6月4日、ジャンプ本誌の巻頭カラーとコミックス第11巻の発売と共に、アニメ化決定の報が届いたのが漫画・『鬼滅の刃』だ。
「鬼才が贈る、血風剣戟冒険譚!」という公式サイトの煽り通り、大正時代に一振りの剣を持ち鬼の討伐と成長を重ねる少年のどこか仄暗い冒険譚である。
独特の雰囲気と異彩を放つこの漫画をアニメ化するのは、『Fate』シリーズや『空の境界』シリーズを代表作としたufotableだ。最近では『活劇 刀剣乱舞』も話題となり、バトルシーンの迫力や魅せ方は他の追随を許さない制作会社でもある。
『鬼滅の刃』
原作 吾峠呼世晴(集英社 「週刊少年ジャンプ」連載)
アニメーション制作 ufotable兄妹の絆は誰にも斬れない―
TVアニメ化決定となります。ご期待ください。
公式サイトhttps://t.co/VQNxRG7rnr pic.twitter.com/Slh0z8rdZ2
— ufotable (@ufotable) 2018年6月4日
現在、『鬼滅の刃』はアニメ化を記念して少年ジャンプ+にて第35話までの無料公開が予定されている。ジャンプらしくない物語でありながら、あまりにも優しい主人公の少年はどこまでもジャンプの主人公らしい。
今回はそんな『鬼滅の刃』の魅力を、第35話までに登場した名言にピントを当てて紹介させていただこう。
主人公・竈門炭治郎とはどんな少年なのか?冒険の目的は?
本作の主人公は竈門炭治郎(かまどたんじろう)という名の、ごく平凡な山育ちの少年である。父が亡くなり保護者は母だけとなった6人兄妹の長男であり、山を下りて町で炭を売り生計を立てながら家族を支えていた。
そんな彼の家族への振る舞いが分かるシーンが、第3巻収録第24話の鬼との戦闘シーンだ。前回の戦いで折れた骨や怪我が完治しない状態で挑んだ戦闘の最中、そのハンデを示すモノローグである。
「すごい痛いのを我慢してた!! 俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」
(第24話「元十二鬼月」より)
彼の生きている時代は明治から大正にかけた日本であり、長男にかかるプレッシャーというのは現在と比にならないものだ。だからこそ彼は長男として立派に勤めるべく努力をし、そして何より妹や弟に「怪我をしていたなら我慢できなくて当然」という想いを抱くほど、自分へと向けた厳しさは求めずに優しく接していたのだ。
しかし彼の家族は、妹である禰豆子(ねずこ)を除き、第1話で全員鬼に殺されてしまう。生き残った禰豆子ですら、最大の敵である鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)に鬼へと変えられてしまい、家族、生活全てを奪われた。
せめて禰豆子を人間に戻せるよう、その方法を探すために、炭治郎は強さを身につけ鬼舞辻無惨と鬼達に挑み続けるというのが炭治郎少年の生きる目的だった。
「妹が人を喰った時やることは二つ 妹を殺す お前は腹を切って死ぬ鬼になった妹を連れて行くとはそういうことだ」
(第3話「必ず戻る夜明けまでには」より)
師となる鱗滝左近次(うろこだきさこんじ)が炭治郎に言い放ったセリフである。どこまでも優しく自分に厳しい少年の、鬼となってしまった妹のために発つ旅路が、他でもない命を懸けたものであることを示した覚悟のシーンである。
鬼の最期に滲む炭治郎の優しさと『鬼滅の刃』の魅力
炭治郎の優しさは妹に対してだけではない。人を襲い、喰い、殺してしまう鬼に対しても炭治郎は優しいのだ。炭治郎は人に優しい少年なのである。
「鬼となった者にも「人」という言葉を使ってくださるのですね」
(第14話「鬼舞辻の癇癪・幻惑の血の香り」より)
炭治郎にそう言ったのは、自らも鬼で在りながら医者として生きる珠世という人だ。人を鬼に変えそして支配する鬼舞辻の呪いを解き、200年以上生きてきたという珠世に炭治郎は「鬼になってしまった人を人に戻す方法」を尋ね、その研究に協力することを誓う。
「鬼」を「人でないもの」としてしまえば、鬼となってしまった禰豆子を人でないものとして否定することになる。そんな想いから発した炭治郎の言葉だったが、実際に鬼と戦い、その鬼の死に際に見る「人だったころの悲しみや恐怖」に触れ、炭治郎はますますその想いを強めた。
「神様 どうか この人が今度生まれてくる時は 鬼になんてなりませんように」
(第8話「兄ちゃん」より)
「でも 人を殺したことは許さない」
(第25話「己を鼓舞せよ」より)
人として懸命に生きていた者が、ある日突然に鬼舞辻という男に殺され鬼へとされる。そんなものと戦い死闘を繰り広げる炭治郎には、それでも悪い鬼を倒すということに迷いがなかった。これ以上人を殺させないためにも、炭治郎は鬼に刀を振るう。
そんな優しさがあるからこそ得た強さを示しているのが、第4巻収録第31話で繰り出された炭治郎の技「水の呼吸 伍ノ型 干天の慈雨」である。鬼が自ら首を差し出してきた時だけに使う、苦痛をほとんど感じない剣撃だ。
あまりにも優しい少年が、家族を奪われた悲しみを力に変え、鬼舞辻無惨という鬼を憎み、「人」を想いながら死闘に身を投げ生きる、それが『鬼滅の刃』という物語なのである。
「炭治郎からは 泣きたくなるような優しい音がする」
(第26話「素手喧嘩」より)
第1話が「残酷」と題されるようなこの冒険譚は、一見目を逸らしてしまいたくなるほどの悲しみに覆われているが、少年炭治郎の優しさと強さに胸を奮わせる物語でもある。読み終えた後に「優しさとは」「強さとは」と思えるこの漫画に、未読の方はぜひ一度目を通してみてほしい。
――アニメ化待望の声が多かった『鬼滅の刃』。漫画として洗練された美しい一枚絵で仕上げられた剣撃の数々など、アニメ化に際しどう活かすのかが注目ポイントとしてもあげられている。
ジャンププラスでの第35話無料公開は6月30日までなので、この機会にぜひこの熱く美しい冒険譚に目を凝らしてみてほしい、アニメ放映の待ちきれない一作である。
(Edit&Text/三井ハチ)
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©吾峠呼世晴/集英社
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