『モンスターストライク』や『あんさぶるスターズ!!』など近年、スマートフォンゲームを原作にしたアニメ企画が劇場公開されるケースが珍しくなくなってきました。
しかし、ここにきてゲームのサービスが終了したタイミングで、アニメーションの劇場公開を行うゲームが登場しました。それが『SINoALICE -シノアリス-』です。
『SINoALICE -シノアリス-』は総登録ユーザー数が1,000万人をも超えるバトルファンタジーRPGなのですが、今回このゲームをベースにしたアニメーションが“ファンムービー”として、2月23日に『シノアリス 一番最後のモノガタリ』と題して劇場公開されました。
しかし、実は原作となるゲームが今年に入ってまもなくサービス終了しているせいなのか、『シノアリス 一番最後のモノガタリ』の内容はかなり攻めた内容となっていたのです。
◆「教師と不倫関係にある少女」が主人公!? 攻めたストーリー
『シノアリス 一番最後のモノガタリ』は、12歳以下の観客には保護者等の助言や指導が必要とされるPG12に指定されている作品です。いったいどのあたりが引っかかるのかと思いきや、本編が始まって早々に驚きの設定が明かされます。
主人公はアリスという女子高生。『SINoALICE -シノアリス-』のゲームに夢中なのですが、一方で母親との関係はうまくいっておらず、クラスでも浮いており、さらには教師と不倫関係にあるということが早々に明かされます。
日々の生活で孤立してしまっている主人公こそよく見ますが、本編が始まってまもなくホテルでほぼ裸の状態の絵面が登場する主人公には驚きました。
そんなアリスは、ゲームのナビゲート役である球体関節人形のギシンとアンキの策略によって家庭、クラス、そしてゲームの中でも居場所をなくされてしまい、絶望のあまりビルから飛び降りてしまう──という、追い討ちをかけるようなさらに陰湿な展開から物語が始まります。
こうして飛び降りたアリスは気づくと「ライブラリ」という空間に迷い込んでおり、ギシンとアンキによって人生を振り返ることになるという導入なのですが、振り返る出来事として教師との不貞行為にもかなり直接的に言及していきます。
寂しさを埋めようとするアリスの行為や、本心への追求をモザイク描写も交え描写していく展開はかなり前代未聞。アニメーション映画でここまで大胆にモザイクが登場するのは異例と言えます。
◆かわいいキャラクターにも容赦なし! グロテスクな表現も
『シノアリス 一番最後のモノガタリ』がPG12指定を受けた理由はこれだけではありません。
前述の不倫関係やビルから飛び降りるといった表現も映画倫理機構(映倫)の公式サイトでは指定理由に記載されているものの、それに加えて「グロテスクだったり暴力的な表現」が見られるという点も指摘されています。
物語の後半ではゲームキャラクターによるアクションシーンも用意されているのですが、それらの描写はかなり容赦がありません。
赤ずきんやシンデレラ、ピノキオなど物語の主人公たちが頭身が高く美形の独自のテイストにアレンジされて登場するのですが、そんなかわいらしい見た目のキャラクターたちは当たり前のように血だらけになります。
時には身体をレーザーが貫通したりと「ここまでやるのか」というシーンには、特別キャラクターに思い入れがなかったにも関わらず、思わず見入ってしまいます。
2000年に公開された映画『バトル・ロワイアル』のような表現まではいかずとも、かなり痛々しい表現に踏み込んでいる点でもかなり攻めたアニメーションと言えるでしょう。
◆ゲーム未経験者も問題なし! 理想のゲームの映像化だけれども……
作中にはゲームのキャラクターが複数人登場してしっかり見せ場が用意されている一方、独自の主人公を配したことでゲームをしたことがない人も楽しめるような作りになっているのは見事です。
ゲームで遊んでいた人には馴染みのあるキャラクターの活躍を大画面で見られる上に、ゲームを遊んだことがない人も世界観や作中の事件を主人公目線で自然に見られます。
“ファンムービー”と称されて敷居が高そうにも感じられますが、全然ゲームを遊んでいない人も楽しめる挑戦作となっていました。
楽しめる幅が広いという意味では理想のゲームの映像化になっているのですが、『シノアリス 一番最後のモノガタリ』の惜しいところは、肝心の原作のスマートフォンゲームがサービスを終了しているところです。
スクウェア・エニックスとポケプラの共同開発により2017年にスタートしたスマートフォンゲーム『SINoALICE -シノアリス-』は、6年半以上の運営の末に、今年の1月15日にサービス終了をしたばかり。
しかも今回の上映は東京の新宿バルト9と大阪のT・ジョイ梅田のわずか2館限定での上映となっています。せっかく幅広い層に訴求できそうだと感じられるアニメーションの内容だっただけにこの状況はかなり惜しいと感じられます。
もちろんゲーム『SINoALICE -シノアリス-』の6年半にも紆余曲折があった末の企画だったのだと思いますが、運営中にこの映画の公開できていたら誰かにとっては“最初”の物語になっていたかもしれません。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi