20代後半〜30代前半の人たちからすると、『ポケットモンスター』(以下、『ポケモン』)は子供の時に大流行したゲーム、アニメというイメージが強いのではないかと思います。
今でもゲームは「シオンタウンのBGMが怖かった」、アニメは「ディグダ♪ディグダ♪→ダグダグダグ♪」など、お酒の席でもたまにネタになっていたりします(私の周りだけかもしれませんが)。
ゲームやアニメだけ見ると「子供向けコンテンツ」の印象がある、というのは筆者がリアルタイムでポケモンの初期を知っているからだけなのかもしれないのですが、2016年にリリースされた『ポケモンGO』が、今でもなお月間アクティブユーザーが1億4700万人*1、日本では若年層よりも中年〜高年代もプレイしている実態を見ると、もはや『ポケモン』はただの子供だけのコンテンツとは言えないレベルに達していると言えます。
そんな中気になったのが、今まで約20年間続けてきた放送枠を今年10月より変更をしたこと。
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— ポケモン公式ツイッター (@Pokemon_cojp) 2018年12月9日
「え、放送枠の移動がなにか関係あるの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はこの変更は『ポケモン』というコンテンツの対象を大きく変化しようとしている兆しがあるのです。
さて今回は、放送枠を変更したテレビ東京の意図や『ポケモン』の今後の展開がどのようになっていくのかを予想していきたいと思います!
※以降の放送時間については関東地方での時間です。ご了承ください。
これまでの19時台アニメの変遷
1997年にアニメが開始された『ポケモン』は、当初は火曜日18時30分からの放送でしたが、後に「テレビを見るときは、部屋を明るくして離れて見てください」というテロップが随所に出るようになったきっかけとされる「ポケモンショック」によって、休止から約4ヶ月後の1998年4月に木曜日19時に移動しました。
ここから2018年9月まで約20年間ずっと同じ放送枠(2016年4月からは放送時間を5分繰り上げて18時55分からのスタートでしたが)に居続けました。
当時は19時台にアニメを放送していたテレビ局も多かったですよね。
例えば日本テレビ系列では月曜日に『名探偵コナン』『犬夜叉』『金田一少年の事件簿』『結界師』だったり、フジテレビ系列では水曜日に『Dr.スランプアラレちゃん』『ワンピース』『るろうに剣心』、『ワンピース』が日曜日に移動する前は『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が放送されていました。
ところが2000年前半頃から、在京キー局は19時台をバラエティ向け番組に特化する方式にシフトしたことから、この時間にアニメを放送するテレビ局はほとんど姿を消すことになりました。
その結果、テレビ朝日系列(『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『あたしンち』『ボボボーボ・ボーボボ』など)とテレビ東京系列のみが19時台アニメを牛耳るようになりました。
テレビ東京系列も当時は『NARUTO』『テニスの王子様』『アイシールド21』『ヒカルの碁』などが19時台に放送されましたが、後年、同時刻に放送されていた『銀魂』『BLEACH』『NARUTO』などは7時半(アニメ530枠)と18時台に移動するようになりました。
その他、一時期『アイカツ!』『遊戯王ZEXAL』『妖怪ウォッチ』などの放送もありましたが、これらも19時台から早い段階で18時台などに変わっています。
最終的に長年19時台を務めるアニメは『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』そして『ポケモン』だけ(大きい目で見れば『NARUTO』→『BORUTO』も入るかもしれないですが)となり、その『ポケモン』『BORUTO』も、10月の改編で日曜日に移動することとなりました。
今振り返ってみると、確かに昔はよく学校から帰って夕飯を食べながらアニメを見たり録画していたなぁ…と感じますね。
でも2000年後半からはバラエティが多くなって見る機会も減っていました。特にフジテレビで放送された『クイズ!ヘキサゴンⅡ』が始まった時は、裏の『BLEACH』を「録画させろ!」って嘆いてた思い出が。
そんな中でも20年以上放送枠を守り続けた『ポケモン』が日曜日に移動し、実に50年以上も続けてきた木曜日のアニメ枠を終了させたのは、何が理由だったのでしょうか?
