SNSで話題になったきくちゆうき先生の漫画『100日後に死ぬワニ』で、ワニが最期の時を迎えてから一年。ついにそのアニメ映画版となる『100日間生きたワニ』が7月9日(金)より上映をスタートしたわけですが......。

 映画館の座席予約画面の座席予約で“100ワニ”の文字を浮かび上がらせて映画館を困らせる人が現れたり、レビューサイトで全く関係のない書き込みを多数されてしまったりと異様な話題が飛び交う映画となっていました。

 これも、原作の最終回時期に一気に商業展開が拡大したことに対する反発の延長線上にあるのかもしれないのですが、一度は落ち着いたかと思われたワニくんへのネガティブな印象はこうも拭えないものなのかというのは、驚きでもあります。

 そんな中、私は本作の監督の一人であるふくだみゆきさんの短編アニメ『こんぷれっくす×コンプレックス』のファンだったため、反発心のある人たちからすると稀有な存在に映るであろう『100日間生きたワニ』の公開を非常に楽しみにしていた一人だったりします。もちろん『100日後に死ぬワニ』の行く末もリアルタイムで見届けたのですが、それ以上にふくだみゆき監督の新作というポイントの方が個人的には重要でした。

 そんな私が、いざ『100日間生きたワニ』を観てきたわけですが、今回の『100日間生きたワニ』は、2つの驚きのポイントを携えた映画だったのです。

◆そもそも『こんぷれっくす×コンプレックス』とは

 そもそもふくだみゆき監督の短編アニメーション『こんぷれっくす×コンプレックス』を知らないという人も多いと思いますが、“ワキ毛青春アニメ”というインパクトのあるフレーズのついた短編アニメーションです。

 ワキ毛に憧れる中学2年生の女の子ゆいが、同級生の男子・武尾の剛毛なワキ毛に興味を惹かれていくという、一風変わったストーリー。成長期にある中学生の心情が妙ななまなましさで描かれていて、思春期に体験するトキメキや切なさなどがそのままの感触で描かれているところが愛しい作品でした。

 中でも特徴的なのが会話シーン。互いに無言になってしまう瞬間が生まれたり、けっしてテンポの良くないぎこちなさのある男女の絶妙な距離感が表れたゆいと武尾のやりとりは、屈指の見応えがありました。

 まだまだ多くの人に知られていない作品ではあるかもしれませんが、毎日映画コンクールのアニメーション賞においても、名だたる商業作品がライバルとして存在する中、自主制作作品の本作が受賞していたりと、賞レースでも高い評価を獲得している一本。ぜひもっと多くの人に知ってもらいたい作品です。

 そして、そんな素朴な会話劇の演出が、『100日後に死ぬワニ』でも生かされていれば、もしかしたらの化学変化で大傑作が出来上がるのではないかと、私は映画を楽しみにしていたのです。果たして『100日間生きたワニ』はどんな映画となっていたのでしょうか?

◆『100日間生きたワニ』驚きのポイント1:「徹底的に語らない“それ”」

 それなりの期待感を抱きながら、いざ観た『100日間生きたワニ』は、自身が描いていたような作品とは少し違うものでした。

 作中にはしっかり会話シーンは存在するのですが、『こんぷれっくす×コンプレックス』で描かれたような、間の取り方ではなく、どちらかといえば原作漫画のワニくんやネズミくんの独特な言い回しを使った会話であったり、ゆるく緩い温度感を再現するようなものとなっていました。

 少し期待しているものとは違った一方で、それとは別に『100日間生きたワニ』の会話に関して、別の部分で驚いたことがあったのです。なんとこの映画、作中で頑なにワニくんの死には言及していないのです。

 原作漫画『100日後に死ぬワニ』は、読者がワニが100日後に死ぬことを知っている中で、100日後に死ぬことを知らないワニたちの様子を見守るというものでした。そして、このアニメーション映画ではその原作で描かれた部分に加えて、原作では描かれなかったワニが死んでしまった後の登場人物たちの姿も描くのですが、その際にもワニが死ぬまでの100日間同様、ワニの死には一切触れないのです。

 「ワニが死んでしまった!」「悲しい!」「辛い!」といった感情を吐露するようなシーンは一切描かずに全く違った見せ方でワニくんがいなくなった世界をこの映画では描きます。

 登場人物たちは頑なにワニについて語らない……なのに明らかにそこにはワニの不在がある。会話を期待して観に行ったら、あえて“語らない”という部分に惹かれる体験が『100日間生きたワニ』にはあったのです。

◆『100日間生きたワニ』驚きのポイント2:オリジナルキャラクターがウザすぎる!

 アニメーション映画『100日間生きたワニ』の独自の味付けとして、もう一つ大きな要素がオリジナルキャラクターの存在です。

⇒オリジナルサイトで全ての写真を見る

 今作では原作漫画に登場しなかったカエルくんというキャラクターが登場します。みんなの暮らす街に引っ越してきたバイク好きのキャラクターという設定なのですが、このカエルくんがひたすらにウザい! ウザすぎる! のです。

 センパイの働くカフェのバイトちゃんにしつこく迫ったり、一緒にいたくなさそうにしているネズミくんをご飯に誘おうとしたり、観ているこちらがかわいそうになってくるぐらい、周りから浮いてしまっているのです。本来、原作にないオリジナルキャラクターがこんなに鬱苦しい性格だったら「なぜ生んだ!」と、カエルくんのアンチが現れかねないところです。

 ですが、この映画そこがまたうまい!

 このカエルくんの傍若無人ぶりが、動かなかったはずのドラマを見事に生み出す役割をしてくれるのです。観ているこちらの心も掻き乱すカエルくんの存在は、見終えた後に間違いなく『100日間生きたワニ』に必要な存在だったのだ、と気づかされるはずです。今となってはカエルくんのことを一周回って「好き」に思っている自分がいます。

 

 ――死んでしまって以降、責められる姿も散見されて、かわいそうな『100日後に死ぬワニ』。そんなワニに対して、少なくともこの『100日間生きたワニ』は、一区切りをつけてくれる内容となっていたのではないでしょうか。観ないで悪戯レビューを書いて意地悪してしまったという人も、ワニくんへの“死体蹴り”のような行為はやめて、ワニくんの死のその先へ歩んでいって欲しい……そう思える、優しい映画でした。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi


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