『鬼滅の刃』は、名前のある柱や鬼だけでなく、短い出番のキャラクターの声にも注目したくなる作品です。テレビアニメ「柱稽古編」では、お館様の鎹鴉や一般隊士に、主役級の実績を持つ声優陣が起用されました。なぜ一瞬の登場でも印象に残るのか。過去の鬼や鎹鴉のキャスティングまで振り返ると、作品世界を支える“声の厚み”が見えてきます。
◆お館様の鎹鴉はなぜここまで印象に残ったのか 速水奨さんの声が変えた一場面
テレビアニメ「柱稽古編」の第1話で、視聴者の耳を強く引いたのが、お館様の鎹鴉でした。鬼である珠世の前に現れ、「こんばんは 珠世さん」と声をかける場面は、見た目がカラスでありながら、落ち着いた存在感のある声によって一気に空気が変わります。
この鎹鴉を演じたのは、速水奨さんです。速水さんは『BLEACH』の藍染惣右介役や、『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』のヴァニラ・アイス役などで知られるベテラン声優です。隊士でも鬼でもない鎹鴉に、これほど重みのある声が置かれたことで、珠世を産屋敷邸へ招く場面にも特別な緊張感が生まれていました。
原作通りであれば登場場面は限られるキャラクターです。それでも記憶に残るのは、声によって「ただの伝令」ではなく、産屋敷家の意思を運ぶ存在として立ち上がっていたからでしょう。短い場面に実力ある声優を配することで、作品全体の密度が増していたといえます。
◆一般隊士まで主役級なのか 「柱稽古編」で目立った声優陣の存在感
「柱稽古編」で注目を集めたのは、鎹鴉だけではありません。第3話では、音柱・宇髄天元による柱稽古が描かれ、原作では短く済んでいた場面にアニメオリジナルの描写が加えられました。そこで登場した一般隊士たちの声にも、聞き覚えのある名前が並びます。
一般隊士を演じた声優の中には、大塚剛央さんや寺島拓篤さんがいました。大塚さんは『【推しの子】』のアクア役や『薬屋のひとりごと』の壬氏役、寺島さんは『うたの☆プリンスさまっ♪』の一十木音也役や『魔法科高校の劣等生』の西城レオンハルト役などで知られています。
一般隊士たちは、柱や炭治郎たちほど目立つ立場ではありません。しかし、宇髄の稽古に苦戦しながらも、いずれ無惨たちと戦う柱や炭治郎の支えになろうとする姿が描かれたことで、鬼殺隊の層の厚さが伝わる場面になっていました。声優陣の存在感も、その印象を後押ししていたのでしょう。
◆一瞬で退場する鬼にもなぜ大物声優が? お堂の鬼から下弦の鬼まで
『鬼滅の刃』では、出番の短い鬼にも実力派声優が起用されてきました。たとえば、禰豆子が鬼になったあと、炭治郎たちが初めて遭遇した「お堂の鬼」を演じたのは緑川光さんです。緑川さんは『新機動戦記ガンダムW』のヒイロ・ユイ役や、『SLAM DUNK』の流川楓役で知られています。
炭治郎の初任務先で登場した「沼の鬼」を演じたのは、木村良平さんでした。木村さんは『東のエデン』の滝沢朗役や『黒子のバスケ』の黄瀬涼太役などで知られています。まだ作品序盤の段階から、短い出番の鬼にも印象的な声が置かれていたことになります。
さらに、鬼舞辻無惨が下弦の鬼たちを粛清する通称「パワハラ会議」でも、下弦の陸・釜鵺にKENNさん、下弦の肆・零余子に植田佳奈さん、下弦の参・病葉に保志総一朗さん、下弦の弍・轆轤に楠大典さんと、豪華な顔ぶれが並びました。わずかな登場で終わる鬼たちにも手を抜かない姿勢は、本作のキャスティングの大きな特徴といえるでしょう。
◆鎹鴉や動物役まで手を抜かない? 鳴き声だけでも残る“声のぜいたく”
鬼殺隊を支える鎹鴉や動物たちにも、印象的な声優が起用されています。霞柱・時透無一郎の鎹鴉は『銀魂』の神楽役で知られる釘宮理恵さん、炎柱・煉獄杏寿郎の鎹鴉は『ヒカルの碁』の藤原佐為役で知られる千葉進歩さん、恋柱・甘露寺蜜璃の鎹鴉は『〈物語〉シリーズ』の羽川翼役などで知られる堀江由衣さんです。
「那田蜘蛛山編」で本部からの伝令を運ぶ鎹鴉にも、『機動新世紀ガンダムX』のガロード・ラン役で知られる高木渉さんや、『勇者王ガオガイガー』の獅子王凱役で知られる檜山修之さんが起用されていました。伝令役であっても、声を聞いた瞬間に場面の印象が強く残ります。
さらに、「チュン」と鳴く善逸の鎹鴉ことチュン太郎は、『【推しの子】』の黒川あかね役や『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』の椎名真昼役で知られる石見舞菜香さんが担当しています。宇髄の使いであるムキムキねずみには、『ドラえもん』のジャイアン役や『ヒプノシスマイク』の山田一郎役で知られる木村昴さんが起用されました。
言葉が少ない役や、鳴き声だけの役であっても、声優の個性が入ることでキャラクターは一気に立体的になります。『鬼滅の刃』の世界が細部まで濃く感じられるのは、こうした“声のぜいたく”が積み重なっているからかもしれません。
──名前のある人気キャラクターだけでなく、鎹鴉、一般隊士、一瞬だけ登場する鬼にまで印象的な声を置く。そうした積み重ねが、『鬼滅の刃』の映像に厚みを与えています。短い出番だからこそ、声の力でキャラクターの背景や場面の重さが伝わることもあります。
エンドロールを見返すと、「この役もこの人だったのか」と気づく場面は少なくありません。物語の主役ではないキャラクターの声まで追っていくと、『鬼滅の刃』という作品がどれほど細かく作られているのか、あらためて見えてくるのではないでしょうか。
〈文/秋山緑〉
《秋山緑》
アニメ・漫画・ゲームを中心に、エンタメ領域の記事制作に携わるライター。話題作から長年愛される名作まで幅広く扱い、作品の魅力やキャラクターの関係性、印象的なシーンを読者目線でわかりやすく伝える記事制作を得意とする。アニギャラ☆REWでは、アニメ・漫画作品のコラムや解説記事を担当している。
※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」が正しい表記となります。
※鬼舞辻の「辻」は「一点しんにょう」が正しい表記となります。
※サムネイル画像:Amazonより 『「鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録」(出版社:集英社)』


