2021年10月に『ルパン三世』がアニメ化50周年という節目を迎えるということで、金曜ロードショーがなかなか粋な企画を実施しました。その名も『みんなが選んだルパン三世』と題して、全5シリーズ、全276話の中から人気投票を実施し、その中の上位4作品を金曜ロードショーの枠で放送するというものです。映画サイズに編集したものではなく、TVアニメのエピソードを金曜ロードショーで放送するという点にも驚きです。
そして、そんな人気投票の結果が発表。以下の4エピソードが10月15日(金)に放送されることが発表されました。
2位:PART1・第1話「ルパンは燃えているか・・・・?!』
3位:PART5・第24話(最終回)『ルパン三世よ永遠に』
4位:PART2・第145話『死の翼アルバトロス』
アニメシリーズの記念すべき第1話と、最新のアニメシリーズの最終話という最古と最新の作品を一挙に楽しめるというまさかのラインナップとなっているのですが、そういった作品をおさえて首位を獲得したのはPART2の最終回。そして第4位には、他の作品とは違って、数あるエピソードの中の途中の一つである第145話というやけに中途半端な話数がピックアップされています。実はこの2つのエピソードはルパン三世に詳しい人にとっては、屈指のエピソードとして名前が上がる有名な回なのです。
◆この2エピソードがTVアニメシリーズでも必見な理由
🎊発表①🎊
アニメ化50周年特別企画
みんなが選んだルパン三世10月15日(TVシリーズ)
🥇第1位
PART2#155(最終回)
『さらば愛しきルパンよ』🥈第2位
PART1#1
『ルパンは燃えているか・・・・⁈』🥉第3位
PART5#24(最終回)
『ルパン三世は永遠に』🏅第4位
PART2#145
『死の翼アルバトロス』 pic.twitter.com/qWE9zw7ia9— アンク@金曜ロードショー公式 (@kinro_ntv) September 16, 2021
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全276話ある『ルパン三世』のTVアニメシリーズのなかで、第145話『死の翼アルバトロス』と第155話『さらば愛しきルパンよ』は他のエピソードにはない、この2話だけのある特徴があります。その特徴というのが、なんとあのスタジオジブリの宮崎駿氏が演出を担当しているエピソードなのです。
『ルパン三世』のPART2にあたるシリーズは、3年間というシリーズでも最長期間放送された作品。シリーズによってジャケットの色が変わることでもおなじみのルパンですが、もっとも見慣れている人が多いであろう赤いジャケットを着用しているシリーズで、おなじみの『ルパン三世のテーマ』が生まれたのもこのシリーズです。
エピソードごとに内容の雰囲気も変わったりと、数多の話数に違わぬバラエティに富んだシリーズとなっているのですが、中でも特に今回選出されたエピソードはアクション面でも優れた内容となっています。『死の翼アルバトロス』では、飛行艇のアルバトロス号を舞台にした激しい銃撃戦が繰り広げられ、『さらば愛しきルパンよ』では『天空の城ラピュタ』のロボット兵を思わせるデザインのロボットを駆使して街を襲撃する少女が登場したりと、スタジオジブリ作品に馴染みがある人ほど、演出を宮崎駿氏が務めているのも納得の内容となっています。
◆宮崎駿氏のルパン観
一方で、実は当時のクレジットには宮崎駿という名前は登場しません。その代わりに演出に並んでいる名前は“照樹務”。実はこの名前は当時宮崎駿氏が在籍していたテレコム・アニメーションを文字ったペンネームであることは有名な話。
宮崎駿氏にとってはこの『ルパン三世』のPART2シリーズには批判的な気持ちがあったようで、コミカルなイメージが強いPART2シリーズのルパン三世よりも、PART1シリーズの雰囲気に近い落ち着いた性格、さらにはキャラクターデザインで描かれることになります。悪党サイドという印象が強かったルパン達もこの2エピソードに限っては、正義の味方然として描かれており、『死の翼アルバトロス』ではシリーズの特徴である赤いジャケットを最後には脱いでしまうかと思えば、『さらば愛しきルパンよ』に関しては赤いジャケットを着た偽のルパンが登場する始末。PART2シリーズのルパン像を当時好ましく思っていなかった宮崎駿氏が制作しているという背景を思うと、これらの演出にも裏のメッセージをいやが応にも想像させられてしまいます。
思えば今でこそ名作として知られる映画『ルパン三世カリオストロの城』も、公開当時はルパンのイメージが違うと批判的な意見もあり、否定する声も少なくなかったとされます。そもそも『ルパン三世カリオストロの城』の公開された1979年は、TVアニメのPART2シリーズが放送されている真っただ中。本来であればPART2シリーズの特徴である赤いジャケットを着ているはずですが、この映画では緑のジャケットを着用しています。何を隠そう緑のジャケットはPART1シリーズでおなじみのジャケットカラー。宮崎駿氏がどれだけPART1シリーズのルパン像に親しみを持っていたのかが、この点からも伺えます。
◆たった一つじゃないルパンの顔
今回選出された『ルパン三世』のエピソードのうち、2作は宮崎駿氏演出回で1作はPART1ということで、ある意味少し偏ったルパン像に集中してしまっている感じは出てくるわけですが、当時支持されていたルパンのイメージが今回放送される内容のものだけでないことは知っておきたいところです。
では、「別のルパン像ってどんなものなの?」と興味を持った人に最適なルパン三世作品がなんと翌週の10月22日(金)の金曜ロードショーで放送されます。それが『ルパン三世ワルサーP38』。本作は全27作が作られたルパン三世のTVスペシャルシリーズの人気投票で1位に選ばれた作品です。
前週のコミカルな雰囲気のルパンとは一転して、『ルパン三世ワルサーP38』はシリーズでも屈指のダークでシリアスなルパンの一面を観られる作品となっています。ある意味、2週に渡る放送を観ることで、ルパン三世という男の“幅”を知れる体験となっているので、併せてチェックしてほしいプログラムとなっています。笑える楽しい作品という印象を持っている人には特に驚かされるはずです。
作中でも、軽々とその顔を変えていくルパン。イメージするルパン像が人によってバラバラだというのも、ルパンという男を体現しているようです。ルパンとは何者なのか。『ルパン三世』のアニバーサリーイヤーを噛みしめるには絶好のテーマになっているのではないでしょうか。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi