『劇場版呪術廻戦0』の鑑賞も終えて、今年も100本以上の新作アニメ映画を観ることができました。TVアニメ発の総集編映画や『アンパンマン』『トーマス』などの未就学児向け映画まで追っているとアニメだけでも相当数の新作がこの一年で公開されました。

 シネコンからミニシアター、映画祭から配信まで、観る方法は多岐にわたれど、100億円スケールの興行収入を稼ぎ出すヒット作から、海外の個人アニメーション作家が手がけたマニアックな作品の中でもピンからキリまでといった感じで、お気に入りの作品がいくつか出てくるものです。

 そこで2021年に出会ったバラエティ豊かな新作アニメーション映画たちの中から、特に見事だったアニメーション映画10本をランキング形式で紹介します。ここで紹介する映画はどれも激推しのアニメ映画たち。見逃した作品があればぜひおさえておいてください!

◆10位:ザ・タワー

 いきなり「知らないよ!」って言われそうですが、本作はイスラーム映画祭2021にて上映されたアニメーション映画。多くのパレスチナの人々が故郷の地を追われた“ナクバ”の日に、レバノンのベイルートにある難民キャンプに住んでいる少女ワルディが、曽祖父から鍵を託されたことから、レバノンの現在から過去を描きます。現代のパートはストップモーションアニメ、過去のパートは2Dアニメーションで描かれます。

 遠い国の昔の出来事がグッと身近に思える良い映画なのですが、2021年末現在鑑賞するのが難しい状態にあるのが実に惜しい名作。観る機会があればぜひお見逃しのないように。

◆9位:JUNKHEAD

 2017年のファンタジア国際映画祭にて最優秀長編アニメーション賞を受賞し、時を経てついに凱旋上映を果たしたストップモーションアニメーション。生殖能力を失った人類が、滅亡を回避するべく未知の地下世界へと潜入するちょっと変わったアドベンチャームービー。どこか気色悪いようで愛嬌のある珍妙なキャラクターたちがひしめく世界観は唯一無二。すっかり虜になってしまいました。

 本作の製作を務めた堀貴秀氏が監督・原案・キャラクターデザイン・編集・撮影・照明・音楽……とその製作のほとんどを担うという少数人数での製作作品ということでも話題になりました。

◆8位:漁港の肉子ちゃん

 明石家さんまさんプロデュースということにも着目されていますが、製作は国内外で高い評価を得たアニメ映画『海獣の子供』を製作した渡辺歩監督とアニメーション製作会社STUDIO4℃のタッグによる新作でもある一本。

 漁港の船を家としている少女キクコと、明るい母親である肉子との日々が、気持ちの良い動きと鮮やかなアニメーションで彩る感動作。ラストの多幸感でボロボロに泣かされたのも良い思い出です。

 ガッツリTVCMが流されていたそうですが、幸いテレビを持ってなかったおかげか、広告の圧も感じることなく映画館に足を運べました。

◆7位:ボス・ベイビー ファミリー・ミッション

 ボス再び!2018年公開の『ボス・ベイビー』の続編が3年ぶりに登場。かなりきれいな結末を迎えた前作を思うと、蛇足にならないかと心配したのですが、大人になったティムとテッドの兄弟の関係が疎遠になっていたり、ティムには娘ができて親としての目線が生まれたりと、家族に“なる”物語から、家族と“なった後”を描いた、「なるほど!」と思わされる見事な続編になっていました。年末年始に映画館を楽しむならこの一本がおすすめ!

◆6位:ミッチェル家とマシンの反乱

 あの『スパイダーマン:スパイダーバース』のソニーピクチャーズアニメーションが手がけた新たなアニメーション映画がNetflixにて2021年独占配信という形で公開!変わり者が揃ったミッチェル家の面々が、家族の絆を取り戻す長距離ドライブを決行している真っ最中に、ロボットたちが人間へ反乱。どういうわけかミッチェル家の面々が人類最後の砦となってしまうという、笑いあり涙ありのアクションムービー。

 ストーリーの秀逸さに加えて、アニメーションにアニメーションをデコレーションするような見た目の楽しさにも注目です。

◆5位:サイダーのように言葉が湧き上がる

 「もっとヒットしてくれても良かったのに!」と思わず声が出てしまう2021年夏公開の青春アニメーション。

 地方都市を舞台に、コミュニケーション下手な俳句好きの少年チェリーと、矯正中の前歯にコンプレックスを持つ明るい人気動画配信者スマイルが偶然出会い、わけあってレコード探しをする事になる物語。世界を救ったり、誰かが命の危機に陥ったりといったスケールの物語ではないながら、素朴な内容をこうも鮮やかで新鮮にみせられるのかという驚きがあります。早くもNetflixにて配信がスタートしているので、劇場で見逃したという人ももう観れますよ!

