2021年10月30日より、毎年恒例の東京国際映画祭が今年も開催されました。
毎年アニメーション作品にもスポットがあたり、今年は湯浅政明監督の最新作となる『犬王』のジャパンプレミアや、2021年公開予定の注目作『グッバイ、ドン・グリーズ!』のワールドプレミア、そして最新作だけでなく、今年亡くなられたアニメーターの大塚康生さんの仕事を振り返るプログラムとして『じゃりン子チエ』や『わんぱく王子の大蛇退治』といった今や古典名作と言っても良い往年の作品が上映されたりと、充実した内容となっていました。
そんな中、しれっと日本以外の国のアニメーション映画がこの東京国際映画祭で日本初上映を果たしていました。その名も『クリプトズー』。もしかしたら、日本での上映はこれが最初で最後になるかもしれない、という危機感を感じ、いざ観に行って観たところ、これがまさかの大傑作!一体どんな映画だったのかを、ご報告しておきたい!
◆アメリカからやってきた『クリプトズー』とは?
“少年少女に映画の素晴らしさを体験してもらう部門”であるユース部門。そんなユース部門の高校生世代に刺激を受けてもらいたいというTIFFティーンズ作品として、東京国際映画祭にて上映を果たしたアメリカ発のアニメーション映画が『クリプトズー』です。
ある夜、1組のカップルが森の中に作られた施設の中に迷い込みます。その施設こそ我々がよく知っている動物とは明らかに姿形の違う生き物たちが収容されている“クリプトズー”。ユニコーンにペガサス、ドラゴンに天狗まで、世界中のクリプト(隠れた)な存在である生き物たちが保全の目的でこの地に集められています。
主人公は施設側の人間である女性のローレン。特殊な力を持った生き物たちを利用しようとする軍の人間と対立しながら、希少な生き物を捕獲しようと奮闘するのですが、事態はそれどころではない事故が発生し、クリプトズーの存続が危ぶまれる事態に直面します。
本作は、海外の映画祭でも高い評価を獲得しており、中でもファンタジア国際映画祭では、アニメーション部門の最高賞である今敏賞を2021年に受賞している作品です。ファンタジア国際映画祭といえば、コアな作品が多数出品される映画祭でもお馴染みなのですが、本作もその例に違わぬエンターテイメント作品であり、モンスターパニック映画要素も持った映画となっています。
◆日本のあの妖怪がまさかのキーキャラクターに!
前述のように、この映画では天狗といった日本の妖怪も登場しているのですが、実はそれよりも目立った活躍をする日本の妖怪がいます。それが貘(ばく)。元々は中国由来の架空の生き物でしたが、日本国内で独自の進化をし、“悪夢を食べる生き物”という特徴を持つようになりました。
『クリプトズー』ではそんな貘が、主人公のローレンが作中で追い求める重要な生き物という扱いで登場します。実はローレンは、親が日本の米軍基地に従事していた時期があり、幼い頃に貘に悪夢を吸い取ってもらったという過去を持つ人物。そんな思い出の存在として、なんとしてでも貘を保護してあげようとしてくれます。
しっかり日本の妖怪である点を設定に取り入れてくれているのも嬉しいところですが、実は貘が吸い取る「夢」というのもストーリー上では重要なキーワードとなっていきます。生き物たちを悪用しようとする明らかなヴィランとして軍の人間たちが登場する一方で、希少な動物たちを保護目的で動物園のような施設に収容しようとするローレンに対してもまた、この物語では明確に善人としては描きません。果たして、ローレンのその理想は正しいのか。ローレンにとっての「夢」であるクリプトな生き物たちとの共存がどんな顛末を迎えるのか、そしてローレンは貘を保護することはできるのか。マイノリティな存在との共存の難しさという、一筋縄ではいかない世界を本作では描きます。みんなで手を取り合っての人類の共存はそれが“夢物語”なのかどうか、を最後に私たちに問いかけます。
◆それでも日本での劇場公開を応援したい!
残念ながら『クリプトズー』は、キャラクターたちが滑らかなアクションを見せてくれるとはお世辞にも言い難い、動きで魅せる映画ではないですし、人物たちのキャラクターデザインも“バタ臭い”と表現されてもおかしくないようなクセのあるもの。パッと見での取っつきにくさが強いのは否めません。冒頭でも危惧していた通り、もしかすると、今回の上映が日本での最後の機会となってしまうかもしれません。
しかし、実際に観てみた感触としては珍品として置いておくのは実にもったい無い映画。架空の動物が好きな人やモンスターパニック映画好きにはおそらく刺さる内容ですし、動きが少ない中でいかに絵を見せていくのかという工夫も詰まっていて、いわゆる“アートアニメーション”と評されるような作品の一つとしての魅力も備わっている映画でした。
ぜひ、日本の配給会社さんの目にとまり、映画祭だけでなく、広く日本のいろんな映画館で上映されるような作品となって欲しい! そして、もし次の上映の機会があった際には、「あの映画だ!」と思い出して、一人でも多くの人に足を運んで欲しい映画でした。
こういった出会いがあるからこそ、映画祭は油断ができません。この映画を上映してくれた東京国際映画祭さんに感謝すると共に、目撃者の一人として『クリプトズー』を応援して参ります。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi
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