※本記事には漫画『SLAM DUNK』のネタバレが含まれます。ご注意ください。
※本記事は漫画『SLAM DUNK』および関連映像に関するライター個人の考察・見解が一部含まれます。
『SLAM DUNK』の“連載後の湘北”は、実はアニメではなくTVCMの中に残されていました。1998年に放送された資生堂の男性用化粧品「Aleph」のCMには、花道、流川、宮城が登場し、わずかな描写の中に原作最終話後と読み取れる手がかりが散りばめられています。宮城の背番号、流川のバッシュ、花道の髪型とプレーを見ていくと、山王戦の先に続く湘北の姿が少しずつ見えてきます。
◆連載終了から2年後、湘北メンバーはTVCMで動いていた
漫画『SLAM DUNK』の連載が終了したのは1996年です。その2年後となる1998年、資生堂から販売されていた男性用化粧品「Aleph」のTVCMに、桜木花道、流川楓、宮城リョータら湘北メンバーが登場しました。
内容は、絵コンテのような線画がそのまま動き出し、湘北の選手たちがコート上でプレーをつないでいくというものです。セリフはほとんどなく、流川がアップになった場面で「む」という一文字が描かれる程度でした。それでも、連載終了後の喪失感を抱えていた読者にとっては、花道たちが再び動く姿だけで十分すぎるほど大きな意味があったはずです。
このCMが興味深いのは、たんなるキャラクター起用に見える一方で、原作終了後の時間が流れていると読み取れる点です。登場人物の顔ぶれや身につけているものを追うと、全国大会後の湘北を思わせる細かな変化が見えてきます。
◆宮城の背番号はなぜ「4」なのか CMが示した新キャプテンの時間軸
CMに登場する湘北メンバーは、花道、流川、宮城の3人が中心です。赤木剛憲、木暮公延、三井寿といった3年生が姿を見せないことに、当時違和感を覚えた人もいたかもしれません。
しかし、宮城のユニフォームを見ると、このCMが原作最終話後の世界だと分かります。原作で宮城が背負っていた番号は「7」でしたが、赤木たちが引退した後、新キャプテンとなった宮城は「4」を着けることになります。CMでも宮城はすでに背番号4のユニフォーム姿で描かれており、時系列としては山王戦後の湘北だと考えられます。
わずかな番号の違いですが、『SLAM DUNK』ファンにとっては大きな情報です。宮城が正式にチームを引き継ぎ、赤木不在の湘北が新しい体制で走り出していることを、短いCMの中でさりげなく伝えていたのではないでしょうか。
◆流川はエア・ジョーダン12へ 新バッシュに残る“その後”の実感
流川にも、見逃せない変化があります。原作の流川は一貫して「エア・ジョーダン5」を履いていましたが、このCMでは「エア・ジョーダン12」を履いているように描かれています。
エア・ジョーダンは、バスケットボールシューズの中でも高い人気を誇るシリーズです。『SLAM DUNK』の原作では、流川と花道がエア・ジョーダンを履いていることも印象的で、2人の存在感を際立たせる要素の一つになっていました。
「エア・ジョーダン12」は1996年11月に登場したモデルです。連載終了後の時期と重なるため、流川がその後にバッシュを新調していたと考えると、CMの数秒にかなり細かな時間の流れが込められていたことになります。流川らしく多くを語らず、足元だけで“続き”を感じさせる演出だったといえるでしょう。
◆花道は復帰していたのか 短髪姿と宮城との連係が示す回復
原作終盤の花道は、山王戦で背中を痛め、リハビリ中のまま物語の幕を閉じました。そのため、花道が選手として無事に戻れるのかは、多くの読者が気にしていた点です。
CMの花道は、最終話よりも髪が伸びた短髪姿で登場します。そしてリバウンドを取り、宮城へパスを出し、さらに宮城のノールックパスからアリウープを決めるなど、かなり軽快なプレーを見せていました。
もちろんTVCMの演出である以上、原作本編の続編と同じように断定することはできません。それでも、花道が再びコートで跳び、宮城との連係まで見せている映像は、山王戦のあとを心配していたファンにとって大きな救いだったはずです。赤木が去った湘北で、花道がゴール下の中心として成長していく未来まで想像したくなります。
◆ラストには井上雄彦先生も登場 90秒CMが残した余韻
このCMのラストには、原作者の井上雄彦先生本人も登場します。描かれていた原稿を丸めてゴミ箱へ投げ入れるものの、外れた紙くずがボールのように跳ね返り、そこから花道のダンクへつながるという演出です。
作品の外側にいるはずの作者が、最後に映像の中へ現れる構成は、かなり遊び心のある仕掛けでした。現在の井上先生の印象とは違う髪型も含め、当時の空気を感じさせる貴重な映像だったといえます。
映画『THE FIRST SLAM DUNK』の大きな反響によって、改めて『SLAM DUNK』の続きを望む声は高まりました。原作のその後を長編として見ることは今も多くのファンの夢ですが、1998年のTVCMは、その願いにほんの少しだけ応えてくれた存在だったのかもしれません。
──『SLAM DUNK』の最終回は、すべてを説明し切らない余白を残して終わりました。だからこそ、花道は戻れるのか、宮城の新チームはどうなるのか、流川はどこまで伸びるのかという想像が、今もファンの中で続いています。
資生堂「Aleph」のTVCMは、わずかな時間の映像でありながら、その余白にそっと触れるような内容でした。宮城の背番号4、流川の新しいバッシュ、花道の復帰を思わせるプレー。それらを知ると、湘北の物語は最終回のあとも確かに続いていたように感じられます。90秒にも満たない映像の中に、ファンが見たかった“その後”が詰まっていたのではないでしょうか。
〈文/士隠カンナ〉
《士隠カンナ》
アニメ・漫画関連のムック本を中心に活動するフリー編集・ライター。1990年代〜2000年代のアニメ作品を原点に、近年の話題作から長年愛される名作まで、幅広い作品の解説・考察・キャラクター分析を手がけている。作品の魅力や背景を読者にわかりやすく伝える記事制作を得意とする。
※サムネイル画像:Amazonより 『SLAM DUNK 第20巻(出版社:集英社)』

