※本記事にはTVアニメ・原作漫画『ONE PIECE』のネタバレが含まれます。ご注意ください。
※本記事はTVアニメ・原作漫画『ONE PIECE』に関するライター個人の考察・見解に基づくものであり、公式の設定や見解とは異なる場合があります。
ロックスは、ただ暴走した“世界最凶の海賊”ではなかったのかもしれません。ゴッドバレー事件では、ロジャーとガープが手を組んでロックスを止めたと語られてきましたが、近年の描写をたどると、そこにはイム様の力に抗おうとするロックスの姿も見えてきます。なぜ彼は敵であるはずの二人に、自分を止める役目を託したのでしょうか。
◆ロックスはなぜ「止めてくれ」と願ったのか ゴッドバレーで起きた異変
第1159話において、ロックスがゴッドバレーにいた本当の目的が「妻と息子を逃がすため」であったというこれまでの悪名からは想像もつかない事実が判明しました。家族を想う一人の人間であったはずの彼が、なぜ歴史に名を残す大事件を引き起こすことになってしまったのでしょうか。
その真相のカギを握るのが、第1164話で描かれたイム様による‟黒転支配(ドミ・リバーシ)”という恐るべき力です。
ロックスはこの力によって、意思を持たない強制的な「悪魔の姿」へと変えられ、精神までも乗っ取られ始めてしまいます。エッグヘッド編で五老星たちが見せた、あの不気味な怪物化のルーツは、すでに38年前のゴッドバレーでロックスを“器”として発動していた可能性が高いと考えられます。
イム様に支配され暴走状態になったロックスは、加勢に駆けつけたはずの仲間であるエドワード・ニューゲート(白ひげ)やカイドウに対しても、敵味方の区別なく容赦ない攻撃を仕掛け始めます。
白ひげがロックスに対し「邪魔か?ロックス…俺たちが…!!」と問いかけ、どこか憎みきれない複雑な態度を見せていたのは、このときに「ロックスが自分の意思を失い何者かに操られている」という決定的な異常事態を察知していたからではないでしょうか。
しかしそんな絶望的な状況の中、自らの前に立ちはだかったロジャーとガープに対し、ロックスは残された最後の自我を振り絞るようにして、見聞色の覇気と見られる力で自分の命を奪ってほしいと願っていました。
つまりゴッドバレー事件の恐ろしい正体とは、ロックスが私欲のために暴走した事件ではないといえます。彼は世界政府の最悪な支配システムの最初の犠牲者であり、自分を失っていく呪いに必死にあらがいながら、宿敵であるはずの二人に“自分の最期”を託したというあまりにも理不尽な悲劇の始まりだったといえるでしょう。
◆ロジャーとガープは何を止めたのか 共闘に隠れた“救出劇”の可能性
悪魔へと変貌し、完全に理性を失ってしまったロックス。しかし、最終的にロジャーの放った「火之迦具土慧士(ひのかぐつちのえいす)」と、ガープの「無限拳骨(インフィニトゥムエクスプロージョン)」という最大の大技が直撃したことで、ロックスの悪魔化は解除されることとなりました。
なぜ彼ら二人の攻撃だけが、イム様による強固な精神支配を打ち破ることができたのでしょうか。その最大の根拠と考えられるのが、二人が放った規格外の「覇王色の覇気」です。
『ONE PIECE』の世界において、覇王色の覇気はたんに周囲の敵を気絶させるだけの力ではありません。たとえば、映画『ONE PIECE FILM RED』の入場者特典の40億巻で明かされたシャンクスの「見聞殺し」のように、極限まで高められた覇王色は相手に未来を見せないという「相手の精神や五感に直接干渉する力」を持つことが分かっています。
この性質を逆から捉えれば、強大すぎる覇王色の覇気は、他者から仕掛けられた精神支配や呪いを力技で弾き飛ばす、最強の“盾”や“浄化の力”にもなり得る可能性が高いです。
つまり、ロジャーとガープによる前代未聞の共闘は、たんに目の前の巨悪を力でねじ伏せるためのものではなかったといえます。二人が放った最高出力の覇王色が、ロックスの肉体と精神を縛り付けていたイム様の‟黒転支配”を内側から吹き飛ばし、結果として彼の呪いを“解除”したのではないでしょうか
彼らの共闘は、世界の呪いに呑み込まれてしまった一人の男を自分たちの「王の資質」で救い出すための最初で最後の救出劇だったといえなくもありません。同じ「D」の名を持つ者として二人は敵としてではなく、ロックスの魂を最後に縛りから解放するために拳を握ったのかもしれません。
◆なぜゴッドバレーは消されたのか 世界政府が隠したかった“Dの絆”
ロジャーとガープの強力な一撃によってようやく呪縛から解放され、虫の息となったロックスの姿が第1166話で描かれました。
彼は、神の騎士団の最高司令官であるフィガーランド・ガーリング聖によって最期を迎える直前、心の中で「暴走を止めてくれてありがとよ…」と、自分を救ってくれた二人のライバルに対して深い感謝の念を抱いていました。
この美しくも悲しい描写を振り返ると、世界政府がなぜゴッドバレーという島を地図から消し去り、事件のすべてを歴史から隠さなければならなかったのかという本当の理由が見えてきます。
政府が本当に恐れたのは、「海軍と海賊が手を組んだ」という事実だけではありません。世界の王を目指した最悪の犯罪者とされたロックスが、実はイム様の非道な力の被害者であり、彼の魂を最期に救ったのが同じ「D」の名を持つロジャーとガープであったという不都合すぎる「Dの絆」の事実を、絶対に世間に知られたくなかったからではないでしょうか。
結果としてガープは激闘の末に「海軍の英雄」と呼ばれるようになり、ロックスという最大の壁を乗り越えたロジャーは「海賊王」への道を一気に突き進むことになります。
彼らが手にした輝かしい伝説の裏には、強敵でありながらも一人の友であった男を、本意ではない形で倒さなければならなかったという彼らだけのほろ苦い真実が隠されていたといえるでしょう。
ゴッドバレー事件の真実とは、世界政府が作り出した最悪の歪みを、三人の「D」がそれぞれの立場を超えて破ったあまりにも切ない結末だったと考えられます。世界政府が歴史から消し去ったのはロックスという一人の海賊の存在ではなく、そこに確かに存在した敵同士の間に芽生えた一瞬の“絆”と“感謝”の物語そのものだったのかもしれません。
──ゴッドバレー事件は、たんにロックスという危険な海賊をロジャーとガープが倒した事件ではなかったのかもしれません。もしロックスがイム様の力に支配されながらも、わずかに残った自我で「止めてくれ」と願っていたのなら、あの共闘は敵を討つためだけの戦いではなく、一人の男を本意ではない暴走から解放するための戦いにも見えてきます。
ロックス、ロジャー、ガープ。立場も目的も違う三人の「D」が、ゴッドバレーで一瞬だけ同じ方向を向いたと考えると、この事件の重みは大きく変わります。世界政府が消したかったのは、ロックスの悪名だけではなく、そこに確かに存在した敵同士の理解と、歴史に残してはならない“Dの絆”だったのかもしれません。
〈文/凪富駿(ONE PIECE担当ライター)〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に活動するフリーライター。アニギャラ☆REWでは『ONE PIECE』関連記事を担当し、物語の伏線、キャラクターの関係性、名シーンの解釈などを読者目線でわかりやすく解説している。作品を読み返したくなるような記事制作を心がけている。
※サムネイル画像:Amazonより 『「ONE PIECE」114巻(出版社:集英社)』


