第8回新千歳空港国際アニメーション映画祭には、今年も世界中からバラエティに富んだアニメーションが集まったのですが、そんな中でも……いや、そんな中だからこそ異彩を放つアニメーションが現れました。それが日本コンペティションに出品された『古代戦殻ジェノサイダー 第22話OPED次回予告(再放送)+CM集』です。

 すでに短編アニメーション作品らしからぬタイトルなのですが、それもそのはず、通常の短編アニメーションとは一線を画す作品となっていたのです。日本人……特に一定の層にものすごく刺さるであろう『古代戦殻ジェノサイダー』の正体を。

◆『古代戦殻ジェノサイダー』とは一体何か?

 映画祭で上映されたバージョンとはわずかに違いがあるものの、大半が同様の作品『古代戦殻ジェノサイダー 第22話OPED+CM』が現在YouTubeにて配信されています。それがこちら。

 観ると分かる通り、この作品には“本編”がありません。TVアニメ『古代戦殻ジェノサイダー』のオープニング映像とエンディング、さらには提供のアイキャッチや次回予告、そして関連CMが全編に渡って荒れた画質とノイズ付きで公開されているのみです。事前情報がないと一体どういうことなのか?と混乱すると思いますが、実はこれ、80年代末に放送されていたTVアニメの録画が奇跡的に発見されたとしたら、という体裁の自主制作アニメーションなのです

 『聖闘士星矢』の系譜を思わせるルックなどはいかにも80年代アニメなのですが、本当はそんなアニメーションは存在していません。架空のアニメーションをわざと古そうな映像作品としています。

 本作を制作したのは細川晃佑監督。2010年の秋より、当初は卒業制作として制作に取りかかったものの、想定よりも時間がかかり9年と10ヶ月という制作期間がかかってしまったという力作です。

◆『古代戦殻ジェノサイダー』の2つの面白さ

 本作、大きく分けて2つ見事な点があると思っていて、まずは多くの人が感じる80年代アニメという設定の説得力でしょう。

 キャラクターのデザインはもちろんのこと、演出やエフェクト、エピソードの最後のカットにエンディング曲のイントロがかかる細かな要素に至るまで、当時の流行を感じさせる“あるある”に溢れているところが秀逸です。

 それだけであれば、本作はただの80年代アニメのパロディになってしまうのですが、もう一つ本作が見事なのは、「80年代のアニメを録画したVHS録画が発掘されたものをネット上にアップした」というもう一つ別の再現をしている点にあります。

 00年代後半から、ニコニコ動画やYouTubeの流行と合わせて、古い個人的な録画素材を個人ベースでネット上にあげるケースが生まれていきます。そういった動画は「懐かしのOP・ED集」のような形で一部の映像が素材化されたり、ソフト化の対象となっていない放送当時のTVCMなども重宝されていきました。これらの動画は、明らかに非合法な存在ではありつつも、アーカイブの乏しい作品については重宝をされていたり、今なお生み出され続ける今日のアニメーションの存在の仕方の一つです。本作はそんな表立って出てくることのない、アニメーション事情を短編アニメーションという形で顕在化させてくれている、むしろ現代的な映像表現とも評価できます。

 

 ――私自身もギリギリTVアニメをVHS録画していた世代ということもあり、懐かしいという感情やその「らしさ」に笑いが込み上げてくる作品なのですが、ただのギャグ作品で片付けるには非常に惜しい!この作品を時間をかけて制作してくれた細川晃佑監督を賞賛すると共に、どうしても体裁から軟派な印象を受けやすいであろう本作を、しっかりコンペティションのノミネート作品に選出した新千歳空港国際アニメーション映画祭、そしてさらにはDNP大日本印刷賞を与えた大日本印刷さんらがスポットを当ててくれたこともまた見事です。

 『古代戦殻ジェノサイダー』は TVアニメーションという形式はかつてどのようなライブ形式で存在していたのか、とそれらは現代で今どういった形で残っているのか。その二つを一度に見つめ直させてくれる、まさに秀逸作なのです。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

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