「えっ、なにこれ!?」

 と劇場公開予定に、まさに幽霊かのように突如として現れたアニメーション映画『サマーゴースト』。11月12日(金)よりついに劇場上映がスタートしました。

 本作は、映画としては短めの40分の劇場公開アニメーション。劇場鑑賞料金も、通常料金よりも低めの1,300円で観られる作品となっています。原作となる小説や漫画もなく、アニメーション制作会社もあまり聞きなれないFLAT STUDIOなるところが担当しています。謎の多いこの『サマーゴースト』には、実は思わぬ挑戦が隠されていた映画でした。

◆『サマーゴースト』の監督・loundrawとは何者か?

 映画『サマーゴースト』の監督を務めたのはloundrawさん。loundrawさんといえば、アニメーションよりもイラストレーターとして知られる方。十代の時点でイラストレーターとして商業デビューを果たしており、未だ20代という若さながら今回、アニメーション映画の監督として名を連ねています。

 loundrawさんという名前を知らなくても、多くの人がloundrawさんの手がけるイラストやお仕事は目にしているのではないでしょうか。例えば映画化も果たした小説『君の膵臓をたべたい』の装画を担当したのもloundrawさんです。2019年に公開されたアニメーション映画『君の膵臓をたべたい』では、そんなloundrawさんの原作イラストがベースとなって制作されています。

 直接アニメーションに参加されている例では、2020年に公開されたアニメーション映画『ジョゼと虎と魚たち』ではコンセプトデザインとして製作陣に名を連ねています。作中の色合いや空間表現のベースにはloundrawさんが手がけたデザイン画から構築されていきました。

 その経歴からもアニメーションの世界に近しいからこそ、今回アニメーション映画の監督を務めるのは突然ではないと言えるのかもしれませんが実は、何よりも注目したいのは、loundrawさんが大学卒業制作アニメとして2017年に発表した劇場版アニメ『夢が覚めるまで』予告編。架空の長編アニメーションの予告編という短編作品であり、自主制作作品でありながら、当時もTVアニメでも活躍中のプロの声優陣である、雨宮天さんや下野紘さんをボイスキャストに起用し、さらに主題歌にはBUMP OF CHICKENの楽曲を使用していたりと、架空とは思えない仕上がりとなっています。

 この『夢が覚めるまで』の存在を思うとloundrawさんがかねてよりアニメーション映画制作に対する思いを強く抱いていたであろうことが分かります。

◆loundrawさんが設立!アニメーションスタジオFLAT STUDIO

 そしてその本気さがさらに形となって表れたのが2019年1月です。

 この年に設立されたのが、今回の『サマーゴースト』の制作を務めたアニメーション制作会社FLAT STUDIOです。この会社を設立したのがほかでもないloundrawさん!すでにイラストレーターとして大活躍している中で、自らアニメーション制作の世界に乗り込んで来たのでした。設立の際にloundrawさんは以下のコメントを残しています。

アニメーションは僕にとって憧れでした。幼い頃から触れてきた、絵が時間軸を持つその表現手法は、一個人として、イラストレーターとして特別な存在です。これまで培った技能や手法は、究極の集団作業であるアニメ制作においては枷になるかもしれません。ですが、だからこそ、その先には新たな可能性が待っているのではないかと思っています。仲間も経験もすべてゼロから、自分の未知なる可能性に挑戦します。何卒よろしくお願いいたします。

■引用:FLAT STUDIO公式サイト:https://flatstudio.jp/news/93

 このコメントからも強い決意を持っての挑戦であることが伝わってきます。そんな2019年から約2年。この間に、FLAT STUDIOでは花譜さんのLIVEのエンディングアニメーションなどの制作などを務めていきます。いずれの作品も短編の域を出ない映像だったわけですが、満を持して公開となったのがこの『サマーゴースト』だったわけです。

◆『サマーゴースト』は果たしてどんな仕上がりだったのか?

 そんな背景を踏まえると、『サマーゴースト』の見覚えのあるビジュアルや、他の映画よりも短い尺の謎も解けました。商業イラストレーターとして一線で活躍する方が、ついに長編のアニメーション制作を世に送り出した記念すべき映画だったわけです

 その裏に隠れた挑戦性を知ると、どうしても贔屓目に見たくなってしまうわけですが、実際のところ『サマーゴースト』の仕上がりはどうだったのでしょうか。実は私は劇場に足を運んだ際は諸々の背景を知らずに本作を見たのですが、その際に抱いた感想は“綺麗”でした。

 綺麗なアニメと聞くと、かっこいい演出に溢れた『鬼滅の刃』とか、画面の随所まで緻密な『天気の子』といった作品をイメージしてしまうかもしれませんが、そういった大型企画に肩を並べているかと言えばお世辞にも言えないものとなっています。しかし、陽が落ちる閉鎖された飛行場に佇む三人や、鉄塔に座って語り合う男女、誰もいない美術館での会話……出てくるシーンの一つ一つがまさに“絵になる”と表現したくなる美しさを内在しています。

 このセンスはやはりイラストレーターという顔を持つloundrawさんだからこそだったのでしょう。もしかして実はすごいアニメーションのクリエイターの登場を目の当たりにしているのでは?と思ってしまう、そんな感触がこの映画にはありました。

 『サマーゴースト』は、loudrawさんが過去に描いた1枚のイラストがベースとなっていると言います。その出自からしても、loundrawさんならではです。イラストレーターが生み出すアニメーションがどんなものになっているのか。その答えを『サマーゴースト』に観ることができました。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

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