久々に気持ちを抉られるようなアニメに出会ってしまいました。

 そのアニメというのが2021年春よりスタートした『オッドタクシー』という作品です。

 タクシー運転手の小戸川を中心に、幾人ものいろんな秘密や悩み、事情を抱えたキャラクターが登場し、それらの人間の行動の一つ一つが複雑に絡み合う群像劇を描いた作品です。

 ちょっと変わっているのが、登場キャラクターがいずれも動物の姿をしている点。犯罪や裏取引などいかにもダーティーな奴らもいれば、相方だけが売れっ子になってしまった漫才師や、センターのみが人気のアイドルグループなど、かなりリアリティのある人間たちの物語を、キャラクターのルックスでポップに魅せてくれています。

 果たしてこの物語がどこへ向かっていくのか......まだ最終回を迎えていない今の時点で、すでに結末が楽しみでしょうがないのですが、そんなこれまでの『オッドタクシー 』の中でも特に印象的な、闇の深いエピソードが存在しました。

 それが第4話「田中革命」。このエピソードは、オッドタクシー の中でも特に地獄のようなエピソードとなっていたのです。

◆一人の青年・田中を描いた第4話「田中革命」

 普段はタクシー運転手、小戸川の話を軸に展開するアニメなのですが、この第4話だけは異質。登場キャラクターの一人、田中という男の半生が独白によって描かれるこれまでにない回となっていました

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 小学生の頃に、クラスでも目立たないグループにいた田中が、その小さなグループの中で目立てるように、消しゴム集めにハマってしまいます。少しでもレアな消しゴムを手に入れようとした田中は、親のクレジットカードをこっそり盗んで、ネットオークションに参加。消しゴム1個のために10万円という金額を払うことになってしまいます。

 かわいそうなことに、その入札した消しゴムはなんと送り届けられず、親にもカードを勝手に使ってしまったことはバレてしまい、さらには消しゴムブームは終わってしまうわ......田中は散々な事態を迎えてしまいます。

 そして、このエピソードの恐ろしいところは、なんとこれが始まりに過ぎないところです。

◆どんどん歪んでいく田中の人生

 田中は成長し、ゲーム会社に就職するのですが、ここで運命の歯車がさらに大きく狂っていきます。リサーチのために、他の会社のゲームをそれとなくプレイする田中でしたが、『ズーロジカルガーデン』というソーシャルゲームをプレイし始めたことをきっかけに、彼の人生はどんどん歪んでいくことになります。

 大きな要因は2つ。

 1つは、絶滅動物のドードーの消しゴムに思い入れがあったことから、ゲーム『ズーロジカルガーデン』の中のガチャシステムでランダムで出現するレアなキャラクターの“ドードー”を手に入れるベく、何回もそのシステムのために、ゲームに大金を注ぎ込んでしまいます。

 もう1つは、そのゲームのランキング内のトップに、かつてオークションで入札したはずの消しゴムを送ってこなかった相手の名前が載っていたことを知ったことです。なんてことないソーシャルゲームのはずが、奇跡的に田中の人生の思い入れの強い部分と重なってしまったがためにさらに、田中の『ズーロジカルガーデン』への執着は加速します。

 そして運の悪いことに、田中が何回ガチャシステムを利用しても、ドードーは出ることがなく、ついにはドードーを手に入れるためにゲームに使った金額は500万円にも及ぶことになります。

◆『オッドタクシー』の現代の群像劇を描いた魅力

 『オッドタクシー』が見事だと思ったのは、この田中のようなゲームにのめり込んでしまうキャラクターを登場させたところ。古くから群像劇なんて数多に存在するわけですが、ソーシャルゲームに大金を注ぎ込んでしまう、いわゆる“廃課金勢”の存在が生まれたのは、モバイルゲームが普及し、ガチャシステムが一般化したここ10年ぐらいの出来事。

 かつては、まだまだ法整備が追いつかず、射幸心を煽るような集金体系が流行り、田中のように何百万円と、一つのゲームに短期間でお金を費やしてしまう人が続出しました。近年は、ランダムといえどもガチャシステムの確率表記や上限金額を設定するなど、業界内での改善も始まり一時期ほどの無法地帯ではなくなってきたのですが、今尚ソーシャルゲーム業界では、多くのお金が日々動いている状態です。

 自身もそれとなく始めたソーシャルゲームに、欲しいキャラクターがいたため、ゲーム内通貨の購入を重ねたことがあります。一万円ぐらいを費やしたところでふと「冷静にならなくては」とゲームとの距離を考え直したことがあるので、『オッドタクシー 』の田中の姿は、あの時冷静になれなかったとしたらこうなっていたのかも......ともしもの自分を見ているようで、なかなかの恐怖でした。

 この他にも、『オッドタクシー 』では、過激な配信企画を企てるYouTuberのような若者や、マッチングアプリでつい見栄を張ってデートに大金を使う男などなど、ひと世代前にはなかった世の中の物事に翻弄される人々が登場します。『オッドタクシー 』のキャラクターに妙な生々しさを感じるのは、こういった現代の有り様をしっかり反映させているところにもありそうです。

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◆物語はバッドエンドへ?

 実は、4話の終盤で田中はついに、ドードーを手に入れる瞬間が訪れます。しかし、そこで登場するのが主人公である小戸川のタクシー。猛スピードで田中のそばを走り抜けたことををきっかけに、ドードーを引き当てた田中の携帯端末を破損させてしまうことになる......という実は、第4話の直前である第3話のラストと繋がるオチを見せます。

 こうして小戸川に対して私怨を抱いた田中は、このエピソード以降、小戸川をつけ狙う存在として登場していくことになるわけですが、果たして田中が最後にどんな結末を迎えるのか。物語の結末の一つとして非常に気になるところです。

 4話を見る限り、田中という男がどれだけ迂闊なことをしてしまっているかは、よくわかるのですが、そこに誰かを傷つけようだとか、不幸にしてやろうという思惑はなく、純粋に幸せを求めていたことは忘れたくないところです。

 個人的にはどこか哀愁溢れる田中が、最後どこかで笑顔に戻れる瞬間があってくれれば、ということを願いたく、そんな祈りを捧げながら『オッドタクシー 』を最終回まで見届けようと思います。

 田中の人生に幸あれ。きっと実際の世の中にも田中のような境遇の人もいるのかもしれませんが、私はあなたの幸せも応援しています。くれぐれも、お金の使い方は計画的に。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

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