル」は、このルールに奇妙な揺らぎを生じさせました。
デーボは恨みによって強くなるスタンドを人形に取りつかせ、ポルナレフのシルバーチャリオッツを襲います。このとき人形が使っていたのは、床屋で使われるような実物のカミソリに見える刃物でした。人形自体もポルナレフが床から拾ったものであり、スタンドそのものではありません。
にもかかわらず、その攻撃はシルバーチャリオッツに届いていました。ここだけを見ると、実物の刃物でスタンドを傷つけたようにも見えます。かなり珍しい例ですが、エボニーデビルは「恨みをためる」「人形に憑依する」という前提があって成立する能力です。その特殊な条件によって、実体のある道具をスタンド戦に持ち込むような現象が起きたのかもしれません。
単純なルール違反というより、強力な効果の裏に明確な条件があるタイプの例外と見ると、『ジョジョ』らしいバランスにも見えてきます。
◆遠距離型なのにパワーもある? ホワイトスネイクとハイプリエステスの異質さ
近距離型はパワーが強く、遠距離型は射程に優れるかわりにパワーや精密な動きに制限がある。スタンドにはそうした傾向もあります。しかし、遠距離型でありながら近距離戦でも強さを見せるスタンドも存在します。
その代表格が、エンリコ・プッチの「ホワイトスネイク」です。射程距離は半径20メートルほどとされ、相手に触れることでDISC化する能力を持ちます。さらに『JOJOVELLER』(出版社:集英社、2014年4月18日出版)に収録されているスタンド解説では、近距離戦における破壊力とスピードが推定A相当とされており、遠距離型としてはかなり破格の性能です。
また、ミドラーの「ハイプリエステス」も見逃せません。海岸から遠く離れた場所にいる承太郎たちを襲い、海底の岩石に化けた際には、スタープラチナを力で押し込むほどのパワーを見せました。承太郎自身もその力に驚いており、最終的には岩石を砕いて勝利したものの、単純なパワー勝負では苦戦していました。
もちろん、ホワイトスネイクはラスボス格の能力であり、ハイプリエステスも鉱物へ変身する特性がパワーを押し上げていた可能性があります。それでも、シアーハートアタックのように単純な自動追尾だけにとどまらず、使い手の意思や命令に応じて柔軟に動く点では、遠距離型の一般的なイメージを大きく超えていたといえるでしょう。
◆ミスタのスタンドは何が反則級なのか 6体で考える異例のスタンド
こうした例外的なスタンドの中でも、とりわけ異質なのがグイード・ミスタのスタンドです。見た目は6体の小さなスタンドであり、1体ずつに違う人格のようなものがあります。さらに彼らは、ミスタが細かく指示しなくても相談しながら動き、弾丸の軌道を変えて戦局を動かしていきます。
群体型という点だけなら、バッド・カンパニーやハーヴェストと同じ系統にも見えます。しかし、ミスタのスタンドが特殊なのは、1体ごとに判断力や感情があるように描かれる点です。作戦を相談し、状況に応じて役割を分け、時には本体のミスタが気を失っていても行動を続けます。これはたんなる「複数体に分かれたスタンド」というより、独立した小さなチームに近い印象すらあります。
さらに面白いのは、ミスタのスタンドがスタンドそのものを直接倒すタイプの能力ではないことです。彼らは弾丸を操作し、敵スタンドではなく本体を狙う戦い方をします。「スタンドはスタンドでしか攻撃できない」という原則を破っているわけではありませんが、最初からスタンド同士の殴り合いを前提にしていない点で、かなり発想が違います。
パワーそのものは強くなく、6体で力を合わせても拳銃を運べる程度です。しかし、弾丸に関しては驚くほどの対応力を見せます。至近距離からミスタの頭部に撃ち込まれた3発の銃弾を、たった1体で止める場面もありました。自我、判断力、遠隔行動、弾丸への干渉力をあわせ持つミスタのスタンドは、スタンドの初期ルールを最も広く使いこなした存在の一つといえるかもしれません。
◆ルール破りではなく“制約つきの拡張”だったのか
スタンドのルールは、シリーズが進むほど単純な説明では収まりきらなくなっていきました。ただ、それは設定が崩れたというより、能力ごとの条件や制約によって例外が増えていったと見るほうが、『ジョジョ』らしい楽しみ方かもしれません。
群体型のスタンドは個々のパワーや複雑さに制限があり、エボニーデビルは恨みや憑依という条件を必要とします。遠距離型でありながら強いスタンドにも、それぞれ特殊な背景や能力の理屈があります。そしてミスタのスタンドも、直接的な破壊力は低いかわりに、弾丸操作と判断力に特化した能力として成立しています。
──そう考えると、スタンドバトルの面白さは「ルールを守ること」だけでなく、「そのルールをどこまで拡張できるか」にもあります。初期の原則から少し外れて見える能力ほど、使い手の精神性や戦い方が強く表れるものです。ミスタのスタンドが反則級に見えるのは、たんに便利だからではなく、スタンドという概念の幅を広げる存在だったからなのかもしれません。
〈文/相模玲司〉
《相模玲司》
編集プロダクション勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動。メンズファッション誌の編集、週刊誌Web版での取材記事制作、アニメ・漫画関連のムック本制作など、幅広い媒体で編集・執筆経験を持つ。アニギャラ☆REWでは、アニメ・漫画・映画を中心としたエンタメ記事の編集、構成確認、コンテンツ制作を担当している。
※サムネイル画像:Amazonより 『「ジョジョの奇妙な冒険」第50巻(出版社:集英社)』


