<他の作品に比べても極めて、ネタバレが気になる人が多いであろう『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の具体的な内容に言及しますので、以下を読む際には予めご注意ください。>
3月8日(月)公開の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。
私も当日の朝一の回、さらには昼の回の2回目を3時間ほど、噛みしめる時間を設けてハシゴするといった個人的なスケジュールをしっかりと立てて体験してきました。
<画像引用元:https://www.evangelion.co.jp/news/shineva-4/ より引用掲載 ©カラー ©カラー/Project Eva. ©カラー/EVA製作委員会>
最初の放送当時をリアルタイムで追っていた側の人間ではないので、当時を体験した人に比べるとその感慨深さは違うのかもしれませんが、見終えた時には妙な爽快感や、改めて噛みしめ直したい、良い意味でのいくつもの引っかかりの部分に充実感を感じました。
そんな中、ある一点で個人的に特別な思い入れのあるシーンがあったのです。
それが冒頭の第3村のシーン。
◆言葉を失ったシンジを癒す第3村
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(以下『Q』)にて、すっかり言葉を失うほどにまで落ち込んでしまったシンジ。そんな彼を迎えにきたのは、まさかのかつての旧友・相田ケンスケでした。
彼が送ってくれた先は、ニアサードインパクトを受けながらも懸命に生活する人々が暮らす村・第3村でした。そこには、鈴原トウジや彼と結婚した鈴原ヒカリの姿もあり、まったくコミュニケーションを取れないシンジを優しく受け入れ、立ち直るまで待ってくれていました。
映画の前半を担う第3村のパートでは、十分な設備もなくひと世代前の時代の生活を描いているような状態に、どこか懐かしさのようなものがありました。『Q』で描かれたような荒廃した大地とは違い、封印柱によって美しい自然が残っています。
かつて庵野監督にも縁のあった宮崎駿監督や高畑勲監督といったスタジオジブリの名監督たちの作品のイズムのようなものも詰まっているパートとなっていました。
◆第3村はどこにあるのか?
そんな第3村のシーンですが、日本のどのあたりにあるのかが、あるシーンで明らかになっています。それが村へ来て間もない頃のシーン。そこには、“新所原”という駅名が残されていました。
この新所原駅という場所は実際に存在します。場所は、静岡県湖西市。静岡県には含まれていながらも、少し西へ迎えばすぐに愛知県に到達するような県境に近い地域です。
ここにはJRの駅と共に、天竜浜名湖鉄道こと天浜線が通っており、天浜線の端の駅ということもあり、始まりの駅でもあり、終わりの駅にもなり得るところは、狙ったのか狙っていないのか、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に重なるものを感じます。
◆新所原という地はどんな場所だったのか
なぜ、それほどこの新所原のことを取り上げて話すのかと言えば、何を隠そう、私自身が小学生の頃に住んでいた場所がまさにこの新所原だったのです。
3年ほどという短い期間ではありましたが、低学年から高学年へと変わっていく活発な時期を過ごしたこともあり、今もあの頃の記憶が多く残っているような土地でした。
そんな地名が『シン・エヴァンゲリオン劇場版』でまさか不意打ちで飛び込んで来るなんて思っていなかったので、ピンポイントに私のかつての記憶が蘇る体験に。久しぶりに訪れた新所原が、こんなことになっているなんて......というどこか人ごとには思えない感覚であのパートを見ていたわけです。
ちなみに、作中では屈強な建物もなく、かなり田舎の雰囲気のある村として描かれていましたが、モデルとなっているのは天竜二俣駅。都会とは言えない地域であったのは確かでしたが、私が生活していた00年代初頭の時点でも、JR新所原駅周辺はコンビニや団地、様々なインフラに溢れており、最近はJRの駅も一新されて広く使いやすい場所へと変わっています。実際の新所原は、作中で描かれているようなものとは、大きく違うものであることは、新所原を知る身としてしっかりお伝えしておきたい限りです。
ただ、山がすぐそこに迫る地域ということもあり、自然が豊富だったことは確か。見たこともないような巨大な蛾が住んでいたマンションの壁にとまっていたりと、虫嫌いの私には勘弁して欲しいような体験ができる場所でした。
<PR>
◆エヴァが描く第3村への既視感
とはいえ『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が描きたかったのは、新所原の姿ではなかったであろうことは、いくつかの描写を観ていて感じられるものがあります。
太陽光発電用のパネルが備え付けられたプレハブ形式の建物が立ち並び、人々は共用の入浴施設や図書館を利用して、十分なインフラは止まっていて使うことができない状態。これらの様子から、現実の大規模災害を受けた地域を意識しているように思えます。
2010年代も数多くの災害を受けてきた日本において、第3村で活発に生活している人たちの姿はどこか、希望が感じられるものとなっていました。
思えば、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の上映日は、東日本大震災における大きな地震が発生した3月11日の直前。もしかすると、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』という作品を踏まえて、3月11日を迎えて欲しいという意図があっての、急遽の上映だったのかも.....なんて気持ちになります。
そう思うと『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の希望に溢れた結末にも、また特別な思いが乗ってくる気がしますよね。
エヴァンゲリオンの体験だけでなく、その他の過去の記憶まで反芻させられる体験が『シン・エヴァンゲリオン劇場版』には詰まっていました。
〈文/ネジムラ89〉
≪ネジムラ89≫
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi
⇒オリジナルサイトで全ての写真を見る
©カラー/Project Eva. ©カラー/EVA製作委員会 ©カラー