<この記事にはTVアニメ・原作小説『薬屋のひとりごと』のネタバレが登場します。ご注意ください。>
TVアニメ『薬屋のひとりごと』の第19話では、これまでの事件の伏線が一気に回収され、ファンの間で神回と話題になる一方、とあるアニメオリジナル描写が賛否両論を招いています。
第19話にはどのようなアニオリ描写があったのでしょうか?
◆助けに行こうとする猫猫がボコボコに……
まずはアニメ第19話「偶然か必然か」の内容を振り返っていきましょう。
この話では、猫猫がこれまでに起きた浩然殺害事件、食中毒事件、倉庫の小火、彫金細工師殺人事件が一つの目的のために計画的に実行されたものだと気づきます。
猫猫は相手の目的である「祭事を執り行うやんごとなき人物の殺害」を防ぐため、祭事が執り行われている蒼穹檀へ駆けつけました。
猫猫は中に通してくれない武官との押し問答の末に殴り飛ばされてしまいますが、実父である羅漢が猫猫に手を貸し、彼女は蒼穹檀の中へ。そして、間一髪のところでやんごとなき人物を救い出したのですが、なんとその人物が壬氏だったのです。そのまま猫猫は気を失い、壬氏が彼女をその場から連れ出しました。
これまでに起きた事件が何のために計画されたのか一気に伏線が回収される怒濤の展開でしたが、話題になったアニオリ描写は壬氏が猫猫を連れ出すときです。
ヒーロー文庫から出版されている小説では、猫猫の意識がぼんやりとしていたためか、「ゆらゆらと、心地よい感覚が身体を揺らす」と描かれており、どのように連れ出されたのかはっきり描かれていません。
また、『サンデーGX』版では壬氏が慌てた様子で猫猫を抱き上げて連れ出し、『ビッグガンガン』版では場面が暗転してどのように連れ出されたのかは描かれませんでした。
一方、アニメでは『サンデーGX』版のように壬氏が猫猫を抱き上げて連れ出すのですが、慌てた様子はなくゆったりと歩を進めています。そして、羅漢の横を通り抜け、そのままその場から去っていきました。
このアニオリ描写は挿入歌も流れて感動的なシーンでもありましたが、一方で猫猫が重傷を負っており、「猫猫のケガがひどいのに壬氏は悠長じゃないか?」との声も上がったのです。
しかし、壬氏が慌てた様子もなくゆっくり進んだのには、とある事柄が関係しているのではないかと、ファンの間で言われています。
◆第19話で判明した壬氏の身分とは?
壬氏が猫猫を抱き上げてゆっくり進んだのは、ファンの間で「彼の身分が関係しているのでは」との意見もあるのです。
第19話では、一連の事件の伏線が回収されただけでなく、壬氏の身分が明らかになります。
それまでの壬氏は、後宮内の皇帝への忠誠を測る試金石であることから、ただの宦官ではないことが明らかでした。
さらに、園遊会では、壬氏は猫猫に簪をあげた後、麒麟の模様が描かれた2本目の簪を身につけています。
壬氏のお目付け役の高順が簪について、「特別なかたしか身につけられない」と言っていたことから、壬氏の身分が特別なものであることが分かりました。
そして、第19話にして壬氏が中祀以上の祭事を執り行っていたことから、彼が「やんごとなき人物」だと確定したのです。
彼の正確な身分については、今後、明らかになると思われますが、第19話での壬氏は祭事を執り行う身分としてあの場にいました。
そのような身分の人物が一介の下女のために慌てることは許されず、周囲の目もありあのような描写になったのではないかと、ファンの間で言われているのです。
◆身分制度が絶対な世界
身分の違いから急いで猫猫を連れ出せなかったというと、身分制度がない現代からすると理解しがたい価値観かもしれません。しかし、作中で猫猫はたびたび身分の違いについて口にしています。
たとえば、現皇帝が玉葉妃の元を訪ねたときに、猫猫へ梨花妃の元へ行き容態を見てくれと言いました。
このときに猫猫は「帝の言は天上の言」だと言い、断ったら斬首されてしまうようなことを考えています。しかも、その後、思うように治療がうまくいかない時には、斬首まで後どのくらいかと指折り数えていました。
また、ほかにも猫猫は自分のことを「平民で失敗すれば簡単に吹き飛ぶ命」と言ったり、「平民は貴人に逆らえない」と考えていたりする描写があります。
このようにこの作品では絶対的な身分制度があり、猫猫も壬氏もその身分にとらわれているのです。そのため、壬氏が高貴な身分である以上、公の場では絶対に一介の下女のために慌てることはできません。
しかし、そのように考えると、壬氏が自身の手で猫猫を連れ出すことも本来ではありえないのです。それなのになぜ、壬氏は自身の手で猫猫を連れ出したのでしょうか。
おそらく、そこには少なからず猫猫へ思いをよせる壬氏の気持ちが隠れているのでしょう。いくら猫猫が牛黄をもらうために壬氏を助けたとしても、彼女へ思いを寄せいている彼は自分のためにボロボロになった彼女を見て、つらそうな表情を浮かべていました。
好意を寄せている相手がそんな状態になってまで自分を助けてくれたからこそ、誰かに委ねるのではなく自分の手で連れ出したかったのかもしれません。
そのように考えると、あのシーンは身分制度と自身の気持ちのなかで揺れ動く壬氏を描いていたとも考えられるでしょう。
〈文/林星来 @seira_hayashi〉
《林星来》
フリーライターとして活動中。子供の頃から培ってきたアニメ知識を活かして、話題のアニメを中心に執筆。アニメ以外のジャンルでは、葬儀・遺品整理・金融・恋愛などの記事もさまざまなメディアで執筆しています。
※サムネイル画像:https://kusuriyanohitorigoto.jp/episodes/19.htmlより
アニメ「薬屋のひとりごと」公式サイト
©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会