テレビ東京は日曜夕方の「家族と一緒の時間」を狙った
今回の放送枠の移動について、テレビ東京編成部長の縄谷氏は下記のように説明していました。
「マーケティングをして、日曜日の夕方の在宅率は高いが、お子さんやファミリー層を含めてテレビを見ていない率が高いデータがあった。今は(日曜の夕方は)『ちびまる子ちゃん』の“独り勝ち”ですが、そこに(ポケモンという)選択肢があれば」*2
つまり、19時台というプライムタイム(1日の中で最も視聴率が高くなる時間帯)で他放送局としのぎを削り合うよりも、潜在的な視聴者(テレビを見ていない子供・ファミリー)が多く存在する日曜日の夕方に『ポケモン』を配置し、同時間帯の『ちびまる子ちゃん』とは違うアニメという選択肢を置いた方が戦略的に良いと判断したのだと思われます。
上記の内容だけなのであくまで推測でしかありませんが、恐らくテレビ東京からすると、むざむざ『ちびまる子ちゃん』を視聴している層を奪うという目的ではなく、普段家にいてもテレビを見ていない子供やファミリー層に対する新たな時間の過ごし方として“『ポケモン』という選択肢を用意した”ようにも見えます。
なぜ『ポケモン』は朝の放送枠ではなく夕方枠なのか?
またここで筆者が気になった点、そして『ポケモン』がファミリー層も視野に入れているのではないかと感じた理由がありました。
それは、なぜ今回「土日朝7時台〜9時台」への移動ではなかったのか? ということ。
子供向けの時間帯といえば、夕方以外にも土日の朝という枠がありますよね。例えばテレビ朝日は、土曜日8時半に『プリキュアシリーズ』、同週9時台に特撮シリーズを放送しています。前は特撮系は『プリキュアシリーズ』よりも前の時間帯だったような気がします。
対するテレビ東京は、現在土曜日7時台に『BORUTO』『遊戯王シリーズ』の再放送を、8時台は『カードファイト!ヴァンガード』から続くブシロード発のカードゲームアニメ『神バディファイト』、8時半には『しまじろう』を放送しています。
また日曜日は7時台から『FAIRY TAIL』→『ディズニーシリーズ』→『ポケモンの家あつまる?(『ポケモン』の情報系番組枠)』→『デュエル・マスターズ!シリーズ』と、ガチガチに子供向けの番組編成で長年固めてきています。
以前までこの枠は様々な変更はありながら、9時台〜11時台までの大きな枠組みでアニメや子供向けのバラエティ番組を編成していました。
有名所では、9時台に『しゅごキャラ!シリーズ』『ジュエルペットシリーズ』、10時台に『ケロロ軍曹シリーズ』『プリティーリズムシリーズ』などが放送されていましたよね。
また数は多くないですが、『ケロロ軍曹シリーズ』『ロックマンエグゼシリーズ』『とっとこハム太郎でちゅ』など、夕方に放送されていたアニメがこの朝枠に移動した歴史もあります(逆のパターンは『わがまま☆フェアリー ミルモでポン!』)。
これらは当初園児〜小学生向けではないアニメの放送もありましたが、紆余曲折を経て子供向けの作品、特にカードゲームや玩具などの販売も積極的な作品が多く出揃うようになっています。
ともすれば、ここに『ポケモン』が入ってきても問題なかったのでは? と感じました。非常に短絡的な考えですが、現在放送中の『ポケモンの家あつまる?』の流れを汲んで本放送をあわせた方が、その1時間がっちりとキープできるわけですから(過去には『ポケモン』の情報系番組枠と一緒にアニメの再放送もあったんですが)。
ここで、今回『ポケモン』の視聴者層を「子供層」だけではなく「ファミリー層」に焦点を当てた理由なのではないかと予想しました。
この朝の枠は、子供がお母さんやお父さんと一緒に見ることをあまり想定していないようにも見えます。多分お母さんは掃除洗濯をしたいでしょうし、お父さんは寝ていたいでしょう。
なので、テレビ東京は『ポケモン』を子供だけを対象とせず、お父さんお母さんを交えたファミリー全体に『ポケモン』というコンテンツを浸透させたいという目的で、朝の時間帯ではなく日曜の夕方という時間に放送枠を移動させたのではないか? と推測できるわけです。
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テレビ東京もバラエティ方面に躍起になっている
若干タイトルと内容が乖離しますが、『ポケモン』をプライムタイムから移動させたもう一つの理由として、テレビ東京もバラエティ番組の制作に重きを置き始めたという予想も立てられます。
テレビ東京は、他在京キー局と比べて「独自路線」と言われるほど個性的な番組を作る傾向があり、近年その独自路線が功を奏していることが挙げられます。
例えば、現在ではテレビ東京の看板番組にもなった『モヤモヤさまぁ~ず2』の他、明石家さんまさんや東京都知事の小池百合子さんまでもがゲストとして出演した『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』、またテレビ業界にインパクトを与えた『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』などのバラエティ番組が人気を呼び、今や同時間帯の番組よりも高視聴率を獲得する結果を残してきました。
『ポケモン』の移動後、木曜19時台は博多華丸・大吉コンビをメインに添えた『突撃!しあわせ買取隊』という番組を始め、テレビ東京の19時台はこれで全てバラエティに変わりました。
他局との対抗なのかどうかは定かではないですが、恐らく『ポケモン』の枠移動についてはこういった事情も含まれているのではと思っています。
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これから親となっていく『初代ポケモン世代』に効果ありか?