◆4位:あの夏のルカ

 2021年のディズニー作品のイチオシはやはりこれ。ピクサースタジオの最新作では、海で密かに暮らしているシー・モンスターの少年ルカが主人公。地上で人間に扮して暮らすアルベルトとの出会いをきっかけに、ルカは人間世界で新たな夢を抱いていくという物語です。

 リアルな造形の印象が強いピクサーが、ガラッと印象を変えて手描きアニメのようなポップなルックの作品を投げてきたことにびっくり。笑えるし、泣けるし、ちょっと刺激的だけども、しっかり時代に投げかける部分もあり、2021年も安心安全のピクサー印は健在でした。

◆3位:映画大好きポンポさん

 2013年公開の『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』の平尾隆之氏の久しぶりの監督作は、杉谷庄吾【人間プラモ】先生のコミック『映画大好きポンポさん』のアニメ化。

 原作で描かれた新人監督青年ジーンが、撮影の最中で出会うドラマはもちろんのこと、原作では描かれていない編集パートの苦悩も描きながらクリエイターの没頭とこだわりの世界を見事に疑似体験させてくれる傑作でした。今後挫けそうになった時に、この映画が自分の中の「でもやるんだよ」の火を再び燃えあがらせてくれそうです。寿命は削りそうですが。

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◆2位:クレヨンしんちゃん謎メキ!花の天カス学園

 久しぶりに夏休み映画となった2021年のクレヨンしんちゃんがこれまた秀逸!

 私立天下統一カスカベ学園に体験入学をすることとなったしんちゃんたちが、不思議な学校の制度を体験したり、突出した個性を持つ学園の面々と出会い、そこで発生したある事件の解決に挑むという、まさかのクレヨンしんちゃん版学園ミステリー。

 あいも変わらずの無茶苦茶なギャグのつるべ打ちに、いったいこの映画をどう収集するのかと思いきや、見事しんちゃんらしく、そしてしんちゃんでしかできない着地をみせてくれました。シリーズでも、『オトナ帝国』や『戦国大合戦』、『ロボとーちゃんの逆襲』など金字塔的な立ち位置に置かれる作品は数あれど、それらとは違うやり方でまた新たな大傑作を生み出してきましたよ。

◆1位:シン・エヴァンゲリオン劇場版

 そして、2021年の一番に持ってくるのはやはりエヴァ。

 90年代に放送された『新世紀エヴァンゲリオン』を新たにリブートした新劇場版シリーズの最終作でありながら、実は過去シリーズも総括しての最後を描いたとでもいうような驚きの結末を用意してくれた映画でした。この映画一本分の中で何度驚かされて、何度心を熱くさせられたことか。観るたびに発見やそのこだわりが見つかり、すでに何回も観ていながらもいまだにちゃんと見尽くした気がしません。ストーリーの普通じゃなさはもちろんのこと、映像としての普通じゃなさもキマりにキマっていて、この映画自体が恐るべき映像兵器とでもいうような衝撃を与えてくれました。

 上映当時、会話アプリ“クラブハウス”が流行っていて、毎晩いろんな人がエヴァ語りをしていた賑やかさも含めてのお祭りのような雰囲気も、とても良い思い出として記憶に残っています。2021年はエヴァの年。そう感じるような大きな一本でした。

 

 ――もちろんこの他にも多数の良いアニメーション映画はあったものの、特に思い入れを強く感じた作品を独断と偏見で10本選ばせていただきました。国内作品がこれだけ充実していて、さらには世界の作品もコンスタントに観ることができる日本という国は、アニメーション好きには本当に恵まれた環境。そんな素敵な国に居るわけですから、この環境を有意義に利用してアニメーションライフを楽しんでいきましょう。

 そしてあわよくばもっともっといろんな作品が観られるよう、2022年の日本のアニメ映画界についても応援しています。まだまだまだ盛り上げていこうと思うので、皆さんもぜひアニメ映画という沼に踏み込んでいってくださいませ。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

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