※本記事にはTVアニメ・原作漫画『キン肉マン』のネタバレが含まれます。ご注意ください。
『キン肉マン』の人気超人は、作者だけでなく読者のハガキから生まれた存在でもあります。ラーメンマン、ウォーズマン、バッファローマン──。今では作品を代表する3人も、出発点は読者投稿でした。しかも、ラーメンマンは当初“捨てキャラ”の予定で、ウォーズマンの応募名はまったく別物。バッファローマンも、編集者のひと言がなければ悪魔超人のまま終わっていた可能性があります。読者のアイデアがどのように磨かれ、伝説級のキャラクターへ育っていったのでしょうか。
◆ラーメンマンはなぜ主役級になったのか “捨てキャラ”を変えた読者人気
数ある読者投稿超人の中でも、もっとも大きな出世を遂げた存在の一人がラーメンマンでしょう。スピンオフ作品『闘将!!拉麺男』の主人公にもなった人気超人ですが、出発点は意外にも“その場限り”に近いキャラクターだったようです。
初登場時のラーメンマンは、ブロッケンマンをキャメルクラッチで真っ二つにする残酷な悪役として描かれました。今のような人格者のイメージとはかなり異なり、強烈なインパクトを残す敵役として登場しています。
ゆでたまご・嶋田隆司氏は、『J-WAVE NEWS』に掲載された対談記事「ゆでたまご・嶋田隆司×燃え殻の『キン肉マン』対談! 「次週も読みたくなる」演出とは?」で、ラーメンマンについて読者応募超人であり、最初は捨てキャラだったものの、子どもたちからの評判が非常によかったと振り返っています。
人気の理由には、見た目の分かりやすさもあったのかもしれません。嶋田氏は2006年5月に『livedoor ニュース』で配信された「キン肉マン著者、ゆでたまご嶋田隆司先生ロングインタビュー」で、ラーメンマンのデザインについて、子どもでも落書きしやすいシンプルさを意識していたことを語っています。キン肉マンと同じく、誰でも描ける親しみやすさが人気を支えたのでしょう。
その後、ラーメンマンはウォーズマンに敗れて一度退場しますが、フレッシュジャンプで『闘将!!拉麺男』の連載が始まったこともあり、「7人の悪魔超人編」ではモンゴルマンとして登場しました。同じ超人が別作品で同時に活躍することを避けるための判断だったとされます。やがて王位争奪編でラーメンマンとして完全復活。読者投稿から生まれた“捨てキャラ”は、作品を代表するレジェンド超人になったのです。
◆ウォーズマンの応募名は「デビルサタン」 ベアークローに残った原案の名残
読者投稿から生まれた超人は、採用後に大きく姿を変えることもありました。その代表例が、旧ソビエト連邦出身のコンピューター超人・ウォーズマンです。
『キン肉マンⅡ世』第1巻「伝説の序章 偉大なる父・スグルを超えて!」の扉絵では、ウォーズマンの投稿時の名前が「デビルサタン」だったことが明かされています。いまとなっては、あの無機質で冷たい響きを持つ「ウォーズマン」という名前がぴったりですが、最初から現在の形だったわけではありません。
応募用紙には「手にハリがある」といったコメントも記されており、のちのベアークローにつながるアイデアはすでに含まれていました。そこから名前や設定が整えられ、機械超人としての個性が磨かれていったと考えられます。
『キン肉マン』第55巻の巻末特別企画「ゆでたまご先生への質問コーナーQ&A ゆで問答」では、当時のジャンプ編集者・中野和雄氏から、ウォーズマンという名前について「ソ連大使館に呼び出されても知らないよ?」と冷やかされたエピソードも語られています。冷戦時代という空気感の中で生まれたキャラクターだったことも、ウォーズマンの印象を強めています。
キン肉マンとの死闘を経て改心したウォーズマンは、のちにパロスペシャルを武器に活躍する人気超人となりました。なお、パロスペシャルはイギリスのジャッキー・パロの技がもとですが、嶋田氏は前述の『livedoor ニュース』の記事で、本家とは体勢が逆だったことも明かしています。読者投稿の原石に、時代性と作者のアレンジが加わったことで、ウォーズマンは忘れがたい超人へ成長したのでしょう。
◆バッファローマンは悪魔のまま終わるはずだった? 編集の一言が変えた運命
悪魔超人の象徴として登場しながら、のちに正義超人側でも重要な存在となったバッファローマンも、読者投稿から生まれたキャラクターです。もし担当編集のひと言がなければ、彼の運命はまったく違っていたかもしれません。
2006年7月に出版された『キン肉マン マッスルグランプリMAX PS2版 超人格闘奥義大全』(出版社:集英社)では、ゆでたまご側が当初、バッファローマンを悪魔のまま終わらせるつもりだったことが語られています。ところが、担当編集者の「彼はいいヤツだと思うんだよな」という意見をきっかけに、改心する展開へと変わっていきました。
その転身を象徴したのが、バッファローマンがカツラを取る場面です。嶋田氏は同書で、人間でいえば頭を丸める行為に近く、正義超人に生まれ変わったことを示したかったと説明しています。ただ、この演出は予想以上にファンの間でネタにされることにもなりました。
バッファローマンの存在感は、その後もさまざまな形で語られ続けています。2020年6月に株式会社キャステムからレザー製のバッファローマンのサポーターが発売された際、ファンがX(旧Twitter)で「革製だったのですね」と反応すると、嶋田氏は鉄で作ったら重くて遊べないという趣旨のコメントを返しています。こうしたやり取りからも、読者やファンとの距離の近さが伝わってきます。
悪魔として登場し、編集者のひと言で正義側へ向かい、いまなおファンの会話を生む存在であり続ける。バッファローマンは、読者投稿と編集現場の熱が重なって生まれた“変化する超人”だったといえるでしょう。
◆読者ハガキがなぜ物語を動かしたのか ライブ感が生んだ友情の結晶
ラーメンマン、ウォーズマン、バッファローマンに共通しているのは、投稿された時点で完成された人気キャラクターだったわけではないという点です。読者のアイデアを出発点にしながら、作者や編集者が物語の中で役割を与え、反応を見ながら育てていったからこそ、彼らは現在の姿になりました。
ゆでたまご・嶋田氏は、『キン肉マン 7人の悪魔超人編』第1巻で、バッファローマンがキン肉バスター破りを口にした時点では、まだ具体的な破り方を考えていなかったと語っています。先の展開を完全に決め込むのではなく、その場の熱量と読者の反応で物語を前に進めていく。このライブ感こそ、当時の『キン肉マン』らしさだったのではないでしょうか。
当時の『週刊少年ジャンプ』には、『キャプテン翼』『北斗の拳』『ドラゴンボール』などの強力な作品が並んでいました。その中でアンケート上位を目指すには、毎週の読者の反応を受け止め、次の展開へつなげる瞬発力が必要だったはずです。嶋田氏は『J-WAVE』で放送された『BEFORE DAWN』内の燃え殻氏との対談でも、誰にも負けたくないという気持ちで読者の反応を見ながら展開を考えていたことを語っています。
そう考えると、読者投稿超人は単なる企画枠ではありません。読者が送り、作者が拾い、物語が磨き、さらに読者が応援して育てる。『キン肉マン』の超人たちは、作者と読者が同じリングに上がって作り上げた存在だったのです。
──ラーメンマン、ウォーズマン、バッファローマンが長く愛され続けるのは、強さやデザインだけが理由ではないでしょう。そこには、読者の夢が作品の中で本当に形になったという特別な喜びがあります。『キン肉マン』が40年以上にわたって支持される背景には、作者と読者が一緒に物語を動かしてきた“友情”の記憶が刻まれているのではないでしょうか。
〈文/最上明夫 編集/相模玲司〉
《最上明夫》
アニメ・漫画・特撮・映画など、幅広いエンタメ作品に関心を持つライター。作品内の設定やキャラクター描写、物語構成を丁寧に読み解き、読者が作品をより深く楽しめる記事制作を心がけている。アニギャラ☆REWでは、アニメ・漫画を中心とした考察・解説コラムを担当している。
※サムネイル画像:Amazonより 『「闘将!! 拉麺男」第9巻(出版社:集英社)』


