“また”海外の傑作映画がビデオスルーという形で上陸してしまいました。

 近年、海外のアニメーション映画の上映もバラエティが豊かになってきており、アメリカやヨーロッパ、アジアの作品など、日本に居ながらも各国の作品を劇場で観られるようになってきました。しかし、そんな中でも、漏れてしまう作品は出てくるもの。実は今冬、海外ではしっかりヒット作となったアニメーション映画が、日本での劇場上映を果たさず、直接DVDとBlu-rayが発売されるビデオスルー作品として上陸しました。

 その映画というのが2020年にアメリカで公開された『クルードさんちのあたらしい冒険』(原題:『The Crods : A New Age』)。

 『シュレック』シリーズや『ボス・ベイビー』シリーズなどで知られるドリームワークス・アニメーションが手がけた映画です。ドリームワークス・アニメーションはアニメーションの制作会社としては世界規模で活躍する大手でありながらも、意外と作品によって待遇が大きく変えられてしまっているのが、日本の現状です。中でも『クルードさんちのあたらしい冒険』は知る人ぞ知る作品にしておくにはもったいない傑作だったので、どんな作品なのかをぜひおさえておきましょう。

◆そもそも『クルードさんち』シリーズとは?

 『クルードさんちのあたらしい冒険』の話をする前に、大前提として知っておきたいのは、実はこれが続編映画だということです。

 2013年、ドリームワークス・アニメーションが『クルードさんちのはじめての冒険(原題:The Croods)』を公開しており、実はその劇場版第2弾となっています。この『クルードさんちのはじめての冒険』は劇場公開の際にはアメリカでも1.8億ドルのヒット作となり、中国でも4億元に迫る好成績を残すなど世界では、強烈なスケールでの大ヒットを果たした作品でした。しかし、日本では残念なことに劇場未公開。この第1弾からビデオスルー作品として日本上陸しました。

 『クルードさんちのはじめての冒険』の舞台は原始時代。危険だらけの世界で家族を守るためにありとあらゆることを禁止する父親グラグ率いるクルード一家が、終末を迎えようとしている世界を生き延びようとしていく物語です。危険を犯してまで外の世界へ出たがる好奇心旺盛な娘のイープは、過保護な父と対立しがちだったのですが、知恵を持って一人でサバイバルする青年ガイとの出会いや、住処の洞窟が崩れたことをきっかけに否応なく外の世界に出ることになる事件をきっかけに、クルード一家が「生きる」とは何かを改めて見つめ直す事になっていきます。

 グラグ役をニコラス・ケイジ氏、イープ役をエマ・ストーン氏、ガイ役をライアン・レイノルズ氏が吹き替えを担当していたりと、ボイスキャストをとってもその豪華ぶりに驚かされます。シリーズ第一弾がすでに見事な傑作となっているので、まだ観ていないという人は、まず『クルードさんちのはじめての冒険』を観てみることをオススメします。

◆『クルードさんちのあたらしい冒険』は何を描くのか?

 そんな『クルードさんちのはじめての冒険』から約8年。クルード家の物語に新章が生まれたのが今回の映画『クルードさんちのあたらしい冒険』です。アメリカではコロナ禍で客足が遠のいていた映画館を賑わせることに一役買った映画となり、コロナ禍でありながらも5800万ドルも稼ぐヒット作となりました。

 前作となる『クルードさんちのはじめての冒険』で、綺麗な結末を迎えていたので、一体どんな続編を作るのだろうと思いきや、前作とはまた違った視点でクルード家を試す出来事が登場します。今回の新たな映画では、クルード家とは別の家族であるベターマン一家が登場。野性味溢れるクルード家とは違い、清潔で暮らしやすい巨大なツリーハウスや、食べるのには困らない果実園や畑を持っていたりと、より文明が発達している隣人が登場します。

 そんなベターマン一家は、一見体裁としてはクルード一家を受け入れる素ぶりを見せる一方で、実は下等な家族として疎ましく思っていたりと、家族単位での格差をテーマの一つとしています。

 そして、実はそんなベターマン一家にも隠された秘密や、家族内で抱える問題があったり、クルード一家とベターマン一家という二つの家族の遭遇がいくつもの事件を生み出してくれる様を時にゲラゲラ笑わせて、時にはホロリとさせるような見せ方で楽しませてくれます。

 タイトルの通りアドベンチャー映画としてアクション味に溢れる『クルードさんちのはじめての冒険』に対し、今回の『クルードさんちのあたらしい冒険』では個々人の心情が大きく変わる、より内面的な冒険に踏み込んでいく作品となっていきました。前作とは方向の異なるテーマでありながら、『クルードさんち』シリーズならではの見事なアイディアをぶつけてきた『クルードさんちのあたらしい冒険』は、とってつけた続き物ではない、しっかりとした“あたらしい”冒険になっていました。

◆いつか日本の劇場で観られる日を!

 そんな『クルードさんちのあたらしい冒険』は、冒頭でも紹介した通り、日本でもすでにDVDやBlu-rayでの販売がスタートしているほか、ダウンロード販売も実施されており、現在自宅で気軽に観られる状態になっています。

 海外でしっかりとヒットした作品が、日本で劇場公開されないのは残念ではある一方、まだまだオミクロン株の流行など、新型コロナウイルス感染症への緊張が解けない現状では、外に出ずとも観られることは、助かるという人も多いでしょう。

 実際、アメリカでも『クルードさんちのあたらしい冒険』を自宅で楽しめるように、劇場公開から1ヶ月ほどで有料のデジタル配信が実施されました。アメリカでも多くの人が映画館ではなく自宅でこの新作映画を迎えたことを思うと、実は今作に限っては海の向こうと同じような形での公開のされ方と受け取ってもいいのかもしれません。

 まだまだみんなが安心して外に出られる状況ではないですが、いつかその時が来た際には、イベント上映的にでも『クルードさんちのあたらしい冒険』が日本の劇場でかかる日が来ることを祈っています。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

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