まる1年の延期を行なったことがタイトルからも分かる『映画ドラえもんのび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ)2021』が、2022年3月4日(金)からついに劇場公開を果たしました。

 日本人であれば、ドラえもんが未来から来た存在で、のび太やしずかちゃん、スネ夫やジャイアンといったキャラクターが登場する、といった基本的な情報は認知されているだけに、毎週放送されているTVシリーズを追っていなくても、劇場版を観るために映画館に足を運ぶという人も結構居るのではないでしょうか。ただ、今年の映画は特に「久しぶりに観に行きたい」と思う人も多くなりそうです。

 映画ドラえもんシリーズは不定期に過去の劇場版シリーズのリメイクを行うことがあるのですが、『映画ドラえもんのび太の宇宙小戦争2021』はそんなリメイクシリーズの一つ。1985年に公開された『映画ドラえもんのび太の宇宙小戦争』という、年代表記のない元の映画を新たな製作陣でリメイクした映画です。

 当時は、原作者の藤子不二雄先生もご存命で、原作漫画を描いたり、脚本に名を連ねているような作品だったのですが、2022年を迎えた今、かつての映画をどういった形でよみがえらせるのかは、いかんせん元の映画を楽しく観ていた身からすると、期待がありながらも不安も感じる部分でした。『映画ドラえもんのび太の宇宙小戦争2021』は、リメイクでどう生まれ変わったのでしょう。

◆『映画ドラえもんのび太の宇宙小戦争』はどんな映画だったか?

 そもそも1985年の『映画ドラえもんのび太の宇宙小戦争』はどんな映画だったでしょうか。本作では、のび太たちが自主映画を制作していた最中に、見慣れない宇宙船のプラモデルを拾ったことから物語が始まります。

 のび太が拾った宇宙船というのが実は本物で、中から地球よりも小さな星ピリカ星からやってきたパピという宇宙人が現れます。パピは、ピリカ星の反乱軍のギルモア将軍に追われ、宇宙船に乗って、地球に流れ着いたわけですが、それを聞いたのび太たちは、パピを守ろうとします。しかし、すでに反乱軍の長官・ドラコルルの乗った宇宙船が地球に侵攻しており、ドラえもんたちに襲いかかっていく……という導入の映画でした。

 ドラえもん映画ということで、もちろん子供向けの作品という前提はありながらも、のび太たちが、自分たちとは遠く離れた星の戦争と対峙するという物語や、ピリカ星の内乱によってパピが星から逃れてくるといったディテールが、大人をも唸らせうる深みをもたらす作品となっていました。

◆『映画ドラえもんのび太の宇宙小戦争2021』では何が変わったのか?

 そんな1985年版に対し、『映画ドラえもんのび太の宇宙小戦争2021』はどう変わったのか。

 実はストーリーの大筋としては変わっておらず、リメイク前の作品を知っている身からすると多くのシーンに「懐かしい」と感じられるようなリメイク作となっていました。ただ特筆して決定的に違うと感じさせられたのが、今作のゲストキャラクターであるパピです

 リメイク前はマスコットのような可愛さが特徴的なキャラクターでしたが、その可愛らしさを残しつつ、少し大人びたようなデザインに改められました。そんなデザインはもちろんなのですが、実はデザイン以上に、パピの性格に関してもリメイク前に比べると大人びたようでした。

 かつてのパピといえば、ドラえもんたちと無邪気に遊んだり、純粋な性格が愛らしいキャラクターでしたが、2022年版では一筋縄ではいきません。ドラえもんやのび太たちの親切さに感謝をしながらも、戦争の当事者ならではの危機感からのび太たちの行動に違和感を持つこともあれば、距離を感じる瞬間も描かれたりと、より複雑なキャラクターとして描かれています。

◆新しいパピが見せてくれるもう一つの視点とは?

 実はそんな2022年版のパピに、私はかなり救われました。

 というのも、実は1985年版では、のび太たちがあるきっかけから“戦車”に乗り込んで敵に立ち向かおうとするシーンが登場し、その場面に複雑な思いを抱いたからです。

 暴力に立ち向かうには、暴力しかないのか。

 率先して戦おうとするのび太たちの姿は正しいのか。

 憲法で戦争の放棄を謳う日本に住む一人として、子供たちの好戦的な姿にどこか危うさも感じたのをよく覚えています。しかし今回の2022年版では、映画の作中にそこに疑念を抱く役割として必ずパピが配置されています。のび太たちが武器に手をのばした時、パピは必ず複雑そうな表情を浮かべます。自身の星の問題にのび太たちを巻き込んでしまったという後悔の念はもちろんあるのでしょうが、それだけでなく、どこか武力や暴力で立ち向かう以外の方法を模索しているように感じられます。

 そんなパピの思いをしっかり反映させるかのように、2022年版では、1985年版にはなかったパピがある行動を取るシーンが追加され……そして、それにより実は微妙にリメイク前とは異なる結末が用意されています。このアレンジは、かつて1985年版を観たときに引っかかっていた疑念を晴らしてくれるような着地を見せてくれました。

 武器を取らなければ争いを防ぐことはできないのか。そんな課題を考えるのには、まさにうってつけの視点をパピがもたらしてくれたのです。

 

 ――奇しくも、2022年は例年よりも戦争危機を強く感じる年となりました。『映画ドラえもんのび太の宇宙小戦争2021』が延期となると聞いた時は残念でしたが、今となっては、この映画をより身近に感じられるタイミングでの公開と言えるでしょう。残念ながら素直に喜べない事態ではありますが、この映画をきっかけに、ドラえもん達やパピのように我々一人一人が戦争に対して、できることを見つけていきたいです。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

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