放送枠を移動した『ポケモン』は、前述の通り強敵の『ちびまる子ちゃん』と視聴率を争うこととなりましたが、今のところ『ポケモン』は視聴率2〜3%台、対する『ちびまる子ちゃん』は8〜9%台と大きく差を付けられています。
まぁ正直アニメについては視聴率だけが勝負どころとは言えないので、これで『ポケモン』は完敗だ! というのはちょっと違うのでは? と疑問に思っていますが、少なくともアニメの『ポケモン』が好調というわけではないとも言えます。
とはいえ、長い目で見ると、今後は『ポケモン』が大きく巻き上げていく可能性も十分に秘められているのです。それが、最初に述べた『ポケモンGO』の利用者の多さにつながっていくのです。
今後『ポケモン』をファミリー層に浸透させていくとなると、同じ時間の『ちびまる子ちゃん』と比べて、『ポケモン』はゲームを始めとしたコンテンツが揃っているわけです。
今年11月に発売された『ポケットモンスター Let’s Go! ピカチュウ・イーブイ』(以下、『ピカブイ』)は、発売3日で合計66万本を達成し、また本体期のNintendo Switchの売上も『ピカブイ』発売前週から3倍を超えた*3など、今なおゲームの人気は変わっていません。
実際どの層が多くプレイしているのかは情報が無いのでわからないですが、Youtubeを始めとした動画サイトでは多くの実況者がプレイ動画を上げており、特に『ポケモン』ゲームの実況者に限ると20代前半〜30代前半の方も多くいることから、子供だけがゲームをやっているわけでは無いのかなと思います。
つまり、20年経った今でも「ゲーム」を通して大人たちが『ポケモン』に触れる機会が多く存在しているわけなのです。『ポケモンGO』については言わずもがなですね。
そして、もし今後も同じように大人たちが『ポケモン』に触れる機会を作り続けながら、その大人たちが結婚して子供を授かった数年後、家族間の共通の話題として集約するのがアニメ『ポケモン』になる可能性も十分にあるのです。
そしてそれは『ちびまる子ちゃん』だけに限らず、『サザエさん』や『ドラえもん』らとはまた違った、現代ならではのアプローチになるわけです。
――これらは今後5年、10年とかなり長いスパンでのお話になるので、実際ゲームフリークや小学館を始めとした『ポケモン』のコンテンツに関わる人達や、テレビ東京がどこまで先を見ての判断なのかは分かりません。
おそらく筆者のこれまでの妄想よりももっと具体的な戦略があってこその放送枠移動なのだと思います。
筆者としても、確かに今後子供を授かる機会があるなら、子供にはぜひ『ポケモン』という面白い世界を知ってほしいですし、実際にゲームをプレイさせるかもしれないです。そうなった時に「アニメ」という一緒の時間・空間を共有できるコンテンツがあるのは、とても頼もしいことかもしれません。
もし、昔『ポケモン』を見ていたりゲームをプレイしていたお父さんやお母さんがいましたら、これを機に、そしてお子さんと一緒に『ポケモン』を見るのはいかがでしょうか?
(Edit&Text/頭皮ぱっしょん)
*1 https://venturebeat.com/2018/12/22/media-molecules-dreams-gets-playstation-4-beta-test-in-january/ 日本語解説ありのサイトは→https://t011.org/mobile/mobile-app/143614.html
*2 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180907-00000016-mantan-ent
*3 https://www.famitsu.com/news/201811/21167998.html