『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『未来のミライ』……家族をメインテーマに描いた作品が続いた細田守監督が、『デジモンアドベンチャー僕らのウォーゲーム』『サマーウォーズ』といった作品を思わせるネットの世界を題材にした映画を繰り出して来ました。『竜とそばかすの姫』です。2021年7月16日に公開をスタートし、公開まもなく多くの方が足を運ぶ大ヒットとなっています。

 かつて『サマーウォーズ』では、仮想世界のOZを舞台に描いていましたが、今作では舞台の雰囲気が全く違う「U」という世界での物語が展開されます。今作、この「U」という舞台装置が、うまく生きている映画となっています。

◆『U』ってなんだ?

 『竜とそばかすの姫』に登場するこの「U」とはどういう空間なのでしょうか。

 作品ではその説明から始まります。インターネット上の仮想世界で、その登録者は全世界で50億人を突破しているほどのサービスです。本編では詳しく言及されていませんが、公式サイトでは“この世の知性を司る5人の賢者「Voices」によって想像された究極の仮想世界”という設定があるようです。

 ユーザーはこの「U」のサービスを利用する際に、特殊なデバイスを装着し、生体情報をスキャンし、As(アズ)と呼ばれる自分の分身が生成されます。いわゆる“アバター”のような存在なのですが、このAsを二つ所持することができなかったり、デバイスは常時本人の生体情報と連動しており、ボディシェアリング機能により、本人の隠された能力を無理やり引っ張り出したり、リアルタイムで本人の情報が加わったりします。

 世界の人々とお喋りをしたり、動画を見たり、ライブを開催したり、対戦を繰り広げたりとできることは既存のネットで行われていることですが、ボディシェアリングをしたAsを通して参加できる点が「U」の唯一無二の特徴と言えます

◆『竜とそばかすの姫』が描くネットが抱える危険性

 『竜とそばかすの姫』では、この「U」を舞台に、現在のネット社会にはびこる問題を描いています。

 UのユーザーはAsを経由して他人に対して罵声を浴びせたり、あることないこと噂したりと、ネットの醜悪な部分も具体的に描いています。主人公すずのAsであるベルに対しても、心ない言葉をかける者もいたり、クライマックスでは多くのAsがベルのことを取り巻いてしまい身動きが取れなくなってしまうといったシーンも登場します。

 また、この映画で特に取り上げられているのが、現実世界における本人の特定です

 Asである以上は匿名性に守られているのですが、作中で追われる身である竜に対して、多数のスポンサーの後ろ盾を持ったジャスティンというキャラクターによってアンベイル……つまり現実世界の誰であるかを晒されそうになるシーンが登場します。

 これは一般人による炎上騒動などが起こった際に、第三者から本名や住所などのプライバシーが晒されるといった行為にも重なります。「U」は架空のネットの世界ではありますが、その中で描かれていることは実際に起こっているネットの問題でもあります。

◆あくまでもインターネットの“性質”として描く

 ただし、これらの現象を描いてネットに対する負の側面を描くだけではないのが『竜とそばかすの姫』の面白いところです。

 現実世界では歌うことができなかったすずが、もう一人の自分であるベルに姿を変えることでUの世界では歌うことができ、さらにはその歌によって他者に感動を与えることができるという姿は、素直にポジティブに受け取って良いシーンでしょう。

 そしてクライマックスでは、すず自身が竜の正体を見つけるという、匿名性のある世界で本人を特定する行為が鍵になっていきます。プライバシーの侵害にあたるのではないか、といった考えも浮かぶ一方で、今助けを必要としている竜を救うべく懸命なすずの姿には、一概に間違っているとは言えないのが正直なところです。

 ネットは危険な世界だと訴えかけるだけではなく、同質の行為でも、時には悪い方向に転び、時には良い方向に転ぶということを一つの映画の中で描いているところが『竜とそばかすの姫』の大きな特徴です。

 自分の個人情報であったり、顔写真を晒すのは危険なのでやめましょうと、一定の世代は学校でも習ったと思いますが、一方で、YoutuberやTikTokerなど、自身の顔を率先して明かして脚光を浴び、活躍する若い世代も当たり前になってきました。『竜とそばかすの姫』はまさにそんなネット上のプライバシーへの感覚に変化が起こっている時代のまっただ中に、公開されるにふさわしい映画ではないでしょうか。

 もはや時代はインターネットがかけがえのない世界になっています。そんな時代に、「ネットは良いものか、それとも悪いものか」と議論してもしょうがないのは確かでしょう。それよりもネットはこういう性質を持った存在だけどどう付き合っていったらいいのか、という命題に向き合っていく方が前向きです。

“<U>はもうひとつの現実。<As>はもうひとりのあなた
現実はやり直せない。しかし<U>ならやり直せる。
さぁ、もう一人のあなたを生きよう。
さぁ、新しい人生を始めよう。
さぁ、世界を変えよう”

 これは作中で繰り返し用いられる「U」のキャッチコピーの一節です。

 「U」は架空の世界ですが、もうひとつの現実、もう一人のあなたという表現は、そのまま我々が普段使っているネットのキャッチコピーにも使えそうなものです。『竜とそばかすの姫』は、「U」を通して私たちにネットとの向き合い方を改めて問いかける映画となっているのです。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

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