――安室透を100億の男にする。
そんな話を聞いたのは、2018のAnime Japanのクリエイションセミナー“『劇場版名探偵コナン』の宣伝について”で登壇した宣伝プロデューサーである林原祥一さんの登壇だったでしょうか。
右肩上がり状態の劇場版名探偵コナンシリーズにおいて、最新作の映画『名探偵コナン ゼロの執行人』で興行収入を下げさせまいというスローガンのようなものです。これは林原さんの意気込みではなく、今年の映画のキーマンとなる安室透というキャラクターのファンの間でそういう動きがある、と紹介してくれたのですが、実は今や本当に100億の男になろうとしています。
というか、なりました。
2018年10月19日より“4Dアトラクション執行上映”を果たし、最終的に興行収入91億円に達したことが報道されています(興行通信社発表)。惜しくも、日本興業では100億の大台には到達しなかったのですが、日本だけでなくアジア各国でも上映されているのがコナンのすごいところ。中でも今やアメリカにも並ぶ大市場となった中国での上映が、2018年11月9日よりスタートしました。
なんとこれが見事なスマッシュヒットとなったので、その詳細を紹介します。
逆境もなんのその!『名探偵コナン ゼロの執行人』公開初日!
『名侦探柯南:零的执行人』という中題で公開を果たした『名探偵コナン ゼロの執行人』。同日公開作品として、マーベルのダークヒーロー映画『ヴェノム』が並ぶという逆境の中、公開をスタートしました。
中国ではTVアニメも放送されており、『名探偵コナン』自体の知名度は抜群に高いです。ですが、『名探偵コナン 純黒の悪夢』の中国興業ではあまり良い結果を得られなかったこともあり、2017年公開の『名探偵コナン から紅の恋歌』に関しては中国上映自体がされませんでした。
そんな中、2年ぶりに中国上映となった『ゼロの執行人』。不安もある中、初日の興行収入は、見事1700万元に到達。この数字は『純黒の悪夢』の最終興行収入である約3000万元の半分以上の金額。しかも2018年の11月9日は金曜日なので、これから土日を迎えようという時点ですでにこの金額に到達できたのです。最終的に初週末の興行収入は8000万元に到達。見事、『純黒の悪夢』のスコアを軽々と超える結果を残すことに成功しました。
そしてこの数字は日本円にして10億以上に及ぶ数字です。世界興行収入としては、見事『ゼロの執行人』は100億円に到達したわけです。
中国における邦画アニメの興行収入記録にも食い込む
そして2度目の週末を迎え、『ゼロの執行人』はついに1.2億元の大台を突破します。この数字、中国における劇場版「名探偵コナン」シリーズの興行収入としては1番のスコア。そもそも、中国で公開される日本のアニメ映画は今や多数あるのですが、なかなかこの1憶元のラインを越えるのが難しいのです。そんな中2週目でのこの数字は快挙と言えるでしょう。
名探偵コナンの劇場版シリーズの中国における興行収入ベスト3
タイトル | 興行収入 |
名探偵コナン ゼロの執行人 | 1.2憶元(2018年11月19日現在) |
名探偵コナン 業火の向日葵 | 8162万元 |
名探偵コナン 純黒の悪夢 | 3112万元 |
しかも中国における邦画の興行収入記録上位作品においても、この数字はすでにベスト5にランクインできる数字だったりします。キャラクター物ではドラえもん以外はなかなか苦戦しがちな中国市場でしたが、ついにコナンがその突破口を見出したようにも思えます。
中国における邦画の興行収入記録上位作品ベスト5(2018年11月19日時点)
タイトル | 興行収入 | |
1位 | 君の名は。 | 5.7憶元 |
2位 | STAND BY ME ドラえもん | 5.2億元 |
3位 | ドラえもん のび太の宝島 | 2.09憶元 |
4位 | ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険 | 1.4憶元 |
5位 | 名探偵コナン 零の執行人 | 1.2憶元(2018年11月19日現在) |
『純黒の悪夢』がなぜ低い興行収入となったのか
コナンファンであれば、今年これだけの勢いがありながら、なぜ『純黒の悪夢』が中国でいまいちな成績だったのかが気になるところだと思います。『純黒の悪夢』は劇場版シリーズの記念すべき20作目であり、安室どころか赤井秀一や黒の組織といった作品のキーキャラクターが多数登場する作品。数字だけを観ると違和感を感じる人も多いでしょう。
実はこれ、上映時期が問題があったと予想することができます。
というのも、この『純黒の悪夢』が中国で上映された2016年11月25日は、その前の週に『ONEPIECE FILM GOLD』、同日に『ファンタスティックビーストと魔法使いの旅』や『モアナと伝説の海』、そして翌週に『君の名は。』という話題作が目白押しの時期の公開となっていたからです。残念ながら、ここに挙げた作品たちは好成績を達成できたのですが、その分『純黒の悪夢』は割を食ってしまい、怒涛のラインナップに埋もれてしまう形となってしまいました。
それに比べると、今年の『ゼロの執行人』に関しては同時期に強力なアニメタイトルもなく、『ヴェノム』といった話題作とユーザーを食い合うこともなかったせいか、上手い具合に話題作として波に乗れたようです。
映画興行はまだまだ続くのですが、数字の伸びがそろそろ落ち着きだしたのと、11月4週目から『シュガーラッシュ:オンライン』の公開もスタートするということで、ここからの更なる興行収入の上乗せは厳しそうな状況でもあります。できればもっと大きな数字に及んで、中国市場でも絶大なムーブメントになってほしいところでしたが、これまでの成績や中国の日本アニメの現状からすれば十分な成績とも言えるだけに、多くを望みすぎでもあるかもしれません。
――こうして100憶という目標を本当に実現した『名探偵コナン ゼロの執行人』には驚きを隠せません。熱いファンが支えてくれている作品なんだな、という実感と共に、中国市場でも戦っていけるブランドであることを証明する結果を残せたことは本当に大きいです。この勢いをそのままに、来年そしてそのまた次の年と、ドラえもんと同じく中国市場で活躍する作品としての頑張りに期待したいところです。
(Edit&Text/ネジムラ89)
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※各種、興行収入記録は、中国の大手映画メディアサイト『Mtime时光网』(http://www.mtime.com/)で公表されている数字より。
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