小さな島「有頂天島」にひっそりとたたずむ神社にて、放課後はいつもふたりで過ごしていた田舎育ちの美古都と生徒会役員の蓮。そんな彼女たちの和やかな時間はある日を境に終わりを迎える――。
本日6月27日、「月刊コミック電撃大王」(発行:KADOKAWA)で、大好評連載中の百合恋愛コメディ『雨でも晴れでも』の1巻がついに発売されました!
『雨でも晴れでも』は、「ヤングコミック」(発行:少年画報社)で、連載されていた『とどのつまりの有頂天』のリメイク作品。本作は、コミカルな作風の中に垣間見える、百合描写の数々が話題となり人気を集めています。
そこで『百合きゅーぶ』第6回には、『雨でも晴れでも』の作者・あらた伊里先生をお招きし、本作の見どころはもちろん、お気に入りのエピソードや、漫画制作の哲学などについて語っていただきました。
◆雨でも晴れでも
(C) Arata Iri 2020
小さな島にある全寮制の女子校「有頂天高校」。そこの生徒である山田美古都は友達がおらず、島にひっそりとたたずむ「有頂天神社」にて、放課後ひとりの時間を過ごしていた。
その彼女に一目惚れした生徒会役員の猫崎蓮は、生徒会権限を利用して巫女部を密かに設立。蓮は毎日放課後、美古都と部室代わりの神社でふたりっきりの時間を楽しんでいた。
そんなある日、彼女たちの元へ個性豊かな4人の同級生が現れ、その日常は突如変化!
少女たちの青春がはじまる――。
ブラックホールのごとき「蓮」の重たさを、「美古都」がどう救い上げるかこれからも注目してほしい
――『雨でも晴れでも』1巻発売おめでとうございます。早速ですが1巻が発売した今の心境を教えてください。
あらた伊里先生(以下、あらた先生):ありがとうございます。この『雨でも晴れでも』は前作『とどのつまりの有頂天』のセルフリメイクとなるので、初見の方はもちろん、一度『とどつま』を読んでくださった方にも楽しんでいただけるようにと尽力してきました。なので、もう……ほんと……その結果が出ると思うと、ずっと緊張でドキドキが止まらないです。
(C) Arata Iri 2020
――1巻を制作する中でこだわった部分は?
あらた先生:前作『とどつま』はテンポや軽快さを重視していましたが、今作『あめはれ』は趣向を変えて、より登場人物の感情面に重きを置いてじっくり描くようにしています。
――1巻の見どころを教えていただけますか?
あらた先生:見どころは蓮の重たさでしょうか……。内側に永遠につぶれ続けるブラックホールのごとき蓮の重たさを、美古都がどう救い上げるかがこれからの見ものだと思います。
(C) Arata Iri 2020
――『雨でも晴れでも』を制作する中での一番の楽しみを教えていただけますか?
あらた先生:主人公組である美古都と蓮の対比を描くのが楽しいです。黒髪と白髪、身長差、つり目とたれ目、大人っぽさ子供っぽさなど。主人公組だけではなくどのペアも対比を大事に考えているので、凸凹具合を描くのが楽しいですね。
――『雨でも晴れでも』は部活メインのストーリーが展開していますが、あらた先生は学生時代、どんな部活動をしていましたか?
あらた先生:学生時代は吹奏楽部でクラリネットを吹いておりました。社会人になってからは個人部活としてバイオリンを習っています。
――『雨でも晴れでも』には、美古都や蓮以外にも魅力的なキャラクターが登場しますが、あらた先生のお気に入りのキャラクターを教えてください。
あらた先生:どの登場人物も描いていて楽しいのですが、ケンカップルである「獅子丸」と「辺銀」が新鮮な組み合わせで気になっています。いがみ合うキャラを描くのがあまり得意ではなかったので、ケンカばかりしているふたりをうまく描けるだろうかと最初は心配だったのですが、驚くことに今現在も心配しながら描いています。
(C) Arata Iri 2020
――ストーリーやキャラクターはもちろんですが、物語の舞台となる「有頂天島」も大変魅力的に描かれていると思います。「有頂天島」のモデルとなった場所はありますか?
あらた先生:有頂天島のモデルは「江ノ島」です。海に囲まれた学校はロマンです。しかし江ノ島の神社はどこも立派すぎて、有頂天神社のさびれているという設定からはかけ離れてしまうので、有頂天神社のモデルは別の所になります。
――お気に入りのエピソードを教えてください。
あらた先生:強いて言うなら第2話でしょうか。前作『とどつま』で描き足りなかったところ、蓮に出会う前の孤独だった頃の美古都の心情などをページ数を気にせずたっぷり描くことができて、嬉しく思ったのを覚えています。
(C) Arata Iri 2020
――漫画を制作するうえでこだわっている点を教えてください。
あらた先生:読者の方に楽しんでいただくのは絶対条件でもちろんなのですが、なによりも物語を読んでいて必要以上に辛い思いをしてほしくないと思って制作しています。世の中いくらでも辛いことはあるので、フィクションのなかくらいは楽しいばっかりの思いをしてほしい。今どれだけ絶望的な状況にいるキャラもいずれは絶対に救われるのが、良くも悪くもあらた伊里作品です。
恋という言葉だけでは片づけたくない……女の子たちの熱っぽい物語を楽しんでほしい
――あらた先生が影響を受けた作品を教えていただけますか?
あらた先生:小説だと、森博嗣先生と恩田陸先生と梨木香歩先生の作品全般。漫画だと、椎名高志先生と谷川史子先生の作品全般です。作家で追いかけるタイプなので影響を受けた作品というよりも作家になっちゃいましたが。シリアス部分を小説から、コメディ部分は漫画から影響を受けたのかなと思っています。
――あらた先生は「百合」や「恋愛」を作品のテーマとされることが多いかと思いますが、その理由やきっかけはありますか?
あらた先生:一度、恋愛のからまないネームを切っていた頃があるのですが、ブレーキのぶっこわれたような漫画ばかりでボツ続きだったのです。が、恋愛こみでネームを切ったら緩急(かんきゅう)が勝手にできあがって無事採用されました。恋愛は私の中での「緩」なのです。
――あらた先生にとって『雨でも晴れでも』のキャラクターたちはどのような存在なのか教えていただけますか?
あらた先生:家で飼っている猫みたいなものです。みんないろいろ好き勝手暮らしているけど、私がおもちゃやごはんを投げ入れると何かしらの反応をするというような。
――女の子がたくさん登場するストーリーのどのような部分に魅力や創作意欲を感じていますか?
あらた先生:みな同じ土俵で相撲をとっている感じが好きです。
――あらた先生にとって「百合」の定義とは何でしょうか?
あらた先生:あのふたりは、ふたりきりのときにはどんなことを話してどんなことをするんだろう、と気になりだしたらそれは百合なんですね。
――最後に、これから『雨でも晴れでも』や、あらた先生の他作品を読んでみようという方へメッセージをお願いします。
あらた先生:『雨でも晴れでも』はたくさんの女の子たちが登場するので、誰かひとり、もしくはペアでお気に入りを見つけていただけると嬉しいです。小説でも漫画でも二次創作できちゃうくらい妄想して萌えていただけると作者冥利につきますね。これからも、恋という言葉だけでは片づけたくない、彼女たちの熱っぽい物語を楽しんでいただければと思います。
(Interview&Text/水野高輝)
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